掲載日 : [2008-02-28] 照会数 : 5717
<女性コラム>心のこもった言葉を
昔、韓国でアジョシと大喧嘩をしたことがある。当時のアルバイト先にいた60歳近いそのアジョシとは普段から何かとウマが合わなかったが、その日は本当に我慢がならず口論になった。そして最後に彼が言った「スミマセーン(笑)」という日本語の一言の〞言葉〟が大喧嘩の引き金を引いたのである。渡韓1年目のころだった。
辞書によると〞言語〟と〞言葉〟の意味の境界線は非常に曖昧で〞言葉〟の方が若干〞気持ちや思い〟が乗せられているという感がある。例えるなら、言語は白黒テレビで、言葉はカラーテレビの様だと思う。壊れて緑色に映った苺が美味しく見えないように、色の間違った言葉はうまく相手に伝わらないばかりか時に驚くほど傷つける。
もう今となっては思い出の一つだが、当時は韓国語がおぼつかない私のために、そうしたのだろうかと考えてみてもちっとも嬉しくなんかなかったうえに、うまく話せないもどかしさや悔しさが入り交じった、ぐちゃぐちゃの気持ちでいっぱいだった。
国家試験の結果が不安になり、ならば逃亡してやれ! と半ば冗談で行った韓国。合格の安堵もあり結局2年間を過ごしたが、果たして逃亡先は安住の地であったのか。
しかし、いろいろなことを学んだのはたしかだ。使うのは日本語で母国語は韓国語という立場ではあるが、その時々で心のこもった言葉を使っていきたい、と思う。
李慶姫(神奈川県・歯科医師)
(2008.2.27 民団新聞)