掲載日 : [2008-02-28] 照会数 : 6811
舵取り注目…李明博外交
[ 国政ワークショップの参加者たち。右から3人目が李明博大統領 ]
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見直される対北政策
まず半島非核化…経済協力は国民的合意で
李明博政府の対北政策の最優先課題は、北韓の核廃棄である。北韓核問題の解決と均衡のとれた南北関係の発展をめざしている。
大統領職引き継ぎ委員会が5日、李大統領(当時、当選人)に報告・発表した「5大国政指標と192国政課題」の中で南北関係については、①北韓核廃棄の再優先的解決②「非核・開放・3000」構想③韓米関係の創造的発展④南北間の人道的問題の解決などを核心課題としてあげている。
これまでのような「一方的な無条件支援」ではなく、状況により柔軟に対処する「実用的対北政策」を推進する。
李大統領はこの間、「なによりも北韓核問題の完全な解決と韓半島の新たな平和構造の創出のために努める」と統一・外交政策の方向を強調してきた。
北韓核問題の解決のためにはまず、昨年末までとなっていたにもかかわらず越年した、核施設の無能力化と核計画の申告を北韓が早期に完了しなければならない。その後の核廃棄日程の合意など、北韓核問題解決の経過を見ながら、大規模な経済支援事業を推進することにしている。李大統領は「任期中(2013年2月)の韓半島非核化実現」をめざしている。
前政権が進めてきた南北経済協力事業について、李大統領は「非核化を前提に妥当性や経済性、財政負担・能力と価値、国民的合意を総合して判断」し、「優先するもの」、「後にまわすもの」、「できないもの」に分けて推進する方向である。
同時に「今後、南北関係は実質的に発展しなければならず、なにより重要なのは相互信頼だ」と述べ、「『6者会談』の合意内容を誠実に行動に移すなら、本格的な南北協力時代を前倒しできる」と強調。さらに、南北首脳会談について「北韓の核の放棄や南北関係の改善に役立つなら、いつでも会える」と明言している。
「非核・開放・3000」構想は、核問題が解決すれば、国際社会とともに大規模な支援を行い北韓をして開放させ、個人所得を10年以内に3000㌦水準に引き上げるというもの。
同構想の主要内容は経済、教育、財政、インフラ、福祉の5分野からなる。北韓の経済自立のために300万㌦以上の輸出企業100社を育成し、経済・金融・通商・技術分野で30万の新規産業人力を養成する。そのための経済開発協力基金400億㌦を想定、南北協力基金の拡大、国際金融機関による長期低利融資などによる調達が考えられているという。
新京義高速道路(ソウル〜北韓・新義州)など港湾・道路整備に着手、食糧・医療・住宅・上下水道・山林緑化など北韓住民の生活と直結した分野についても積極的に支援する。
このほかに、新たな南北経済協力地区として、漢江と臨津江の河口の韓国側堆積地に人工島「ナドゥル島」(30㌔平方。汝矣島の10倍)を造成し、IT産業および物流団地などを誘致して発展させていくことも計画している。
李大統領は、記者会見などを通じて「核の放棄が政権や住民にとって具体的に利益となるという点を引き続き強調し、説得していく」と述べ、「韓国5000万国民と北韓の2000万住民が核の威嚇の中で貧しく生きることよりは、核を放棄してもっと良い暮らしと人間らしい人生を望んでいるということを両国指導者らは分からなければならない」と北韓側の呼応を促している。
これと関連して、核放棄前でも北韓に対する人道的分野での支援事業は継続する考えである。北の人権については「核問題が最初の関心事項だが、高齢の離散家族の南北自由往来、韓国軍捕虜や北韓に拉致された漁民の問題なども円満に解決することが私の関心事だ」と表明してきた。
韓米関係は創造的発展
韓米関係については、「両国関係が発展してこそ、北・米関係も南北関係も発展する」と「韓米関係の創造的発展」を強調している。
韓米関係を「戦略同盟」へと強化し、北韓核問題の解決のための堅固な韓米共助に加えて、韓日関係および韓中関係の強化を図り、『6者会談』でも北韓の核放棄と対外開放を強く促していく。究極的には、韓半島の非核化と平和体制樹立により、東北アジアの安定と平和に寄与することを目標としている。
これと関連して前政権時に策定された「国防改革2020」の補完と、2012年に予定されている米国からの「戦時作戦統制権移管」の適正性の評価および補完を新政権の推進する核心課題と重点課題のひとつとしている。
李大統領は戦時作戦統制権の移管時期について、今月1日の韓日米3紙との共同会見で「今は韓米間で論議する時ではないが、12年までに南北関係と北韓核問題などの状況に変化がなければ、議論しなければならない事案になるのではないか」と言及している。
昨年10月の南北首脳「10・4宣言」で提唱された韓国戦争当事者首脳による「終戦宣言」については、南北間の軍事的信頼構築がなされ、北韓の核廃棄での「画期的な進展」がない限り、早急には進めない方針だ。
北韓は沈黙続く
北韓の公式メディアは、昨年12月19日の韓国大統領選以降、いまだに李明博氏の当選や今月25日に発足した新政権に関して沈黙を守っている。
北韓は、連日のように昨年10月の南北首脳会談での「10・4宣言」合意事項の順守を韓国側に求め、南北経済協力事業の活性化などを訴えると同時に、韓日米3カ国の協力に反発する報道を流している。だが、李明博陣営を名指しする論調などは配信していない。
新年の党機関紙・労働新聞など3紙共同社説でも「10・4宣言」を強調。その後も、「民族同士」を強調する論調が続いている。
新政権の対北政策を見定めるべく慎重な態度をとっているものとみられている。
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新しい韓日関係へ
「過去」より未来見て…成熟化と実質性を追及
李明博大統領は、韓日関係重視を鮮明にしており、首脳同士が相互に年1回訪問する「シャトル外交」の復活などを通じ未来志向の「新しい韓日関係」の構築をめざしている。
昨年12月21日の福田康夫日本首相との電話会談で、2005年以降、独島問題や歴史認識問題でぎくしゃくしがちだった両国関係の改善・強化に合意した。
李大統領は1月17日、ソウルでの外国報道機関との共同記者会見では、「歴代大統領のように過去問題を取り上げ、日本に対して謝罪や反省を求めるか」という日本人記者の質問に、「成熟した韓日関係のため謝罪や反省をあえて要求したくはない。日本はそのようなことを要求しなくても、成熟した外交をすると思う。韓日関係が未来志向的に進んでこそ、韓半島だけでなく北東アジアの平和・繁栄にも寄与する」と述べ、韓日関係改善への強い意欲を示した。
さらに2月1日の韓日米3紙代表との共同会見で、「歴史問題は専門家が開かれた心で討論すればよい。韓日両国は未来に進まなければならない」と表明。「日本は世界2位の経済大国に似合う成熟した外交が可能だ。歴史問題は日本の判断に任せ、私は未来に向かって進もうと思う」と強調、成熟した関係をめざすことを明らかにした。また、天皇訪韓も「制限があるとは思わない。新しい韓日関係を未来志向的なものにする大きなきっかけにもなるだろう」と語った。
日本の超党派国会議員団との会談(2月11日)でも「韓国と日本が開かれた心で新しい関係を形成していくことが未来のためによい」と表明。「両国関係を一段階高めるために政治、経済、社会、文化などあらゆる分野で実質的に関係を改善することが大切だ」と強調している。
李大統領は、就任後最初の首脳会談を福田首相と行い、05年6月を最後にストップした「シャトル外交」の再開、04年11月から中断している韓日経済連携協定(EPA)交渉の再開・推進などに合意している。
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25日の李大統領就任式参加と韓日首脳会談を前に22日、首相官邸で韓国の在日特派員団との共同インタビューに応じた福田康夫首相は、首脳会談に臨む姿勢について「お互いの理解を深め、さまざまな分野で未来志向の友好関係を深めていくことが大事だ」と述べ、「未来志向」の関係構築を確認したい考えを示した。
その上で過去の歴史認識と関連して「韓国国民の心情をよく知っている。『日本が成熟した姿勢を見せなければならない』という新大統領の発言を重く受とめ、過去から目をそらさず、反省すべき点は反省するという勇気と英知が大事だ」と表明。
さらに「言葉で謝るのがいいのか、未来志向的な方向で全力を傾けた方がよいかは、私が申すまでもないことだ。成熟した両国関係のために日本も努力するが、韓国側の理解や協力も必要だ」と了解を求めた。
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新政府国政運営の基調
キーワードは5つ…変化・肯定・評価・共有・率先
李明博大統領は、大統領就任に先立ち今月16〜17日と18〜19日の2回に分けて、京畿道果川の中央公務員教育院で行われた「李明博政府国政運営に関する合同ワークショップ」で「国政運営基調」を明らかにした。ワークショップ参加者は韓昇洙国務総理候補者、国務委員内定者、柳佑益青瓦台大統領室長内定者、青瓦台各部門首席内定者、大統領職業務引き継ぎ委員会幹事団など。
李大統領が強調したキーワードは「変化」「肯定」「評価」「共有」「率先」の5つだった。
◇変化=「私は常に変化している。1970年代李明博社長、80年代李明博会長、90年代政治家李明博、2000年代ソウル市長李明博と、絶えず変化してきた。私を知りたければ夜遅くに私に会った人に尋ねてみなさい。翌日に考えを再び変えることもある。21世紀は非常に早く変わっており、過去に執着する人は危険だ。
私も人生の最低から最高まで多くの経験をした。世界最高の財閥らと高価な晩餐もし、想像できない貧民街にも暮らした。過去の経験は明日の変化と結び付けなければならない。未来志向的な仕事をしたときに成功する。過去、半導体が何かも知らなかったとき、李秉氏(元三星グループ会長、故人)は、半導体の話をした」
◇肯定=「否定的な批判があるからといって、躊躇すれば何もできない。未来志向的に政策を推進すると国民から理解されないこともある。すぐに支持を得られなくても、いつか『ああ、そうだったのだ』という評価が得られればいい。(支障となっている)電柱を取り除くようにといえば、すぐに支持を得られるが、英語を学習してこそ国際社会で生きていけるという複雑な話をすれば、支持を得られないかもしれない。だからと言ってたじろいではならない。人気迎合的政策を推進すれば、私たちは国家を先進化できない」
◇評価=「青瓦台首席や内閣は『自分の仕事は自分が完遂する』ということが重要だ。評価を受けることを人々は嫌がるが、今後、定期的に6カ月、1年ごとに評価する」
◇共有=「重要な政策は共同責任で討論しなければならない。過去には自分の仕事に干渉されるのを嫌い、他の人に干渉することはタブーだった。しかし、デジタル時代は知識と情報の共有が大前提だ。部処に壁を設け、『干渉すれば悪者』と壁をめぐらしてはならない。知識と情報の共有がなければインターネット時代に生きる必要がない。公職社会の紀綱を変なければない」
◇率先=「全公務員を教育し、クリーンにするには20年はかかる。大統領と長官からクリーンで誠実に仕事をしてこそ(下位者に波及するのが)早い。あなたの配偶者が『この人は変わった』と驚くほど変わらなければならない。青瓦台の人々は献身し奉仕しなければならない」
(2008.2.27 民団新聞)