掲載日 : [2008-03-26] 照会数 : 7016
<生活>朝鮮朝の美、暮らしに 宮原重之さん
[ 宮原重之さん ] [ 宮原さん経営の茶房「李白」のたたたずまい ] [ ひときわ目を引く薬箪笥 ]
魅せられた人たち
朝鮮朝時代の家具や陶磁器、民芸品などに魅せられた日本の人たちがいる。東京・世田谷区で茶房「李白」を営むオーナーの宮原重之さん(79)と、メドゥップ、ポジャギ研究家の鈴木千香枝さん(56、東京・新宿区)もこれらの品々をこつこつと収集してきた。2人を惹きつける魅力について聞いた。
人生さえ変わった
伝統の民具に心なごんで
「調度品だけではなく、建物も含む全体を合わせて朝鮮朝の空間を提供したい」。住宅街の一角にある茶房「李白」。韓国の伝統家屋である韓屋を参考に建てたという店舗と奥に連なる自宅は、独特の雰囲気を放つ。
「李白」は東京の神田神保町で50年の時を刻んだのち、世田谷に移転して4年目に入った。一歩、店内に入ると整然と飾られた朝鮮朝の家具や焼き物、民画の数々が目に飛び込んでくる。静寂な空間とそれらの品々の調和が心地よい。
宮原重之さんと朝鮮朝の骨董との出会いは60年前にさかのぼる。当時、東京・新宿区の大手百貨店に出店していた小さな骨董品屋があった。ウインドーに飾られていた徳利が気になり、毎日行っては眺めた。ある日、店内に足を踏み入れると、1万5千円で売りに出されていた。それまで見たことも知識もなかったが以来、朝鮮朝の物以外、目に入らなくなったというほどその魅力の深さに傾倒していった。
なによりもその優しさ
「それまで日本の伊万里とかには触れてきましたが、朝鮮朝の持つ感性というか自分には合うと思いました。当時はなかなか買うことはできず、美術館巡りや骨董品屋巡りを随分としました。資金があれば骨董品屋もいいところに行けますが、お金のない若いときですから、がらくた屋を探すようなものでしたね」と笑う。
宮原さんが引かれる朝鮮朝の魅力とは美しさはもちろんだが、優しさだと話す。
「優しさが朝鮮朝の全ての物にはこもっている気がします。在日の方ともお付き合いさせていただいていますが、皆さん、本当に優しいんです。それが全ての物に表現されているのかなと思っています。毎日、触れていると自分の感性が優しくなります」
宮原さんのモットーは「朝鮮朝の空間で静かな雰囲気を味わってほしい」ということだ。遠方からわざわざ足を運んでくれる人がいる。「本当にこの時代のことが好きで来て下さる方もいます。なるべくそういう方たちの期待にそえる雰囲気を作りたいし、朝鮮朝の心を提供したい」
「李白」は、白磁の白の意味も込められるが、宮原さんが朝鮮朝時代を「清廉潔白」「質実剛健」と表現するには白だとの思いから命名した。
宮原さんの自宅にも書案(文机)、民画、王室の医局で使われていた薬箪笥など、なかなか目にするこのできない品々が飾られている。
「この机も美しいですよね。木の味といい、ちょっとふんばって安定感があります」と一つひとつ、説明をしてくれるその口調が嬉しさにあふれている。
宮原さんのこだわりは庭の随所にも見られる。手入れはあえてしない。「雑木林が理想なんです。あくまで自然なという感じです」。山野草や無窮花も植えられ、ここでも宮原さんのいう空間が感じられる。
在日同胞に教える文化
宮原さんにとって嬉しいことは、在日同胞が店を訪ねてきて出自を話してくれることだ。特に若い在日には「自分の国の文化をよく見て下さい」と話しかける。
「朝鮮半島は何か特殊な場所のように思います。優しさや美しさは1代や2代ではできません。長い歴史の果てに生まれてきたものだと思います。朝鮮朝の物、空間の全てが私のあこがれです。そういう歴史を持った民族に生まれたこと自体、素晴らしいことです。本当は自分も韓国人に生まれたかった」という思いを語ってくれた。
朝鮮朝の物に出会わなかったら、寂しい晩年だったという。「私には何の取り柄もなかったけれど、出会えてよかったなと思います。そのおかげで人生がどれほど楽しかったか」
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茶房「李白」 東京都世田谷区宮坂3ー44ー5(℡03・3427・3665)。営業時間11〜19時。年中無休。
(2008.3.26 民団新聞)