掲載日 : [2008-04-02] 照会数 : 5631
イルボンで出会いのエッセイ<9> 金益見
一緒のルーツ 親近感大切に
先日、本の出版記念で、トークショー&サイン会を行った。
そこでサインをさせていただいた人が最後に「僕も在日なんです」と言った。
学校で、講演会で、飲み会で、今までに何度こうして声をかけられただろう。そのたびに、面白い程むくむくとわいてくる親近感と、一瞬で近づく距離感。
「僕も在日なんです」という言葉は、言い換えると「私はあなたと一緒です」ということだ。
例えば日本の人が日本で生活している時に、「私も日本人なんです」と話しかけられることは、まずない。でも海外に行くと、電車で隣り合わせた人にそう話しかけられて、突然仲良くなったりする。一緒というのは、人と人をつなげる大きなキーワードなのだろう。またそれが、マイノリティーであればあるほど、一瞬で強いつながりが生まれる。
先日、とても悲しいことがあって涙が止まらなくなってしまった。しかし、その日は、私が所属している済州島の会の総会だった。その席で悲しかったできごとを思い出した。会場で泣いてる女性がひとり…非常に変である。
懇親会になっても涙が止まらず、会員のおじさん方は(9割おじさんで構成されている会なのだ)。「花粉症か? 大丈夫か?」と心配してくれ、「寿司を食べろ! 寿司は早く食べな、なくなるから!」とすすめてくれた。
「ビールよりお茶がええか?」とウーロン茶を持って来てくれて「ここのエビチリは大きいから!」とエビチリも分け合って食べた。
そうしているうちに気持ちが落ち着いてきて、お腹がいっぱいになるといろんな気持ちがこんなに穏やかになるのだと、料理をすすめてくれたおじさん方に感謝した。
新入会員の私は、ほとんど誰が誰なのかわからない。唯一わかっているのは、ここにいる人がみんな済州島出身だということだった。
「なんか、ありがとうございます」と隣にいた名前も知らないおじさんにお礼を言うと、その人は「娘みたいなもんやがな」と笑った。
〞私には、名前も知らないお父さんがこんなにいるんだ!〟
自分と一緒のルーツを持つ人たちがここにいる。この親近感を大切にしたいなと、私は思った。
(2008.4.2 民団新聞)