掲載日 : [2008-04-02] 照会数 : 4944
祖国統一問題への視点(1) 在日同胞の立場から
[ 2000年8月、ソウルで再会する南北離散家族
]
[ 自然石に刻まれた38度線のモニュメント=江原道高城 ]
民族と東アジアの絶対課題
韓半島南北にそれぞれ政府が樹立されて60年になろうとしている。分断の歴史は長く、その分、積み重ねられてきた悲劇や苦痛も重い。韓国では、この10年の対北政策を見直す李明博政府が登場し、新基軸を打ち出しつつある。新政府の出方を見極めていた北韓は、激しい対南非難をもって応え始めた。建国60周年に向け、分断の経緯や両政府の正当性をめぐる論難も相まって、南北間あるいは韓国内で応酬の増幅が予想されよう。これらは、解放後から今日に至るまで、南北分断の政治的な影響から自由ではない在日同胞社会にも、大きな影響をもたらす。祖国統一問題に、私たちはどのような見方を持ち、また如何にかかわるべきなのか。
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はじめに
平和・民主が最優先
国際協調の中に「自主」も
祖国統一は韓半島に生きる人々の安全と繁栄を、700万ともされる在外同胞の安寧を、さらには東アジアの恒久的平和と発展を、それぞれ担保するものとして、わが民族の絶対課題である。
国土の分断のために、内外同胞の社会的安全は損なわれ、南北の経済的活動にも大きな負荷となってきた。他律的なものであったとはいえ、韓半島の分断は、東アジアの軍事的緊張と政治的紛争の温床であり、私たちにはこれを主体的に解消する責任がある。祖国統一は、内外同胞の幸福のために、さらには国際社会の一員の義務として、必ず成し遂げなければならない。
しかし、統一問題はその重大さゆえに、政治権力の利用物とされてきた歴史がある。
この場合の「権力」とは、単に国家権力だけを意味しない。党派やグループ、さまざまな階層もまた、社会を構成する個別の利益集団として、それぞれが権力体を形成している。混迷が続くパレスチナ問題の例を引くまでもなく、社会内部の矛盾と周辺諸国の利害対立にもとづく、勢力争いの主題として統一問題は存在し続けた。
この事実は、統一問題が本質において、冷徹で合理的な利害調整の課題であって、盲目的な「至上課題」ではないこと、ロマンチックな動機によって軽はずみに扱い得るものではないことを示す。それとともに、統一を叫びながら、現実には統一を阻害する言動が存在し続けてきた理由をも説明する。
無理解が招く安全保障危機
統一を声高に主張する者が必ずしも「統一勢力」でない。打算的な確信犯でない場合でも、事実上は反統一的な存在に堕している例に事欠かない。多くの場合、統一問題に対する彼らの理解が観念的、または情緒的であったために、外部のイデオロギーあるいは政治権力の思惑に利用されてきたからである。
韓国が引き続き、深刻な安全保障上の危機にさらされているのは、誰の目にも明らかであろう。危機の原因のひとつは、統一問題に対する一部の無関心や無理解にもとづいている。より重要な原因は、民族統一という超国家的な課題が、国家内部の内政上の課題にご都合主義的に結び付けられていること、党派間の権力闘争に不正にリンクされていることによる。
民団を揺るがした06年の「5・17事態」は、その延長線上に起きた。一部勢力が限度を超えて、北韓権力と韓国内の親北勢力に迎合しようとしたのだ。もしこれが成功していたなら、民団は、北韓工作網の末端組織に転落していたであろう。
権力の策動は在日社会へも
民団の「4・24および5・17事態調査委員会」は調査報告書で、「民団・総連5・17共同声明」は、6・15共同宣言実践を名目に掲げ、北韓の高麗連邦制案にもとづく統一戦線に民団を組み込もうとする策動であったと指摘した。在日同胞社会や民団といえども、統一問題をめぐる特定政治権力の利害と無縁ではないこと、むしろ身近にあることを改めて示したと言えよう。
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目的と原則
統一問題に対する無関心や無理解は克服されなければならず、統一問題の党派的利用は排されなければならない。私たちは、統一問題の観念的・情緒的な理解から脱皮するために、問題の歴史性と事実関係をより広範囲に知るとともに、そこには必ず守られるべき諸原則のあることをわきまえる必要がある。
まず、民族統一の目的が何であるかを踏まえ、統一問題の諸原則について検討する。
対北支援には相互主義貫け
分断による対立は軍事的緊張を強い、南北の政治・経済・社会のあらゆる分野を圧迫してきた。政治的に不寛容な土壌のなかで、軍事的・警察的な公安費用は南北で直接・間接に、国家財政の2割から3割に達した。貧しいサラリーマンが毎年の俸給から3割を、マイホームのためのローンにではなく、ガードマンの費用に当てざるを得ないことを想像してみよう。兄弟争いのために、それが半世紀以上も続いた。
国土の再統一は、民族成員の安全と幸福を確実かつ飛躍的に増進する。統一の目的はここにあり、ゆえに手段は厳しく規定される。
現代の国際環境における民族統一の事業にあって、一時的にせよ同胞の安全を犠牲にする恐れのある賭博的な手段は許されない。1950年に勃発した韓国戦争が与えた教訓である。このことは単に軍事的な手段を否定するだけでなく、統一に向かう二つの国家のあり方も規定する。統一に向かう国家は、軍事国家であってはならず、平和的でなければならない。
したがって、「永続革命」を盾にして「先軍政治」を強行し、「生存権」を理由にして核兵器を開発する北韓権力の在り方は、統一を阻害するものと規定される。統一勢力の力量は、北韓権力の「先軍政治」の解消と核兵器の廃棄に向けられなければならない。また、南北交渉と対北支援は、北側の自助努力を促すためにも、このことを明確に意識した「相互主義」で行われるべきである。
同時に、軍事的な手段が否定される以上、理性的な寛容の精神にもとづく和解が前提であり、統一実現後、それ以前の如何なる言動も免罪されなければならない。この原則は、統一推進過程においても規範とされるべきであり、特定の前歴がゆえに統一推進への参与が拒絶されてはならない。「過去事糾明」といった報復プログラムがあってはならず、党派的な利害によって特定個人や集団の過去を政治的に攻撃することは許されない。
統一の目的は民族の成員すべての安全と幸福を増進することにあり、この目的がすべての手段を平和的なものに限定し、統一問題を党派的な利害に従属させることを許さない。したがって、統一への努力は基本的に、時々の最高権力の、恣意的な意向から自由でなければならない。この「自由」は、南北権力の統一政策に対する批判的な見解の公然たる表明によって実証される。
祖国統一は、持てる側の自己犠牲をともなうものであり、民族的な熱情なくしてそれを許容するのは困難だ。統一は同時に、極めて政治的かつ実務的な課業であり、実現に近づけば近づくほど、高度な政治判断と行政能力の比重が高まる。この二つの要素、つまり必ずしも合理的とは限らない民族的な熱情と、合理性が要求される政治判断とが相反する可能性も否定できない。
合意積み重ね透明性確保を
したがって、高度な政治性と行政能力が要求される統一実現時の最高権力は自ずと、民族的な熱情に基礎を置きつつも結局は合理的な判断として現れる国民の総意と一体化しなければならない。これは、対北・統一政策の透明性の確保と国民的な合意の積み重ねによってのみ育まれる。不断の民主主義的な努力が欠かせない。
分断を強いた東西対立構造が崩壊したとはいえ、韓半島には現在もなお、歴史が証明してきたところの地政学的な制約が働いている。その制約は一方に、脅威となる大量破壊兵器が温存されている場合、より強いものとなる。統一実現の努力は自ずと、国家主義の独善を排しつつ、周辺の政治的環境にも適切に配慮したものにならざるを得ない。その緻密な工夫のなかにこそ、「自主」が存在する。
人々の安全と幸福を踏みにじり、国際的な協調を無視した「自主」は、権力の独りよがりの自滅に向かう「自主」に過ぎない。
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過去10年
原則崩し支援に偏重
90年代前半、北韓は深刻な飢餓に陥った。この飢餓も東欧圏の解体も、スターリニズム権威主義による強権体制の結末であった。この時の韓国には、北韓に対していくつかの立場があった。放置して枯れ死を待つべしという立場。少なくとも人道支援は行うべしという立場。積極的な支援と関与で、経済発展とともに体制変化を促すべし、という立場であった。
第二の立場は、韓国国民の一般的な心情を代弁していた。この心情への配慮を怠った第一の立場は、典型的な保守層のものであり、二度の大統領選挙に敗北する一因となった。第三の立場は、第二の立場を引きつけて国政を掌握した。
しかし、第三の立場には北韓の統一戦線戦術に利用されかねない危険性が内在していた。その危険を回避するために、南北交渉と対北支援において、支援の効果を確認しながら作業を進める、「相互主義」の原則を貫く主体性が要求されていたのである。
その杞憂は現実となり、第三の立場はやがて支援そのものを自己目的化し始めた。北韓に核実験を許した責任の一端も、その過程にあったことは否定できない。北韓が核実験のプログラムを強行するに当たり、韓国側の継続的な支援を勘定に入れることができたからだ。国民の離反が明らかになるにつれ、第三の立場は政治的劣勢を挽回するため、南北交渉の進展を政争の道具に換えるまでに変質し、そして大きく後退した。
2月25日に出帆した李明博新政府は、太陽政策、包容政策、共同繁栄政策などと称されたこの10年の対北政策の見直しを進めてきた。これからの対北政策は、核問題を解決し開放への道を選べば、国際社会と協力して北韓住民の所得を10年以内に3000㌦水準に引き上げるという、「非核・開放・3000」構想が軸になる展望だ。
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統一部の「南北関係発展実行計画」
国民合意と実効性を重視
統一部は2008年度「南北関係発展実行計画」の目標を「実用・生産性」に基づいた「共生・共栄の南北関係発展」と設定し、これを達成するための「3大目標」と「12大課題」を提示した。概要は以下の通り。
同計画の基本方向は、南北関係の発展と韓半島の平和増進努力を強化することで、韓半島の状況を安定的に変化させ、経済の再躍進に有利な環境をつくることにある。
一方、この間の統一政策推進過程で提起された国民的な批判を受け、実用的で創意的な接近を通じ、生産性のある南北関係を追求する方向で統一政策の推進方式を転換していく。
これにともない、統一政策推進の4大原則を△実用と生産性を原則として徹底(非核化、南北対話)△柔軟な接近△国民合意△国際協力と南北協力の調和と定めた。
また、実用・生産性を判断するため、対北政策の5大実践規準も以下のように提示した。△国民が同意するのか△費用に見合う成果があるのか△北韓住民の生活向上の助けになるのか△北韓の発展的変化を促進できるのか△平和統一に寄与できるのか。
具体的な実践課題と関連し、統一部は経済活性化のために南北経済協力の推進次元で「資源開発協力」を北韓地域に拡大し、国内資源難の解消をはかる一方、南北経済協力企業などの収益性向上のための隘路を積極的に解消していく。
さらに△80歳以上の高齢離散家族問題の解決を推進△国軍捕虜・拉北者問題の最優先的解決の推進など、人道的な問題の解決に積極的に取り組む。
(2008.4.2 民団新聞)