掲載日 : [2008-06-11] 照会数 : 5599
統一問題への視点(5) 在日同胞の立場から
[ ヨルリンウリ党の鄭東泳元議長の支持団体発足式で、子供合唱団が「国家保安法廃止」の主張を盛り込んだ歌を歌っている(字幕には「統一の道を阻む保安法をなくして」とある=07年1月) ]
攻撃的な労働党規約(上)
「統一戦線」に注力…韓国は防衛的な規律のみ
北体制の対南拡延が義務
根強い論難 国家保安法
韓国の治安立法の一つに、「国家の安全を危うくする反国家活動を規制することにより、国家の安全と国民の生存および自由を確保することを目的」とした「国家保安法」がある。言うまでもなく、北韓が韓国内に親北勢力を植えつけ、自らの対南工作に連動させる動きを阻止しようとするものだ。80年の全面改定と5回にわたる部分改定を経て今日に至っている。
同法が定義する「反国家団体」とは、「政府を僭称し、または国家を変乱することを目的とする国内外の結社または集団であって指揮統率体制を整えた団体」だ。「反国家団体」の首魁は死刑または無期懲役、幹部その他の指導的任務に従事した者も死刑・無期または5年以上の懲役に処される。
同法には但し、「この法律を解釈適用する場合には、目的達成のために必要な最小限度にとどめなければならず、これを拡大解釈し、または憲法上保障された国民の基本的人権を不当に制限することがあってはならない」との項目がある。これは91年5月に新設されたもので、同法が国家保安の目的から逸脱し、政権維持の道具にも用いられてきた歴史があることを認め、それに終止符を打ったものだ。
しかしその後も、同法に対する論難は根強い。自由民主主義社会にあるまじき治安立法として、とくにこの10年、廃止論議が高まったことはよく知られている。盧武鉉前大統領は04年9月、「国家保安法は韓国の恥ずかしい歴史の一部分であり、今は使いようのない独裁時代の古い遺物だ」と述べ、大統領として初めて廃止論を提起した。
現職大統領やその与党、ヨルリンウリ党の廃止攻勢にもかかわらず、国家保安法が存続したのは、大法院(最高裁)が合憲判断を下し、判決文で同法の必要性を説いたばかりか、野党ハンナラ党が決死反対を貫き、世論の大勢も廃止に反対もしくは慎重な姿勢を見せていたからだ。そして昨年末の大統領選挙とこの4月の総選挙の結果を経て、廃止論議は大幅に後退した。だが、時流・時局によってこの問題はいつでも再浮上する。
国家保安法は、北韓の総力を傾けた対南撹乱・包摂工作の圧力に抗する側面と、時の政権への批判を封じ弾圧する側面とを併せ持ってきたことは否定できない。北韓の工作組織摘発を民主化弾圧と誤解されもすれば、民主化弾圧を北の工作網摘発であるかのように偽装することも可能だった。歴代政権にとって同法はジレンマの温床であり、ジレンマはまた都合のよい隠れ蓑でもあった。
強力な統制 社会安全法
しかし、一つだけはっきりしていることがある。国家保安法はあくまで、防衛的な内部規律だという点だ。北韓にあってこれに対応するのは、「社会安全法」である。これも内部規律として、国民の活動に限界を設けており、その統制力は国家保安法より強力だ。しかしここでは、その上位にある国家政党=朝鮮労働党の規約を問わねばならない。これは、北韓体制を韓国に拡張することを主任務として党員たちに義務付けている。この労働党規約は、韓国にはない極めて攻撃的な規律である。
北韓は憲法によって「朝鮮労働党の領導下」にあると規定されており、同党は強固な一党独裁体制を敷いている。この労働党が80年の第6回党大会で改定した規約では、前文でまず、「朝鮮労働党は、唯一偉大な首領・金日成同志の主体思想、革命思想により指導される」ことが初めて明記された。これをしっかりと念頭におきながら、同じ前文に盛り込まれた次のような文言に注目すべきである。
「朝鮮労働党の当面する目的は、共和国北半部において社会主義の完全な勝利を成し遂げ、全国的範囲において民族解放および人民民主主義の革命課業を完遂することにあり、最終目的は全社会の主体思想化と共産主義社会を実現することにある」「朝鮮労働党は、労働階級の指導的役割を高めることによって、労農同盟を基礎に全朝鮮の各界各層の愛国的民主勢力との統一戦線を強化するために闘争する」
ここに言う「全国」・「全社会」に、韓国が含まれることは言うまでもない。要するに労働党の当面目的は、主体思想と称される統治理念を韓国に拡大し、「共産主義国家」として統一を果たすことにある。しかもその方式として、韓国の「愛国的民主勢力」との「統一戦線」の強化が強調されている。
国家保安法や労働党規約・社会安全法のいずれも、対決一辺倒の時代の遺制と言える。南北の交流・協力が決定的に後退することは考えにくくなった現状にあって、南北双方に不都合が生じているのは明らかだ。しかし、さらなる和解の推進を理由に、国家保安法を廃止するのであれば、社会安全法の廃止を抱き合わせにするのはもちろん、労働党規約の攻撃的な条項の削除が大前提になるべきは論をまたない。徒手空拳の者と鎧や剣で武装した者との握手は不可能である。
親北を自ら認める行為
しかし、韓国国内や在日同胞社会で民主化や南北和解促進を理由に国家保安法の廃止を唱える勢力は、労働党批判をタブーとして社会安全法や労働党規約の攻撃性にも一切触れようとしない。西ドイツの左派勢力が、東ドイツを支配したスターリニズム権力を社会主義への裏切りとして厳しく批判したのとは大違いだ。彼らが北韓の言う「愛国的民主勢力」であり、労働党の「統一戦線」に組み込まれた存在であることを自ら証明するものであろう。
朝鮮労働党は現行規約を採択した6回大会以来、一度も党大会を開いていない。韓国を主体思想で飲み込もうとする攻撃的な党規約は、同党結党以来の対韓政策の集大成であり、字面だけでなく現実の指針として生き続けている。
(2008.6.11 民団新聞)