掲載日 : [2018-08-22] 照会数 : 6390
【寄稿】朝日新聞社の不可解な「回答」
「民団新聞」電子版の「コラム・特集」に掲載された私の「寄稿」(7月20日)=「説明・訂正なしはなぜ? 朝日新聞 整合性欠く『休戦協定』記事・解説」を見た日本の大手紙記者から、「新聞社は外部からの指摘がなければ、自らを正さない。特に『朝日』はその傾向が強い。一度読者として、訂正を提案されてはいかがですか」との助言があった。
さっそく、7月29日に朝日新聞社広報部に「寄稿」と同一内容をFAXで送ると同時にメールで「最近の一連の記事・解説は、整合性を欠いているのみならず、大きな誤りを含んでいる」と指摘、「読者をして、誤読・誤解、そして混乱させることのないよう、事実の正確な報道・解説を望んでやまない」と要望した。その回答(8月14日付)が15日に郵送されてきた。
「回答」は一言で言って不誠実かつ不可解なものだった。
①「南北朝鮮と国連軍、中国の4者は停戦(休戦)に合意」との記事と「韓国は休戦に反対した」との解説のどちらが事実なのか
②休戦協定を結んだのは誰か。国連軍総司令官、北韓(北朝鮮)軍最高司令官および中国志願軍司令の3者であり、「米国・北朝鮮・中国3者」とするのは誤りだ
③休戦協定と韓国との関係について。国連軍の指揮下にあった韓国は米国などほかの国連軍参戦国と共に法理的に休戦協定の当事者だ
④なにを根拠に、南北首脳「4・27板門店宣言」をも無視もしくは軽視するかのような、「韓国抜きの平和協定転換可能論」を主張しているのか―
―などの私の質問や指摘には何一つ答えていない。その代わりに、質問していない「韓国の朝鮮戦争の当事者性」についての自社の見解表明をもって「回答」だとしているからだ。
【朝日新聞社の「回答」全文】
「先日お送りいただきました『説明・訂正なしはなぜ? 整合性欠く「休戦協定」記事・解説』について、以下、弊社としての見解をお答えいたします。/弊社としては、韓国が朝鮮戦争の『当事者ではない』との認識は持っていないことを、ご理解いただけますと幸いです。一方、この問題をめぐっては、国際法上、様々な解釈があると考えており、今後も表現などには最大限の注意を払って、韓国政府の立場にも留意しながら、史実に基づいた記事を掲載していきたいと考えています。/回答は以上です。よろしくお願いいたします。」
「東問西答」の典型
前述のように、私が問題を提起し朝日新聞社に質問して説明を求めているのは韓国戦争(朝鮮戦争)の「休戦協定」に関してであり、「韓国の朝鮮戦争の当事者性」についてではない。
「寄稿」の冒頭は「韓国戦争(朝鮮戦争)の休戦協定についての『朝日新聞』の最近の一連の記事・解説は、読者の理解を助けるどころか、まちがった認識を与えかねない」と強調。結びでも「韓国戦争の休戦協定に関して『大きな誤り』を含み、読者をミスリードしかねない前述の記事・解説」云々と明記していることからしても、そのことは明らかだろう。そもそも「韓国の朝鮮戦争の当事者性」云々の文言はどこにも入っていないのである。
「回答」は、「休戦協定」関連記事・解説を担当した記者とその所属部・グループのデスクらの検討を経て、社の「見解」としてまとめられたものだろう。複数の専門・ベテラン記者ら全員が、私の質問・指摘を「誤読」したとは考え難い。なぜ論点をずらし、「東問西答」の、質問とはまったく関係のない「回答」をよこしたのか。
「東京電力福島第一原発事故に関する記事の取り消しなど2014年の一連の問題の後、どんな小さな誤りもきちんと正そうという社の方針」(同紙17年1月24日「パブリックエディターから」)とは反していないか。
◆改めて「誠実対応」求む
朝日新聞社には、7月29日に送付した私の「質問」に誠実かつ速やかに答えてくれるよう改めて要望する。「説明も訂正も必要ない」との見解であるならば、その理由を明確に示してほしい。
たとえ一人の読者からの疑問の声であろうと、その疑問が根拠あるものならば、誠実に対応し、また記事や解説に「誤り」があるならば、速やかに訂正する―。それこそ責任ある新聞社の当然とるべき態度だ、と考えるのは間違いなのだろうか。
なお、「回答」では「韓国の朝鮮戦争の当事者性」をめぐり「国際法上、様々な解釈がある」としている。だが、事実だろうか。現在、北韓、中国、米国、日本、ロシアなど韓国戦争関連周辺国はもとより世界主要国の中で「韓国の朝鮮戦争の当事者性」を問題視している国はないはずだ。当事者性を問題視している有力国家・国際法学者らの名前と合わせてどのような「解釈」なのかを、ぜひ教えてほしい。
日本新聞協会の「新聞倫理綱領」は、新聞の責務について「正確で公正な記事と責任ある論評」を強調、同時に「読者との信頼関係をゆるぎないものにするため、自らを厳しく律し、品格を重んじなければならない」とうたっている。
朴容正(元民団新聞編集委員)