掲載日 : [2004-09-08] 照会数 : 6150
<SPECIAL WIDE>在日同胞社会の和合へ(04.9.8)
[ 金宰淑団長と総連中央本部の徐萬述第一副議長(当時)の初の握手が実現した(00年11月24日、朝鮮奨学会創立100周年記念レセプションで) ]
民団・総連 中央の和解こそ機軸
全国組織の責任重い…高レベル協議で推進力を
相互かく乱の要素除いて…共同体的な特性生かそう
民団中央本部の金宰淑団長は朝鮮総連に対して、8月15日の第59周年光復節中央式典での慶祝辞を通じ、来年の第60周年光復節には両団体で共同祝賀行事を開催しようと呼びかけた。また、和合の象徴的な事業として両団体代表団のソウル・平壌共同訪問、在日同胞社会の諸懸案解決に協力するための両団体による常設協議機構設置などを提議した。この慶祝辞に内外の反響は大きく、和合に向けて期待が膨らむと同時に、当面の隘路や緊要課題は何なのかを広く周知すべきだとの声も高まった。在日同胞社会の特殊性を踏まえ、和合のための隘路・課題を整理しておきたい。
在日の特殊性とは
8月26日に開かれた今年度後半期全国地方団長・傘下団体長会議は、金中央団長が正式に提議した朝鮮総連との和合・交流問題が主要案件となった。会議では、各界各層からなる「光復節60周年記念事業推進委員会」を発足させ、和合・交流事業の推進問題を柱にした研修会を全国的に展開することを確認した。(詳細は本紙8月31日付)
金中央団長はこの日の冒頭あいさつで、「在日同胞社会の和合とは、つまるところ民団、総連という、相対立してきた2大組織の中央機関を中心とした、全体組織としての和解が機軸になるほかない。これがあってこそ、全同胞社会の将来に責任が負えるからだ」と強調した。
この認識には、在日社会の特殊性と和合のための隘路・課題を踏まえた確信が含まれている。なぜ、「2大組織の中央機関を中心とした、全体組織としての和解が機軸」になるのか、その点を中心に吟味しておく必要があろう。
在中在露とも歴然と異なる
在日同胞社会の際立った特徴の一つは、多くの同胞が祖国南北の国籍を継続維持してきたこと、いま一つは、南北に対応する形で韓国民団、朝鮮総連という2大組織が併存し、激しく対立してきたことだ。総数600万を超すという海外同胞社会でも、在日以外にはまったく見られない歴史であり、現実である。
ただ、民団と総連の対立は、南北の相克が厳しくなるにともなって激化したのは事実としても、祖国の分断によってそれぞれが自動的に系列化され、操られたからだと単純化するのは明らかな間違いだ。南北の政権樹立以前からあった在日社会の特殊性を無視してはなるまい。
その独特の性格は、韓日併合以前から移民が始まり、その後も移民中心に形成された在米同胞社会はさておき、植民地化前後の流民を中心に築かれ、日本の大陸侵略に大きな影響を受けた在中、在露同胞社会と比べても歴然としている。
1880年代初頭から中国東北部に生活拠点を築いた在中同胞は、植民地下の中日戦争時代は民族派、親中派、親日派に分裂して争い、国共内戦時代は中国共産党とともに、親日派残党、親国民政府派、親李承晩(韓国初代大統領)派を駆逐した。国籍は現在、極少数の北韓籍者を除いてすべて中国籍だ。
在露同胞社会は19世紀初期の洪景来の乱にともなう流民に始まるとされ、旧ロシア時代は帰化者と非帰化者が対立、革命期は白軍・赤軍に分かれての殺戮戦も経験した。スターリン政権下では中央アジアへの強制移住という辛酸をなめ、ソ連崩壊後は故地・沿海州への帰郷が進んでいる。現在はやはり、ロシア国籍拒否者が例外的に存在するのみだ。
植民地支配の影響最も濃い
在中・在露同胞社会との比較から、在日社会の特殊性は次の四つの要素から形成されたと見ることができる。
第一に、在露・在中社会が植民地化以前から形成されていたのとは違い、植民地政策の影響を最も直接的かつ強く受けて派生した。
第二に、軍国主義的な統治が徹底し、分裂・革命どころかまともな政治活動すら困難な支配国・本国に存在した。
第三に、多民族国家の旧ソ連・中国と異なって排他的な単一民族国家史観に立ち、少数民族政策をもてない国に形成された。
第四に、旧ソ連・中国に対抗する東西冷戦下で、日本は韓国とともに西側にありながら、アジア侵略戦争の反動もあって長期にわたり左派勢力が強力だった。
これらの要素の相互作用によって、在日社会に育っていたのはまず、ある種のまとまりのよさである。
解放以前の同胞社会にも民族派、親日派があり、共産主義者や無政府主義者がいて思想・信条は多様でも、徹底した弾圧下で政治運動が地下に潜っていたこともあり、在中・在露社会のような凄まじい内的葛藤は体験していない。同胞たちは差別・酷使の対象として人間性を否定され続けたことから、支配者・日本との対抗を何よりも優先し、同胞共同体としての絆を重んじる環境にあった。
解放直後の45年10月という早い時点で、自然発生的に誕生していた主な同胞団体だけで300余を数えていたにもかかわらず、思想・信条を超えて朝連(在日朝鮮人連盟)に結集したのはそのためだ。
次に重要なのは、支配国・日本との戦いを通じて、政治的・組織的に最も鍛えられていた同胞集団が左翼勢力だったことである。
左右分裂への必然的な要素
戦時下や敗戦直後の共産主義運動・労働運動の担い手は同胞たちであり、朝連結成を主導し、指導部を牛耳ったのもこの勢力であった。日本共産党朝鮮人部を中核とした彼らは、在日同胞の運動方向について、民族問題は階級闘争に従属しなければならず、両者が矛盾するときは階級的利益のために民族的利益を捨てなければならないとするなど、当時の国際共産主義運動の指導路線に基づいていた。
朝連のこうした左傾化に反発し、46年10月に創立されたのが民団だ。韓国政府が樹立される2年前のことである。朝連系内部の葛藤、紆余曲折を経て、朝鮮労働党の指導下に入る方針のもとに総連が結成されたのは55年5月であった。
この時点で初めて、韓国‐民団、北韓‐総連という構図が成立したのである。いわば在日版55年体制だ。民団と総連には9年という時間差があったものの、当初の朝連路線から袂を分かったという側面で共通性を持っている。
思想・信条によって同胞を組織化し、民団・総連という2大組織が対立・併存したのは必然的であったと言うほかない。しかも往時の同胞のほとんどは、帰国を前提としていたばかりでなく、差別・排外主義を捨てない日本に対決するためにも富強な祖国を熱望し、信じる組織に結集することで祖国との一体感を求めていた。
したがって、昨今の〈在日同胞中心主義〉の立場から、対立・併存の歴史を批判することに対し、今にして言える理想論と一蹴することは容易だろう。しかし、南北首脳会談が実現して4年以上が経過し、南北に各種協議機構が設立されているにもかかわらず、民団・総連のトップ会談はもとより、双方の中央機関の協議機構すら設立されないことに、民団・総連はいかなる批判にも甘んじなければならない。
最優先課題は何か
民団と総連の関係は、祖国南北のそれに比べて大きく遅れている。このままでは、世代交代が進み価値観が多様化する同胞社会に、失望をさらに広げることを恐れなければならない。金中央団長は慶祝辞でそのことを強調している。
ここで、「中央機関を中心とした、全体組織としての和解が機軸」ということの意味を確認したい。
中央レベルの和解の機熟す
91年の世界卓球選手権大会で、分断後初めて結成された南北単一チーム「コリア」を共同応援して以来、民団と総連の地方レベルの交流・和合事業は活発に展開されてきた。総連も「各県本部や支部、同胞たちの生活単位では統一のための活動と共同の事業が幅広くおこなわれて」(総連中央事務総局長の「祖国光復59周年に際して」の8月13日付コメントから)いることを認めている。中央単位での共同事業の機はすでに熟した。
これを大前提に、二つの側面から「中央機関中心」の必要性が高まっている。
第一の側面は、民団・総連は依然として2大組織であり、同胞社会に大きな責任を負っているという現実だ。
民団・総連に対抗する第三極をつくろうとする動きは一貫してあったが成功していない。近年では韓国籍、朝鮮籍、日本籍にかかわりなく、また主義主張を超えて、在日コリアンとして連携を模索する動きも強まってきた。
しかし、そうした流れはある程度の盛り上がりは見せても、組織的に収斂される可能性は低く、今後とも長期にわたって民団・総連に肩を並べる組織が形成される展望は見えない。
両組織の動向が同胞社会の将来を大きく左右する状況に変化はない。総連が「祖国の統一と在日同胞社会の団結を促進させる上において民団との関係は重要な懸案」(前出の事務総局長コメント)であると言明しているのもその自覚の現れであろう。
在日の本然は共同体にこそ
第二の側面は、2大組織の和合が実効をもたらすためには、祖国統一に劣らず高度な政治性と実務性が要求されていることだ。
民団・総連は在日同胞社会という同じ基盤に立つがゆえに、多くの共通する問題を抱えている。核問題や拉致問題で民団と総連の見解は異なるものの、日本社会の風圧は民団系と総連系を問わず襲いかかった。わが民族と日本との歴史認識摩擦が強まっている影響もある。日本の伝統的な排外・差別、抑圧・同化の対同胞政策の本質に、改めて目を向けないわけにはいかない状況がある。
民団が今回再び、民族的な誇りを堅持しつつ生活権を拡充する課題に協同すべく、両団体中央機関の常設協議機構の設置を提議したのはそのためだ。両団体の和合問題は、親睦を中心とした雰囲気醸成の段階で、いつまでも足踏みをしてはいられない。
それぞれ主義主張を持ち、対立の長い歴史を歩んできた全国組織と全国組織である以上、中央機関の間に信頼関係が構築されなければ限界がつきまとう。無原則的な和合に陥ることや、撹乱工作、つまらぬ思惑が混入する可能性を互いに排除し、和合を全同胞的かつ効果的に推進するために、秩序・システムを確立する中央機関の和解・協議が最優先されなければならない。
在日同胞社会の特殊性として、相矛盾する二つをあげた。一つは、祖国分断にかかわりなく左右分裂の源があったこと、もう一つは、同胞共同体としてのまとまりのよさがあったことである。
左右対立はすでに過去の遺物になった。植民地支配が実質化した乙巳条約100周年、解放60周年を迎える来年、もう一つの、在日社会が本然として持っていた共同体という原点に、立ち返る意義は大きい。
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盧政権の平和繁栄政策(資料)
東北ア安保を構築…「北韓核」の解決を土台に
韓国政府の「平和繁栄政策」とは、統一・外交・安保のすべてを包括する韓半島平和発展の基本構想であり、韓国を東北アジアの経済中心国家へと導く戦略的な構想である。統一部国際協力担当官室発行のパンフ「盧武鉉政府の平和繁栄政策」から要約して紹介する。◇
平和繁栄政策とは、周辺国家と協力して当面の北韓核問題を平和的に解決し、これを土台に南北の実質協力増進と軍事的信頼を醸成、朝米‐朝日国交正常化の支援を通じて韓半島平和体制を築き、南北間の共同繁栄を追求し、平和統一の実質的な基盤を造成して、東北アジア経済の中心的国家を建設する土台を整えようとする戦略的な構想だ。
まず当事者原則
冷戦時代において南北は、互いに相手を孤立させることにより、相手の発展を阻害する敵対的・破壊的な関係を維持してきた。脱冷戦という国際的な流れと6・15南北頂上会談などで韓半島に「平和定着」という新たな挑戦の機会が訪れたものの、不安定な停戦体制と軍事的対峙によって緊張と葛藤が続き、偶発的な武力衝突の可能性が常に存在している。韓民族7千万人の生命と安全、そして東北アジアの安全と平和を脅かす北韓のいかなる核開発も許されない。
このような現実を踏まえて、あらゆる葛藤と懸案は必ず平和的に解決するという原則を定めた。また、韓民族の「共滅」を招きうるいかなる形態の戦争にも反対し、武力の使用は最後の防御手段としてのみ認める。
歴史的・地政学的に見れば、韓半島は政治・経済などあらゆる側面で大陸と海洋地域を結ぶ橋渡しの役割が可能であり、アジアと世界の中心国家として跳躍できる無限の可能性がある。したがって、平和繁栄政策は韓半島の繁栄を実現させるだけでなく、東北アジア地域の近隣諸国との共同繁栄も追求する。
韓半島の平和体制構築及び南北経済共同体の形成などは、当事者原則のもとで南北が協議しながら推進する一方、東北アジア地域が異なる政治体制と経済状況、文化と価値観を持つ国々で構成されていることから、互いを認める土台のうえに十分な理解を築き、相互信頼と互恵主義を優先する。
国内的には国民的合意を土台に、法と制度で透明性を維持しつつ、平和繁栄政策が国論分裂(南南葛藤)の原因にならないよう、与野党、国会との協力を制度化し、超党派的な合意を形成する。
戦略は3段階に
韓半島の平和体制構築とは、不安定な停戦状態を平和状態に転換し、南北と対外関係においてこれを保障する制度的発展が成し遂げられた状態だ。その推進戦略は3段階ある。
第1段階「北韓核問題の解決と平和増進の加速化」は、▽核問題平和解決の転機を造成▽南北和解協力の持続及び南北軍事会談の定例化▽南北首脳会談などを通じた平和定着の土台準備▽外交力量強化による東北アジア平和協力ムード造成▽北韓核・ミサイル問題解決の合意。
第2段階「南北協力の拡大と平和体制の土台準備」は、▽北韓核・ミサイル解決のための合意事項の具体的な履行▽南北間の実質的な協力拡大と軍事的信頼構築措置の推進▽東北アジア地域における平和協力体構想の提案及び推進。
第3段階「南北平和協定の締結と平和体制の構築」は、▽南北平和協定の締結及び国際的保障の確保▽平和体制への転換にともなう諸般の措置事項を推進▽南北経済共同体の本格的な推進及び軍備統制の実質的運用を段階的に推進▽東北アジア平和協力体の構築を実現。
同質性の回復へ
南北鉄道・道路連結事業、開城工業団地事業など、既存の協力事業で具体的な成果をあげ、北韓のエネルギー・インフラの改善や経済特区事業など、経済協力の拡大を通じた共同の繁栄を追求し、究極的に南北経済共同体を形成する。また、社会文化交流協力の拡大を通じて民族的な同質性の回復を促進する。
東北アジア平和協力体とは、域内平和・安保問題の包括的な協議のため、南・北・日・米・中・ロが参加する多国間協議体の構成を推進し、政治・安保環境を改善して、韓半島の平和定着及び東北アジア経済中心国家の建設に寄与しようとするものだ。
確固たる平和保障のための国防態勢確立に向け、韓国の条件に合う「21世紀型先端情報・技術軍」を育成し、軍の構造改革及び戦力増強を図る。未来の韓米同盟や在韓米軍の役割に対する共同協議は、確固たる共感ムードを形成した上で推進し、韓半島安保状況の変化や平和体制の構築と連携、発展的に調整する。
(2004.9.8 民団新聞)