掲載日 : [2004-11-10] 照会数 : 5867
韓流に水差した!? BoAらの公演当日中止の教訓(04.11.10)
[ 「『FAN』と『STAR』を繋ぐ」という意味で名付けられた「Live FA‐ST」
日本の旅行社でもツアーが組まれ、豪華アーティストで来客を呼びかけていた ]
チケット二重販売 ツアー客ら猛抗議
10月31日、ソウルの蚕室オリンピックスタジアムで、爆発的な人気を誇るBoAや、ピ、神話、jtLなど新世代のトップアーティストを集め開催されるはずだったイベント「Live FA‐ST 2004」が当日、公演時間を過ぎて、公演中止となった。
中国や日本からのファンも集まるなか、ステージは未完成。警備員も派遣されず、椅子には座席番号がなかった。さらに重複販売されたチケットが約7000枚あり、混乱をもたらした。公演開始予定時間より2時間遅れの午後8時、「中止」のアナウンスが流されると、約2万人の入場者は払い戻しを訴え、一部のファンは夜遅くまで公演開始を要求。会場で待機していた出演者の楽屋まで押しかけるなど大混乱となった。
この事態は実績のない企画会社が公演を計画し、チケット販売数が予想を下回り資金を調達できなくなったため、スポンサーが公演直前に大挙して撤退してしまい発生した、と伝えられた。
「チケットの販売数が予想を下回った際の対応がまったくされていない。せっかくの韓流で韓国が文化コンテンツを配信し、日本や中国からも大勢の観客が来てくれていたのに無様に自分から水を差した」という厳しい意見が韓国国内からも吹き上がっている。
音楽・映画・ドラマ多彩でも…ビジネス理念お粗末
韓国の音楽産業は90年代、韓国歌謡界にポップスとロックを持ち込んだソテジの登場などによって、飛躍的に発展を遂げた。それ以前から国に保護されてきた映画産業にも386世代の監督らが育ち、盛隆を極めてきた。
現代的な文化コンテンツがいよいよ世界に発信なるか、という域に達した感があるこの時期に起きた事件に、アジア圏での韓流旋風に心から期待していた韓国人の失望は大きい。
日本人アーティストが訪韓公演を行う時もトラブルは少なくないという。
ホテルが取れていない、通訳がいない……。最たるものは舞台監督の不在‐。舞台監督以外でも訪韓自体をサポートすべき立場の責任者が存在せず、話をたらい回しにされることもしばしばだという。舞台の設営面も不十分な面が目立つ。
日本では87年に日比谷野外音楽堂で起きたコンサート中の観客死亡事故以来、コンサートの設営や設備などに対し厳しく対応するようになったが、韓国ではいまだに鉄パイプで組まれたセットが針金で固定されていた、という話もある。
契約の面から見れば、韓国は日本に10年遅れているといわれているが、韓国も日本も、「どんぶり勘定」の傾向があり、契約の詳細が口約束で済まされることも多い。
日本より10年進んでいるといわれるショウビズ・ビジネスの先進国、アメリカはどうだろうか。契約書には契約金の詳細のほか、常識でわかる範疇のことが事細かに記載されているという。後の訴訟などのトラブルを避けるための最善策だろう。広い国土を誇り、個人を尊重する主義のもとでは「常識」も人それぞれ異なるからだ。
折角の作品生かす道を
韓国と日本、この二つの国でお互いの風貌などから相手の常識を勝手に定義し生じる問題も多発している。自国の常識は他国に通用すると限らないことを想定しておくべきだろう。
まだショウビズ・ビジネスが本格化して間もない韓国だが、発信するに値するコンテンツはそろえている。韓国ドラマは日本人に郷愁を与えた。血縁、死別、運命の再開など「日本で出尽くしたネタなのに新鮮」と今年、日本で大流行した。
これはほかならぬオリジナリティーの勝利だろう。「韓国ドラマのどこにオリジナリティーがあるんだ」と疑問を持つ人もいる。が、世に氾濫する映画やドラマの完全なオリジナル作品などが存在するのだろうか。
「マトリックス」や「キル・ビル」などは監督個人の憧れの作家や作品へのオマージュで固められた作品であるのに、強烈なオリジナリティーに満ちている。
雪のない風景の中、笑顔のひとつもない偏屈な男が恋人と並木道を歩いても「美しい」とは感じがたく、女性の心は掴めなかったはずだ。他国で出尽くした素材であっても、韓国人の情緒で味付けされ、オリジナリティー溢れる作品となっている。
これら作品や、魅力ある歌手をアピールする際に、今回のような人為的事故は韓国の文化発信のために大打撃を与える。今必要とされているのはコンテンツの内容に見合ったビジネス理念を身につけることだろう。
韓日を越えた「歌姫」が現れ、両国の映画がいい仲間となりライバルとなる。ドラマへの興味から旅行や留学に行き、そこで初めて両国や在日の歴史を知った、もっと勉強したい、という日本人も増えている。我々在日が理想とした環境が、韓日の人々の歩み寄り、そして長年これら産業に身を投じてきた在日の手によって叶いつつある。
今回のような事件で、今までの努力を無に帰すことのないよう、両国と在日が優れた文化コンテンツを支え合うことが一層の相互理解を深めることとなるだろう。
(2004.11.10 民団新聞)