掲載日 : [2005-03-30] 照会数 : 5488
伝説の映画「アリラン」がリメイク(05.3.30)
[ リメイクされた「アリラン」のポスター ]
[ 多くの同胞にみてほしいと語る李チョルウさん ]
[ 映画「アリラン」一場面 ]
在日プロデューサー李さんの奔走で輸入上映
在日震わす復活…有声リメイク
民族の息吹再現・万博会場はじめ全国で
羅雲奎監督の伝説の映画〞アリラン〟(1926年作)を忠実によみがえらせたリメイク版同名映画(李ドゥヨン監督、02年作)が、愛知万博会場を皮切りに日本各地で上映される。南北では03年に同時上映されたが、日本公開はこれが初めて。在日同胞の音楽プロデューサー、李チョルウさん(66)が3年越しの交渉を実らせて韓国から輸入、日本での自主上映に意欲をみせている。
同名の映画「アリラン」は解放前・後を通じて10編作られてきた。今回のリメイク版は李ドゥヨン監督が羅雲奎の生誕100周年を契機に01年3月から韓国で撮影に入り02年8月に完成させた。一連の作品の中でも「幻の名画」と、今日に至るまで最も高い評価を得ている無声映画時代の第1作を忠実に再現した。
ストーリーは羅雲奎の半生をそのまま映し出しているといわれる。羅自身、学生時代に3・1独立運動に参加し、拷問を受けたという。朝鮮総督府による経済収奪で没落する農村風景も如実に描いた。観客は映画に我が身の不幸を重ね、共感を覚えたようだ。
第1作の上映時には観客が我を忘れ、「マンセ‐」と叫んだとも言い伝えられている。これは日本の植民地統治下にありながら、映画を通じて精いっぱいの民族的な反抗を試みた羅雲奎に対する共感からだった。
「文化統治」を建前に一度は上映を許可した朝鮮総督府も、反日的色彩に共感する人たちが増えて行くにつれ、上映禁止を決めたといわれる。
李チョルウさんは、第1作がヒットした要因は主人公を狂人に仕立てたことだとみている。狂人だからこそ、警官につばをかけても許された。
日ごろ弾圧に苦しんでいた人々は、ささやかながら鬱憤を晴らすことができたようだ。処刑される主人公をアリランの歌声で見送る場面では、観客ばかりか弁士もこぞって泣いたという。
リメイク版では狂人の主人公が正気に返った一瞬、画面が白黒から鮮烈なカラーに変わる。それまで心持ちゆったりしたテンポで運んだ映画が、ラストに向けてテンポを速めていくのも見所の一つだ。
◆「アリラン」のあらすじ◆
3・1独立運動直後の韓国が舞台。主人公ヨンジンはマンセー運動に参加したかどで逮捕され、拷問を受けて狂人となって村に戻る。田畑を売り払い、悪徳地主から借金までしてヨンジンをソウル大に入学させたチェ爺さんの嘆きは深い。地主は借金のかたに娘のヨンヒを息子キホに差し出せと迫る。
ヨンヒはヨンジンの親友で、同じくソウル大に進学したヒョングに思いを寄せている。チェ爺さんはヨンジンを守るため家を手離す。狂った息子を「自由に生きろ」と涙ながらに解き放つ。チェ爺さんは狂人を解放したために村の駐在から呼び出しを受ける。その留守を狙ってキホがヨンジンに襲いかかる。その瞬間、ヨンジンに生気が戻りキホを殺害する。
処刑場に連行されるヨンジンを、村人が涙ながらにアリランを歌いながら見送る。
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「韓流映画の元祖」
ニムの精神受け継いで
李さんは制作段階からプロダクションと交渉し、3年越しの熱意を実らせ版権を手に入れた。興行的には韓流が続く愛知万博開催期間中にぶつけられるいいチャンスだった。万博関係者からの「反日」との指摘には「これこそ韓流映画の元祖」と押し切った。
映画をよく見ると、在日同胞として共感を覚える場面も多い。これも李さんが輸入を決めた理由の一つだった。
息子を大学に行かせるために土地を手放し、甘んじて小作農になるチェ爺さん。息子から来た手紙を読めず、郵便配達夫にマッコリを振る舞って代読してもらう居酒屋の女主人。隣近所で残りご飯を分け合う風景も、かつての集住地区ではごくあたりまえに見られた風景だ。
李さんはこれらを総称して民族の美風「ニムの精神」と呼んでいる。すなわち、同族を思いやり慈しむ気持ちだ。「アリランを私の手でやりたい」と「一大決心」を固めた背景には、民族的な矜持を思い起こそうという李さんなりのメッセージが込められている。
民謡「アリラン」を世に知らしめたことも羅雲奎の最大の功績と、李さんは指摘する。アリランは導入部とラストで効果的に使われている。これは羅雲奎がシナリオ段階で指示していたもの。
李さんによれば、今日歌い継がれているアリランの1番の歌詞、および正調といわれる旋律は、第1作が上映される26年までは存在していなかった。羅雲奎の「アリラン」で一斉に広まったのだ。
李さんは「アリランのメロディーからは民族の息吹が伝わってくる。我々がアリラン民族の一員だという民族的自覚を新たにするためにも全同胞に映画を見てもらいたい」と話している。
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《映画の上映日程》
5月11日の愛知万博「韓国の日」に合わせて特設会場で封切られ、22日まで上映される。東京では光復60周年の一環として7月27日から29日までの3日間、日比谷公会堂で開く「アリランフェステイバル」の中で上映。この後、8月12日西宮市民会館アミティホール、8月13日神戸文化ホールと回る。
なお、全国公開に先駆けて民団中央本部は4月2日、東京・南麻布の韓国中央会館で李さんを呼んでの記念講演「夭逝の天才映画人羅雲奎とアリラン」、および試写会を開く。時間は午後3時から。入場料500円。
問い合わせは、(℡03・3454・4611)民団新聞、または、(℡03・3376・3218)コリアアーツセンター(全国上映委員会)まで。
(2005.03.30 民団新聞)