掲載日 : [2005-07-06] 照会数 : 6981
韓国映画「マラソン」自閉症乗り越え疾走
[ 自閉症青年と母の深い絆を描いた映画「マラソン」 ]
[ 石井会長 ]
真実の姿を見せて…共生の輪、広げたい
日本自閉症協会石井会長に聞く
母の愛、実った
実話をもとにした韓国映画「マラソン」は、自閉症というハンディを背負った20歳の青年と母の深い絆を軸に、障害の問題に直面した一家が葛藤を乗り越えていく姿を描いている。
主演は「春香伝」「ラブストーリー」のチョ・スンウ、母親役は23年ぶりにスクリーン復活のキム・ミスク、弟役に「天国の階段」で主演のクォン・サンウの少年時代を演じたペク・ソンヒョンら。
日本語のテーマソング「そして今も」は、小田和正が手がけた。ひたすら走る主人公を象徴する「100万㌦の脚」が流行語になった感動の物語は、韓国で520万人を動員。
日本ではシネカノン(李鳳宇代表)の配給で7月2日に封切られた。「自閉症に対する理解を深めたい」と願う日本自閉症協会の石井哲夫会長に試写後の感想を聞いた。
◆映画で一番強く印象に残ったことは
自閉症の子どもに対する母親の愛情が大変大きな教育的効果をもたらしていると感じた。教育とは、人間的な深い愛情によって人間性の根幹をとらえることだということを強く訴えている。
◆自閉症理解を深めさせる契機となるか
自閉症というと、アメリカ映画「レインマン」のように、ある種の特技がある珍しい人という紹介のされ方をしたが、昨年、日本テレビで放映された「光とともに〜自閉症児を育てて〜」は、自閉症児の行動などをリアルに描き、啓蒙的な効果があった。協会として作者の戸部けい子さんを特別顕彰した。
親にしてみれば、障害の現状を知ってもらいたい一方で、わが子の障害を隠しておきたいという気持ちがまだある。だが、障害者本人の状況とそれに関わる親の姿、努力している支援者の姿を目の前で見ないと社会は分からない。協会では警察や駅、商店街の人たちに自閉症児の生の姿を見せて理解を深めたいと思っているが、この映画のように俳優がきちんと演じてくれたことで、自閉症理解に貢献するだろうと大きな期待をしている。
協会のホームページ上に情報として取り上げたほか、機関紙上でも紹介し、発送時には映画のビラを同封した。シネカノンのホームページともリンクしている。この映画を契機に韓国の自閉症関係者ともコンタクトを取り始めたところだ。
◆社会に望むのは
共生の考え方をどう育てていくかが大事だ。障害者とともに暮らし、社会がよくなっていくところに大きな人間愛が存在する。みんなが安心して共生できる社会を建設する意欲と思想がほしい。福祉がこれからの日本の中心思想になっていくべきだと思う。虐げられている弱い人たちや不条理なことが行われている現実に対して、もっと日本人個々人が自己関与し、積極的に行動していくことを期待したい。
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石井哲夫
東京大学文学部卒。白梅学園短期大学・日本社会事業大学の名誉教授。全国保育士養成協議会現代保育研究所長、子どもの生活研究所長などを務める。77歳。
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自閉症
先天性の脳の機能的障害。生後2歳半くらいまでに、認知・言語・運動能力などに障害の症状が見られる。多動、言葉のオウム返しなどが特徴。児童1000人に約3人いると言われ、日本の人口に置き換えると、100万人を超えるとされる。日本自閉症協会は49都道府県市に支部があり、会員は1万4千人弱。今年4月から3年間の有限立法として発達障害者支援法が施行され、早期発見、早期療育から就労支援が法的に位置づけられた。協会として地方自治体に具体案を要望していくことにしている。ホームページアドレスはhttp://www.autism.or.jp
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親は勇気を持とう…抱え込まず心を開いて
《インタビューを終え》
特異な行動がなかなか理解されない自閉症という障害に、直球勝負で挑んだのが「マラソン」だ。日本に比べて福祉が立ち遅れているという韓国で、このような社会性のある作品が制作され、国民の9人に一人が観たという事実は大きい。自閉症に限らず、障害児を持つ親はその事実を明らかにすることを躊躇する状況がある。しかし、障害の重さを一人で抱え込み、孤立することは事態を悪化させるだけだ。この映画のヒットによって、一人でも多くの親たちの心が解放されることを、同じく自閉症児を抱える親の一人として心底願う。(編集長・哲恩)
(2005.07.06 民団新聞)