掲載日 : [2005-08-31] 照会数 : 13479
「つくる会」教科書また惨敗…全国の採択ほぼ終了
[ 大田原市教育長要望活動① ]
[ 大田原市教育長要望活動② ]
採用、1%以下か、民団・市民の連携実る
日本全国の公立中学校で来年度から使用される教科書の採択は、584の採択地区のうち、すでに約500カ所で終わったとみられる。「新しい歴史教科書をつくる会(以下「つくる会」)」との攻防は熾烈を極めたが、「つくる会」主導、扶桑社発行の歴史教科書を採択したのは、公立では栃木県大田原市と東京都杉並区、東京都立の中高一貫校と愛媛県立中学校などにとどまった。9月中旬の最終集計を前に、「つくる会」の教科書採択率は1%にも達しない公算が大きくなった。
■□
多角活動が良識喚起
「つくる会」は採択率0・03%という01年度の完封結果を受けるや否や、「リベンジする」と公言、保守派政治家を抱きこんで地方議会に圧力をかける一方、教育委員の人事にも介入した。また、検定前に検定申請本を教員らに配布するなど、なりふりかまわぬ手法を駆使してきた。
しかし、目標10%の採択に遠く及ばず、またも惨敗することがわかった。全国一丸となった民団の運動と市民団体との連携が、「つくる会」の動きを封鎖した。各地の主な動きを概括する。
神奈川県本部では5月の集会を起点に、本部と支部が連携し、7月上旬まで各市教委に要望活動を展開。教育長自ら対応した7つの自治体のうち、城山町は事前に送付した民団の資料を手にしながら良心的な対応を見せた。半面、海老名市教委は名刺すらよこさず事務的な対応に終始した。県下で扶桑社版を推薦した教育委員は、この海老名市の1人と鎌倉市の2人と判明したが、44カ所の採択地区すべてで「つくる会」教科書は採択されなかった。
「日本の市民団体と綿密な情報交換をもとに連携してきた結果」と李相哲文教部長。「民団があまり前面に出ないほうがいい」「日本人がやるべき運動なのに、民団の努力には頭が下がる」という韓日関係に配慮した発言も多く聞かれたという。
西東京本部管内は危険視された市教委が数カ所あったが、4カ所の集会で民団の活動をアピールするなど精力的に動いた。八王子市の教育委員長が同支部支団長の中学時代の恩師という人間関係もあり、直接の面談要望が功を奏した。
長野県本部の要望では「国の検定に合格した以上、採択対象にしなければならないが、子どもたちの将来を案じる皆さんの思いは理解できる」との反応が随所に見られた。金美恵子事務局長は「どの自治体も民団の存在をよく知っているので要望活動も順調だった」と手ごたえを話す。
北海道本部は本部・支部の幹部らが、危ぶまれていた帯広市をはじめ、道教委などに要望するだけでなく、関連書籍の『未来をひらく歴史』を教育関係者らに寄贈、理解を促した。
新潟では昨年、「つくる会」の支部が結成され、教科書採択の請願が県議会で採択された。また、新潟市では拉致問題の影響が色濃く、「つくる会」と「救う会」が共同で「つくる会」支持の請願を3回行い、市議会で採択されるという厳しい状況に追い込まれた。県本部は新潟韓国教育院とともに県下の諸団体と協力関係を築き、署名運動などを展開してきた。各地区採択協議会では、「つくる会」の教科書について、「神話や第2次世界大戦の記述が多すぎてバランスを欠く」などの反対意見が出され、採択を見送った。
大阪では、これまで「つくる会」が入り込む余地はなかった。「つくる会」の執拗な攻勢に対して、任正福事務局長は「今年の採択の終わりが、次回採択の始まり。油断せず、日常的な引き締めが重要だ」と強調する。
兵庫県本部の要望活動では、龍野市教育長が「他の国の教科書の問題に口出しされて不愉快だ」という趣旨の発言をした。だが結局、採択は見送られた。同市議会は「小泉首相に靖国神社参拝を求める決議」をする一方、「地方参政権の意見書」は拒否していた。
和歌山では田辺市教委が危険視されていた。県本部が要望活動を展開したところ、「つくる会」に反対する諸団体の要望と採択基準を知らされた。現場に足を運んだことで、生きた情報といい感触をつかんだ。和歌山市教委は会見で「つくる会」の教科書は「自国中心の歴史観が強く、他国に被害を与えたことへの配慮が足りない」と不採択理由を述べた。
広島では三次、庄原、呉市が危険地区と言われていた。県本部の丁基和事務局長は「侵略戦争を美化する一方、被爆の事実すら矮小化するなど偏りすぎている。広島では到底受け入れられないと思っていたが、やはりゼロ回答になった」とホッとした様子だ。
鳥取県本部は県と20市町村の教育委員長への面談要望活動を実施した。公平・公正を期すという理由で会えない自治体もあったが、面談した教育長に対しては、万一「つくる会」の教科書を採用したら、韓国との自治体交流に取り返しのつかない事態になると強く釘を刺した。「韓国の教組や日本語教育研究会の会長らが、県と鳥取市教育長に直接要望したのも大きい」と金泰鎮事務局長。
香川県本部の金伸造団長は「教育長に県議の圧力があったようだが、現場教職員の意見の方が強力で『つくる会』には否定的だった」と面談活動を振り返る。
熊本県下の市教委は「大人が読んでも難解な語句が多い」と「つくる会」の教科書に疑問を投げかけた。韓国と平和学習交流を続けてきた私立の九州学院中学は「採択した場合の影響に配慮した」、熊本マリスト学園中学は「世間の評価も参考にすべき」として、両校とも扶桑社版を採用しなかった。
一方、採択結果が9月にずれ込む地域もある。佐賀県では「1日の正式発表まで市教委関係者に緘口令がひかれている」という。朴弘正事務局長は「韓国と交流事業を推進中の地域は、民団の要望にも深い理解を示す。問題はない」と言う。
民団は昨年9月の「90日間集中活動」を皮切りに、全国で教科書問題への共通認識を持つ研修会と各自治体への要望活動を継続してきた。各種講座や署名運動を通じて、日本社会を啓発することにも力をいれてきた。
(2005.08.31 民団新聞)