掲載日 : [2005-09-14] 照会数 : 9940
「なんでやねん」…神戸家裁が選任を拒否
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最高裁 家事調停委員にも「当然の法理」
【大阪】神戸家裁が外国籍を理由に在日同胞弁護士の家事調停委員選任を拒否していたことがこのほど明らかになった。近畿弁護士連合会人権擁護委員会は10日、大阪弁護士会館で「外国人の司法参画を考える」シンポジウム(同実行委員会主催)を開き、「当然の法理」を理由に外国籍者の家事調停委員の任官を認めていない最高裁規則に異議を唱えた。実行委員会では近弁連大会での決議を経て全国的な抗議運動を広げていきたい考えだ。
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事件の経緯
梁英子さんは03年10月、兵庫県弁護士連合会から家事調停委員として推薦された。梁さんの選任を拒否した神戸家裁によれば、調停委員は「公権力の行使又は国家意思の形成への参画にたずさわる公務員に該当する」ため、最高裁判所に上申しなかった。調停委員は家裁が「豊富な知識、経験を有する」弁護士らを最高裁に上申し、任命される。最高裁規則には国籍要件は明記されていないが、「運用の取扱例」のなかで「不可」とした。いわゆる「当然の法理」だ。このなかには裁判官、裁判官書記官、家庭裁判所調査官及び調査官補、民事調停委員などを含む。
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「資質の有無が問題」 近弁連有志が抗議
神戸家裁から選任を拒否されたのは兵庫県弁護士会所属の梁英子さん。梁さんは91年に司法修習生に採用された。弁護士になってから家事事件に経験が深く、家庭裁判所からも厚い信任を受けているという。
梁さんを推薦した兵庫県弁護士会内からは「なんでやねん」「ちょっとおかしい」という声が上がった。梁さんも家事事件の依頼が増えてきており、調停委員就任に意欲を燃やしていたところだけに拍子抜けした様子。
近畿弁護士連合会の内外でも「なぜ、日本国籍がないと調停委員になれないのか」という疑問の声が沸き起こり、有志が中心となって半年間にわたる調査・研究、議論を重ねてきた。
この間の調査・研究過程では、家事調停委員以外にも参与員、司法委員など非常勤で裁判所を補佐する職種についても国籍が必要か否かの検討を加えてきた。その結果、「紛争の解決に有用な知識と人格識見の高い者という要件に適合するものであれば、定住外国人に裁判員の資格を与えるべきだ」との結論に達したという。
現実に最高裁の任命する破産管財人、相続財産管理人及び不在者財産管理人については外国籍者の就任事例が確認されている。しかし、実行委員会の照会に対して最高裁はあえて「不明(把握していない)」と回答している。
この日のシンポはこの間の調査研究の成果を明らかにし、討論するために開いたもの。法曹関係者のほか一般市民ら70人余りが参加した。
初めに山陰法科大学院の岡崎勝彦教授が基調講演。続いてのパネルディスカッションではパネリストの各弁護士から「家事調停委員の具体的な職務内容を問題とすることもなく、形式的に排除している」実態が指摘された。
パネリストの1人で家事調停員の経験のある西村陽子弁護士は「資質の有無が問題であって外国籍による不都合は思い当たらない」と述べた。同じく薫弁護士も「能力を持って裁判できるならば国籍は関係ない。個人的には裁判官をやってみたい」と主張した。
最後に実行委員長の吉井正明さんが「梁さんに対する拒否は自分への拒否と受け止めた。まずは調停委員の門戸開放を求め、日弁連の宣言にもある外国人の司法参画への第一歩としていきたい」と述べた。
同胞弁護士…全国に55人
日本で活躍する外国籍弁護士の数は04年10月現在で60人に上ることが、シンポ実行委員会の調査で明らかになった。内訳は韓国50、朝鮮5、中国4、米国1。
外国籍者が日本国籍を取得することなく司法修習生として採用されたのは、77年の金敬得氏が初めて。要項には「日本の国籍を有しない者」という欠落事由は依然として残っているが、「最高裁判所が認めた者を除く」との但し書きが入った。
この点についても「当然の法理」の概念が便宜的なものであることを示していると批判する声が強い。
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家事調停委員とは
遺産相続、離婚といった生活に密着した事件で1人ないし2人がペアを組み、紛争当事者の双方から話を聞きながら解決を手伝う。一般に「非常勤裁判官」とも呼ばれている。権限は裁判官と同等。任命は最高裁判所。04年1月1日現在、全国で民事21人、家事8人が配置されている。これまで定住外国人が任命されたことはない。
(2005.09.14 民団新聞)