掲載日 : [2005-09-28] 照会数 : 8493
在日1世の心を写真集に・写真家 李朋彦氏に聞く
[ 北海道から鹿児島まで、それぞれの人生が写し取られた ] [ 李朋彦さん ]
全国を股にかけ在日1世90人の軌跡をまとめた写真集『在日一世』(発売元・リトルモア)が、10月中旬に発売の予定だ。3年半にわたって撮影・取材を行ってきた在日韓国人3世の写真家・李朋彦さん(46)に、その思いを聞いた。
苦闘刻む90人の姿
3年半対話重ね胸襟開かせ
富士山や長崎の平和祈念像を背景に、韓服姿でたたずむハルモニたち。肩を寄せ合ってカメラを見つめる老夫婦…。どの顔にも年輪を重ねた深いしわが刻まれている。
在日1世を訪ねる旅は、北海道から鹿児島まで3年半におよんだ。取材対象者の当時の年齢は70代から90代。その多くが伴侶を亡くし、独り暮らしをしていた。李さんは若い時期に祖父母を亡くした。ハラボジやハルモニたちに会うたびに、祖父母の思い出が重なった。
取材はお互いの信頼関係を築くことから始まった。インタビューでは長い時間をかけて丁寧に話を聞き、心の距離を縮めていった。勉強不足を指摘され、怒鳴られたこともある。「歴史や各地方での在日の動き、南と北の思想とかについて勉強していなかったことを悔いた。自分にとっては学びだった」
高校卒業後、写真学校に入学。19歳のとき、「韓国を見てみたい」と韓国籍に切り替え、総連同胞を対象にした民団の墓参団事業に参加した。その後、数年にわたり韓国で撮影を行う。撮りためた写真を、1983年に開催した初個展「哀号」で発表。写真家として「本名で仕事をしたほうが自己が出せる」と、この個展を機に本名宣言をした。
写真集を手がけた動機は、40歳を過ぎて周囲の1世たちの訃報を耳にするたびに、戦争体験やさまざまな記憶が風化していくことに寂しさを感じたこと。そして同時に自分が何者なのかを知りたいという気持ちも芽生えていたからだ。「1世という大きな存在を形にしていこうと思った。それが写真集だった」
撮影・取材にあたっては民団青年会中央本部、各地方本部の協力を得た。写真集には李さんの伯母と、父方の親戚の2人を登場させた。その理由は「他人だけを出すのは、在日である自分から逃げているような気がした」から。
この仕事に取り組んだ3年半は1世たちと真っ正面から向き合い、一人ひとりの人生を受け入れる作業でもあったはずだ。ある1世の語った「在日は海を漂流している旅人。本土の韓国人にはなれない、帰るところがない」という言葉に涙したこともある。
我が子も取材同行 同胞の絆を身近に
李さんはこの旅に、2度の夏休みを利用して3人の子どもを同行させた。この旅がどういう意味を持つのか、子どもたちはまだ理解はしていない。
「自分が韓国人であること、そして負けずに生きてほしいということを、大人になって感じとってくれればいい」と父親の横顔を見せた。
写真集は1世がどのように戦前、戦中、戦後を歩んできたかを知るうえで在日社会のみならず、日本社会においても貴重な資料になるだろう。「若い人たちには、自分の祖父母がどうやって日本に来たか、ルーツや在日に対して関心を持ってもらいたい」。そんな李さんのメッセージも込められている。
写真集『在日一世』に関する問い合わせは、リトルモア(℡03・3401・1042)浅原。
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李朋彦(イ・プンオン)
1959年、大阪市生まれ。79年日本写真専門学校卒。80〜83年に韓国全土を撮影、83年個展「『哀号』祖国韓国」。85年独立、フリーランスに。90年「隣人」を朝日新聞に連載。大阪市や府の人権ポスター、企業広告ポスター、雑誌を手がける。92年に大阪、99年に東京で「スタジオ リー」開設。01年個展「風の道」他。
(2005.09.28 民団新聞)