韓服の端切れを使い、女性たちによって作られたポジャギ。高麗時代に始まり、朝鮮朝時代に最も盛んだったという。多彩な技法を用いて作られたポジャギは、時代を経て現代の女性たちを魅了している。またポジャギに施されたチャス(刺繍)には家族の幸福や健康、長寿などを願う女性たちの思いが吉祥文字や紋様のなかに込められた。95年に「からむし工房」(東京・墨田区)設立後、ポジャギやチャスの指導にあたるなど、幅広い活動を展開する崔良淑さんに、ポジャギの一種、チェモニ(巾着)の作り方を教わった。
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チャスのポイント
☆材料
①表布(絹・赤)…24×24㌢ 2枚(表袋)
②裏布(薄絹・赤)…24×24㌢ 2枚(中袋)
③絹刺繍糸 青色 緑色 黄色 ピンク色 水色 金色 銀色…各適宜
④赤色のポリエステルひも 太さ0・1㌢…長さ150㌢
⑤絹手縫い糸 赤、黄、白(刺繍用)
※材料を希望の方は「からむし工房」へ問い合わせ。好みによってひも部分にビーズを付けたりできる。
☆用具
①刺繍用枠 直径18㌢
②厚紙(型紙用)
③手芸用複写紙
④セロハン
⑤ひも通し
⑥フランス刺繍針7番、10番
⑦トレーサーまたはボールペン。そのほか印つけペン(消えるタイプ)
制作の手順
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表布の表面に手芸用複写紙(複写面下)、図案とセロハンを重ねる。トレーサーまたはボールペンで図案を写す。
図案を写した表布を刺繍枠に挟みピンと張る。
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頭部下から繍う。ほかの色の部分も糸端に結び玉を作る。差し始めはチョンス(2目)を作って小さな点を刺す。これは刺し始めと終わりに作る玉が抜けないようにするため。各色とも必ず下から上、隙間なく真横に刺繍する。
足の部分は斜めに繍う。
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目の部分は下から出した針に糸を3回巻きつけ、左手で糸を引っ張りながら針を下に刺す。
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縁取りをチンクムスにする。絹手縫い糸を10番の針に通して輪を作る。鳥右は金糸の縁取り(黄色の手縫い糸)、鳥左は銀糸の縁取り(白色の手縫い糸)。止められる金、銀糸を輪に通し、針を入れ裏側に引き込む(金、銀糸が太く針に通らないため)。手縫い糸は針から抜く。止める糸を針に通す。糸端は固結びに。約0・3〜0・5㌢間隔で金、銀糸をおさえ止めながら進む。
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チュモニを仕立てる
刺繍が中央にくるように11・5㌢×14㌢の大きさのチュモニを作る。型紙を作り表布、裏布各2枚を裁つ。
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表布と裏布を2枚ずつ組み、中表にして合わせ、入れ口を端から端まで縫い代0・8㌢でぐし縫いする。針に赤の手縫い糸を通して使う。中表に重ね合わせる。できあがり線の内側に待ち針を打ち、4枚を止める。
底の部分を残してひも通し口の部分まで4枚を一緒に縫う。ひも通し口は、裏2枚のみを、返し口は、表2枚のみを縫う。
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内袋の返し口から手を入れて、中袋を表に返す。縫い残した返し口をまつり縫いする。
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表に返す。表袋と中袋を2枚一緒に、(口の部分から2・5㌢下がったところからが目安)1・5㌢幅のひも通し口の上下をぐし縫いする。ひも通し口の左右から各1本のひもを通し、両横で引っ張るように結ぶ。好みでビーズやむすびで固定しても良い。
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チュモニ完成
鳥は吉祥の象徴
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鳥は新たな出発や良い知らせを運んでくるという吉祥を象徴する紋様。配色は五方色(赤・白・黒・青・黄)のセクトン(色童)にした。
セクトンは黒を除きストライプ状にすることで、長寿や魔除けに用いる。赤の代わりにピンク、青の代わりに緑を使うなど、今は五方色にあまりこだわらない。
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お祝いの贈り物 チュモニ
チュモニの歴史は、13世紀末に高僧の一然(1206〜1289)によって書かれた史書「三国遺事」に「錦嚢」の記録があることから、三国時代から始まったとされている。
宮中では王の平服である滾龍袍(コンリョンポ)が古くなると、その布で赤いチュモニを作り大臣に分けた。五方嚢(オバンナン)というチュモニは、宮中の繍房の人たちが作ったとされ、東西南北を象徴する青(東)、赤(南)、黄(中央)、白(西)、黒(北)の5つの色で作られた。
このほかにも旧暦の正月、上亥日と上子日に1年間の厄除けと福を祈願する意味で炒った豆を一粒、赤い紙に包み五方嚢に入れて王の親戚に贈ったとされる。外国使臣には薬を入れた薬チュモニを土産として持たせた。
民間でも歳時風俗のひとつで、上亥日と上子日に炒った豆や穀物をチュモニに入れて、誕生日などに贈った。人々は野鼠や猪から農作物の被害をふせぎ、豊作になると信じてきた。誕生日や還暦などの慶事日に刺繍チュモニを贈るのは通例。チュモニの種類は、丸い形の來嚢(トゥルチュモニ)と、角が出た角嚢(キィチュモニ)が代表的で、曲線の來嚢は女性が愛用し、直線の角嚢は男性が使用したという。
チュモニの表面には、富貴や長寿を象徴する吉祥紋様の刺繍を施した。刺繍紋様は女性用は繊細で華やかなものを、男性用は素朴で簡略化したものだった。スジョ(匙と箸)、扇子、鏡、刀、ポソン(足袋)、ヤク(薬)、ヒャン(香)などを入れるチュモニが見られることから、チュモニは生活に欠かせない物だったことが伺える。
アンティークに用いられている色は赤が多く、次いで玉色(グリーン系)と青色になる。このような色をヤンセク(陽色)といい、招福厄除けの象徴色になる。
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厄除けや子宝願って ケブル
ケブルとは子どもや婦人たちが韓服に付けるノリゲ(アクセサリー)の一つ。写真はチュモニのひもにつけるケブルで、一つひとつに意味がある。
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①三角形ケブル=三角は厄除けの意味を持つコチ(鋸歯)と同様、厄除けの意味。
②唐辛子ケブル=男の子の出産を願う。
③蓮=蓮は実が多いことから子宝に恵まれるという意味。
④杏仁=あんずの種。種は子宝に恵まれるという意味。
⑤粧刀=保身用の小さな刀。女性の貞節の象徴。
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プロフィール
崔良淑(チェ・ヤンスク) 韓国ソウル生まれ。1985年来日。日本でさまざまな染色技法を学び、1995年染色とポジャギのアトリエ「からむし工房」を設立し、ポジャギ教室を始める。ヌビ(キルト)や刺繍教室も開講。著書に「韓国刺繍」(雄鶏社)、「彩るポジャギ」(主婦と生活社)、「つぎはぎの美 ポジャギ」(日本ヴォーグ社)など。
☆「からむし工房」〒130‐0012 東京都墨田区太平1‐4‐8 (℡・FAX03・3625・5117)。URL
http://karamusi.co.jp
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崔良淑さん作の鋸歯周縁紋ポジャギ
冬用韓服の絹の布地である緞(タン)類をパッチワークの技法で作ったポジャギ(チョガッポ)。2枚合わせにし、四方に鋸の歯のぎざぎざの形をつけた。コチ(鋸歯)は厄除けの意味を持つ。四隅につけた半円の形は豊作を願う稲穂の形。
(2008.1.1 民団新聞)