掲載日 : [2008-02-06] 照会数 : 5319
日中韓政策フォーラム 柳明桓大使講演(要旨)
アジア繁栄へ多国間安保体制を
東北アジア情勢
ポスト冷戦時代を迎え、東北アジアをめぐる国際情勢の変化は、おおまかに▽安全保障の脅威▽経済的な躍動性▽域内のキープレイヤー同士の力学関係という、3つの側面から考えられる。
安全保障面から見ると、冷戦は解消されたが台湾問題、北韓の核問題、領土問題、歴史と民族主義といった伝統的な安全保障の脅威の要素が依然域内の不安定要因として残っている。あわせて交通・通信の発達と域内の人的及び物的交流の増加などにより、超国家的問題の深刻さが徐々に増えてきた。テロ、不法移民、環境、国際犯罪、伝染病といった、非伝統的な安全保障の脅威が新たに台頭した。
伝統的な安全保障の脅威が域内の国同士の関係において、対立の要因になり得る一方、非伝統的な脅威に対処するためには、地域協力が求められる。今、東北アジアは対立と協力の交差路に立っている。
次に、経済の側面から見ると、東北アジアはどの地域よりも速いスピードで経済成長を成し遂げ、今やNAFTAとEUに次ぐ、世界第3の経済規模となっている。日本は韓国に対して、韓国は中国に対して、そして中国は日本に対して、それぞれ貿易黒字を記録している。これは、3国の経済がどれだけ深く連携しているかを示している。
国同士の力学関係を見ると、中国の台頭により、域内の主要国同士の関係、特に日本、米国、中国の3国間関係が、東北アジアの持続的な安定と繁栄にとって重要な要素となったが、米中も日中も「戦略的互恵関係」を発展させている。今後、米国を含む韓国、日本、中国、ロシアといった域内の国同士の重層的な協力関係の発展が、特に韓日中の協力関係が東北アジアの安定と繁栄、特に北韓の核問題の解決と東北アジアの平和・安全保障の協力メカニズムの構築に寄与すると思う。
北韓の核問題と6者協議のプロセス
東北アジアで最も緊要な課題は、北韓の核問題の平和的な解決だ。まず、韓半島の非核化の実現があってこそ、安定した南北関係を構築でき、東北アジアで核武装競争が生じる可能性を取り除くことになる。最近、北韓が核計画の「完全かつ正確な」申告を決断できずに躊躇していて、6者協議のプロセスが再び困難に瀕しているとの観測もあるが、私はこうした状況も結局は解かれていくと思う。
核問題の過程を見ると、常に北韓の「瀬戸際外交」によって緊張が高まってから解消するという、一定のパターンが繰り返されてきた。もう一点、6者協議のプロセスは、北韓が簡単にはあきらめられない数々のインセンティブを提供していることだ。05年9月の共同声明は94年の米朝枠組み合意とは異なり、北が望んでいた米朝・日朝関係正常化、韓半島の平和体制、経済やエネルギー協力などのインセンティブを包括的に含んでいる。さらに、東北アジアの5つの主要国が同意した共同声明は、公約履行の担保力もずっと高いと言える。
韓国新政府の対北政策の方向
韓国の新政府は、非核化に向けた6者協議の共同声明の履行を促進し、北韓の実質的な変化を導き出すために、6者協議参加国との国際協調をもとに、「非核、開放、3000構想」を積極的に実践していくことになる。
これは、北韓が核廃棄という戦略的な決断を下し、自発的な改革・開放に踏み出せば、新政府は、10年後に北の一人当たり国民所得が3000㌦に達するよう、支援していくとの構想だ。そのために新政府は、北の核武装を絶対に容認しないとの原則を徹底して守りつつも、共同声明の完全な履行を導き出すための柔軟なアプローチを取ることになる。
北韓に対するインセンティブのひとつが、韓半島の平和体制だ。今後、平和体制の具体的な内容や形については、直接の当事国と掘り下げた議論をしていくが、韓国政府としては、少なくともふたつの点を確実に守るべきと考えている。
一点は、韓半島の平和体制の核心となる当事者は、あくまでも南北であり、米国と中国は休戦協定に署名した立場を反映するという次元から、適切な役割を担う形にするべきということ。もう一点は、韓半島の非核化を基礎に、南北関係の発展と米朝関係の正常化が成し遂げられたときに初めて、韓半島の平和体制を樹立できるということだ。
6者協議の共同声明は、韓半島の恒久的な平和体制について協議していくこと以外に、「東北アジア地域における安全保障面の協力を促進するための方策について探求していく」とある。私は、6者協議の枠組みの中で行われている平和と安全のメカニズムに関する協議には、ふたつの戦略的な意味が含まれていると思う。
東北アジアの多国間安全保障体制
第一に、6者協議のプロセスは、北の関心事を包括的に受け入れてインセンティブを提供し、これを核廃棄とつなげて「行動対行動」の原則に則って解決するという立体的アプローチをとっている。一見すると、北の核問題と直接的な関連がなく見える東北アジアの平和と安全のメカニズムに関する協議は、まさにこうしたアプローチの産物であるといえる。つまり、▽南北関係▽韓半島の平和体制▽東北アジアの平和と安全のメカニズムという3つのトラックが合わさって、北の安全保障の脅威に対する認識を転換させることにより、核廃棄を牽引していこうという戦略の一環である。
第二に、ヨーロッパが欧州安全保障・協力機構を通じた対話と協力によって地域安定と統合に成功した経験を、東北アジアにも適用してみようということだ。東北アジアは、様々な宗教と文化、異なる政治体制と経済的な格差などにより、地域統合を進めるには難しい状況がある。だからこそ、まず域内国家間の対話と協力の経験を蓄積していくことで、安定と繁栄に大いに寄与できると思う。
90年代から、「東北アジア協力対話」を唱え、東北アジアの安全保障協力に大きな関心を持っている韓国としては、東北アジアの平和及び安全のメカニズムを協議する作業部会の活動に積極的に寄与していく考えだ。
(2008.2.6 民団新聞)