掲載日 : [2008-03-26] 照会数 : 7463
<生活>朝鮮朝の美、暮らしに 鈴木千香枝さん
[ 鈴木千香枝さん ]
[ 実際に使用の硯床(右)、小盤(ソバン)と台(左)の上には小物も置かれている
]
[ 鈴木千香枝さん制作の作品 ]
魅せられた人たち
朝鮮朝時代の家具や陶磁器、民芸品などに魅せられた日本の人たちがいる。東京・世田谷区で茶房「李白」を営むオーナーの宮原重之さん(79)と、メドゥップ、ポジャギ研究家の鈴木千香枝さん(56、東京・新宿区)もこれらの品々をこつこつと収集してきた。2人を惹きつける魅力について聞いた。
可愛くて、楽しくて
民芸品を知り、研究家に
自宅に入ると、壁のいたるところに鈴木千香枝さん手作りのメドゥップや、韓国で買い求めたノリゲなどの品々がいくつも飾られている。その可愛らしさに足が何度も立ち止まってしまう。
リビングや部屋には、朝鮮朝時代の家具がさり気なく置かれている。
特に好きなのは、モリチャンと呼ばれる枕元用の箪笥だ。実はこのモリチャンには秘密の引き出しがある。外観からは全く見当はつかない。鈴木さんが「ここですよ」といった場所を押すと、想像もしなかったところから引き出しが出る仕組みになっている。「トリックがある感じでデザイン的にも気に入っています。本当に面白いですよ」と楽しそうだ。
また、黒柿で作られた硯床は、硯や墨、紙などを保管するための文房家具。桃をデザインした金具も、流れるような材木の模様も気に入っている。
骨董品屋は宝探しの場
そもそも鈴木さんが最初に出会った朝鮮朝の品は木工品だった。1979年、結婚後に夫の仕事でソウルで暮らすことになった。当時、韓国語を学ぶために延世大学校の韓国語学堂に通った。そのころ、梨花女子大学校周辺にあったたくさんの骨董品屋に興味を引かれていった。
「日本の骨董品屋は敷居が高かったのですが、韓国の骨董品屋は気軽に入れ、宝探しに行くような感じで学校帰りに通いました」
渡韓前、伯父から柳宗悦の著書を数冊渡されていた。祖母の影響で幼いころから手仕事で作ったものに興味があった。そんな鈴木さんが、韓国の民芸品と出会うまでにはそう時間はかからなかった。
いつものように骨董品屋をのぞいていると、それまで目にしたことのない木工品が目に入った。初めて買ったのは木をくりぬいて作った携帯用のコップ、そして韓国人でもその存在をほとんど知らず、資料も見あたらないという、昔の行商人が荷物をチゲ(背負子)に括りつける道具のチョリゲだった。
鈴木さんは最初の渡韓で4年間、そして2回目は90年から7年間をソウルで暮らした。
この間に韓国の伝統手工芸のメドゥップとポジャギも学ぶなど、伝統文化に対する知識を深めていった。
自分の好きな品々に囲まれる生活を楽しんでいる。ずっと昔、誰かが使っていた物が手元に集まった。その一つひとつに「不思議なご縁」を感じてきたという。
今、最も関心があるのは武器としても使ったとされるが、その全貌は未だに分かっていないというチョリゲの研究だ。今後もライフワークで調べていきたいと話す。「この研究には韓国人の協力者もいて助けられています。ただ止めないで続けていくこと。それはオブラート一枚の積み重ねだと思っています。オブラートも何十枚も重ねれば厚みを感じるようにそうやっていきたい」とあくまで自然体だ。
自作品含め夢は絵本に
取材が終わって、25年間かけて集めたという刺繍入りの指ぬきや、チュモニのひもにつけるケブルなどの愛らしい小物の数々を見せてくれた。
自身の制作した作品を含め、いつか日本の子どもたちに「お隣の国でこんなに可愛くて楽しくて、でも伝統にもとづいて伝わってきているものがこんなにあるんだよ」ということを絵本のような形にして紹介したいと、顔をほころばせながら夢を語ってくれた。
(2008.3.26 民団新聞)