掲載日 : [2008-04-25] 照会数 : 5677
<民論団論>「南にこそ核」許せぬ北の居直り
想起すべき「非核化宣言」
フリーライター 朴景久
北韓は3月に入ってから李明博政府に対する非難を強め、李大統領を名指しでののしり始めている。虚偽に満ちた論理はいちいち相手にする価値もないが、見過ごしてはならないものもある。
4月7日付労働新聞の「核の災難をもたらす『北核放棄優先論』」と題した論評がそれだ。韓国におびただしい核兵器があるとするなど、度を越えたウソで固めた居直りである。事実をもって正さねばならない。
「朝鮮半島の核問題は、米国が我らを核で圧殺する目的で南朝鮮を世界最初の核火薬庫に仕立てることでつくり出された問題だ。/李明博一味が朝鮮半島非核化に関心があるなら、まず自分の地に展開されている米国のおびただしい核武器を撤収させる勇断から下すべきである/しかし李明博一味は米国と結託して我々に反対する危険な核戦争演習を行うことによって執権の幕を上げた/彼らが挑発的な『北核放棄優先論』を継続追及する限り、この地に戦争しか起こるべきものがないということは明白である」
この論評は要するに、在韓米軍がおびただしい核武器を持っている、と言いたいのであろう。しかしこれは、南には南北合意の順守を要求しながら、自らはそれを反故にして平然とする体質を自認したことにしかならない。北の民衆を欺いて危機意識を高めさせる一方、南の親北勢力をして反米機運を煽ろうとする意図もあけすけである。
南北は91年12月31日、「韓半島非核化宣言」を採択した。①核兵器の製造・実験・搬入・保有・貯蔵・配備・使用の禁止②核エネルギーの平和利用③核再処理および濃縮施設の保有禁止④南北核統制共同委員会の構成・運営⑤非核化検証のための相互同時視察などを盛り込んでいる。
韓国は91年に「核不在宣言」
この宣言から半月前の12月13日、「南北間の和解と不可侵および交流協力に関する合意書」(基本合意書)が締結され、翌年2月に発効している。これは、南北の政治的・法的な基本関係を初めて定めたものでもあり、南北間の合意文書としては現在に至るもなお、最も重要かつ包括的なものである。
南北はこの時期、基本合意に3カ月先立つ9月17日に国連同時加盟を果たしたのに加え、高位級会談を中心に充実した対話を重ねていた。
盧泰愚大統領は11月8日、「核兵器を製造・保有・貯蔵・配備・使用しないのはもちろん、経済的な必要性が認められる核再処理施設の保有をも、諦めるという決断」のもとに、「韓半島の非核化」を宣言。続く12月18日、「この時刻、わが国のどこにも、たった一つの核兵器も存在しない」とした「核不在宣言」を発表した。
盧泰愚大統領は同宣言で、基本合意書を締結した南北高位級会談の際、「わが政府は、北韓に核査察を避け得るいかなる名分も与えないために、米国政府と協議して在韓米軍基地を含む南北の同時核査察を実施する」ことも提案したと明らかにした。
さらに、「核保有強大国の軍事基地を査察に公開することは、国際的にも極めて異例なことだが、韓半島核問題の平和的かつ円満な解決のために決断を下した」とまで述べている。
米軍核撤去は北韓も前提に
在韓米軍の核兵器は80年代に完全に撤去されており、盧泰愚大統領の在韓米軍基地の査察にまで踏み込んだ発言は、それを裏付けている。北韓としても「基本合意書」と「非核化宣言」の採択や締結に際しては、南に核兵器がないことを前提にしたはずである。
しかも北韓は、「非核化宣言」に基づき92年1月、IAEA(国際原子力機関)との間で「IAEA保障措置協定」(原子力活動が平和利用から軍事目的に転用されないよう検認する制度)にも調印した。
しかし、北韓はその後も核開発を続けた。当初は受け入れていたIAEAの査察を、同年末には主権侵害を名目に拒否し、93年3月にはNPT(核拡散防止条約)からの脱退を、94年6月にはIAEAからの脱退を表明、米軍による外科手術的な先制攻撃が検討されるまでに緊張を一挙に高めた。
その後も、北韓が核活動を凍結する見返りに軽水炉を提供するとし、危機的な状況を収捨した北・米枠組み合意を再びのIAEA査察拒否によって暗礁に乗り上げさせ、北韓の核問題解決のために03年8月から始まった6カ国協議でも引き伸ばしをもっぱらにしてきた。そのあげくの核兵器保有宣言(05年2月)であり、核実験の強行(06年10月)である。
貴重な「非核化宣言」や「南北基本合意」を踏みにじってきたのはいずれか、あまりにも歴然としているではないか。在韓米軍に核兵器があるとの疑念があるなら、「非核化宣言」の精神に基づいて、南北同一の条件下に公開的な共同査察を求めるべきであろう。
多国間安保へ将来見据えよ
韓国におびただしい核兵器があるとか、韓米が核戦争演習をしているとか、これが単なるウソではなく、北韓指導部の被害妄想であるとしても、それは自らの体制とその歴史が生み出したものであることを知るべきである。核兵器を開発し放棄しない理由を南に求めるべきではなく、無実のものを共犯者に仕立てるべきではない。
南北はそれぞれ米国と中国の核の傘のもとにある。こうした対峙の状態は段階的に解消されなければならない。そのためにも、東北アジアの多国間安全保障体制へと必ずや発展させねばならない6カ国協議は有用である。この貴重な場を、19世紀型トリック外交と言われる手法でかき回すのをやめ、韓国をはじめとする関連国に誠意を持って臨むべきだ。何よりもまず、ウソを言わないことである。
(2008.4.30 民団新聞)