"体制転覆"へのマグマ
挫折と動揺 脱出口みえず
金日成生誕100年には、いわゆる「強盛大国」を宣言すると、あれだけ騒がしく宣伝してきた北韓は、今年4月15日、「大国」よりも一段階低い「強盛国家」と宣言することもできなかった。
「強盛大国」の最も大きな祝砲として響かせようとした長距離ミサイルすらも、さる13日、上空で爆発してしまった。10余年前から、「強大国」になる2012年4月が来れば何か贈物らしい贈物や変化があるのではなかろうかと、素朴な希望を抱いてきた住民たちが受けたものは、せいぜい数日分の食料と制服が全てだった。
北韓で裕福な外交官生活をしていた筆者も、大きな名節が近づけばカラーテレビのようなものが、贈物として出てくるはずだという希望を抱いたりもした。だが、何ももらえない時の喪失感は大きかった。
今年いわゆる「4月の名節」政治行事などに数十億ドルをばら撒いた北韓の資源は、枯渇状態に陥っているだろう。
1989年、第13回世界青年学生祝典に途方もない金をつぎ込んだ北韓は、その後急速に衰退の道を歩んだ。しかし今回体験した「トラウマ」は、89年より一層大きく、一抹の期待を持って4月を過ごした住民たちの虚無感と挫折感、憤怒は想像以上であろう。
そのうえ「鋼鉄の手」で北韓を統治してきた絶対権力者金正日が死亡し、28歳そこそこの世間知らず、金正恩がその席についた。絶対権力者が去れば、その席を野心家たちが狙うのが歴史の常だ。禹東則国家安全保衛部第1副部長が国防委員席からいなくなり、朱相成人民保安部長が李明秀部長にかわったのは、北韓権力の核心で深刻な亀裂が発生している証だ。
激しくなる「忠誠競争」
権力内部にひびが入り民心が動揺しているために、体制の中で生き残るための「忠誠競争」が度を越している。ほとんど「狂気」レベルだ。北韓指導部には、このような難しさから脱出する突破口が必要だ。この突破口がまさに猛烈な対南脅迫である。
北韓軍最高司令部はさる18日、スポークスマンの声明で「ソウルの全てのものを吹き飛ばす特別行動措置を取ることができる」と脅迫し、23日、いわゆる「最高司令部特別作戦行動小組」は「李明博ネズミ××野郎どもに対する我ら軍隊と人民の憤怒は天を衝き、我ら革命武力の特別行動は、一旦開始すれば3〜4分、いやそれよりもっと短い瞬間に今まで見たことのない特別な手段と方法で、すべてのネズミ××野郎どもと挑発根源たちを瞬時に焦土化してしまうつもりだ」と通知した。
北韓はすでに3月から「我らの尊厳に触れた者たちはこの地、この空のもとで生きて息を吸える所がないだろう」とし、ごろつきも口にし難い言葉で大統領をののしり、大統領の顔を描いた紙に想像を絶する侮辱を加えていた。
北韓は内部の挫折と動揺の脱出口を対南挑発と脅迫に見い出そうとしているが、これは誤算だ。脅迫は、短い期間では体制の結束の助けにもなるが、中長期的には体制のより大きな脅威として作用する。北韓住民たちが現在、韓国に表向きに見せている「憤怒」は、実際には北韓体制に対する憤怒のしるしである可能性がある。
このような人民の体制に対する憤怒が爆発する時、その程度は、予測不可能になることだろう。世界は、北韓が繰り広げる「狂乱のるつぼ」を注視している。
北韓のミサイル発射後、友邦である中国を含む全世界が素早く北韓糾弾に乗り出したことは、世界がどれだけ北韓を不信に思っているかを示す良い例だ。
自爆への道肝に銘じよ
北韓の軍部と猛烈「忠誠分子」たちは対南誹謗でも体制の激しい不安定さを解消できない場合、金正恩の機嫌をうかがうために「ことばの戦争」の水準を超えて、テロや軍事的挑発を強行する可能性がある。
しかし、延坪島と天安艦事件で軍事力に磨きをかけてきた韓国軍は、北韓が新しい軍事挑発をしテロを恣行する場合、2度と北韓が身動きを取れないように、強力な報復打撃を加える準備をしている。
延坪島事件以後の韓国国民も、以前の韓国国民ではない。ここに同盟国の米国の力が加わる場合、脆弱性に満ちふらついた北韓体制は、挑発した即日でおしまいかもしれないのだ。
北韓は、激しい対南誹謗が体制の結束ではなく自爆をもたらす道だと肝に銘じ、正常な状態に戻って民生の安定を図り、改革・開放の道につかなければならない。
国家安保戦略研究所 戦略室長
(2012.5.9 民団新聞)