道理なき理屈にまだ縛られますか
「一般社団法人在日韓国商工会議所」(以下、「一社」)の朴忠弘会長名義で「経済産業省への訪問・面談報告の件」なる文書が10月21日付で各処に送付された。「一社」側はこれまで、小さな都合のいいものを強調することで大きな都合の悪いものを隠す手法をとってきた。この文書も同じ類のものであり、韓商連問題に対する正しい理解を妨げ、事態解決への努力に冷や水を浴びせるものだ。韓商連の完全正常化に向けて努力してきた者のひとりとして、今回の経済産業省(以下、経産省)との面談の意味を吟味し、この間の流れと問題の本質を改めて整理したい。次回は民団と韓商連の歴史的な関係を確認し、問題解決の方途を提言する。
■□
「経産省との面談報告の件」
収束努力への冷や水か
本題に入る前に、この文書が示す「一社」側の3つの作為をたしなめておかねばならない。
その第1点。「報告」の前書きに「韓国大使館の仲介により」経産省との面談が実現したと記述されている。事実は、呉公太中央団長が話し合いによる解決の糸口をたぐり寄せようと、「一社」の実力者と見なされる崔鐘太氏と会い、コンプライアンス(法令順守)問題がなければ民団傘下団体に復帰するとの一応の合意がなされたのを受け、その点を当事者同士で確認するためのものだった。公館員が同席したのも民団の呼びかけに応じたからである。
第2点。経産省との面談は民団、韓商連、「一社」、公館の4者で行った。であれば、面談実現の経緯と4者間の信義から言っても、「発表」するならば4者の合意に基づくのが筋であるにもかかわらず、「一社」は一方的に配信した。
第3点。「報告」の前書きでは、「(民団が主導する団体の)在日韓国商工会議所/名称使用許可を得ている(一社)在日韓商以外の地方団体(地方韓商)も、韓国商工会議所の名称使用は認められない、との経済産業省の見解が明らかになりました」とだけ強調している。今回の面談目的とは関係のない、自らに都合のいい些細な側面をクローズアップすることで、関係者を幻惑しようとするものと言わねばならない。
本題に入ろう。呉団長と崔氏との一応の合意に基づいた経産省との面談目的は、1,民団は「特定団体」なのか2,韓商連が民団の傘下団体であることがコンプライアンス違反になるのか‐この2点を再確認することにあった。
「一社」の「報告」によれば、この面談で以下の3点が確認されたことになっている。
「身内」の問題当局関知せず
1,経産省は(一社)在日韓商に名称使用を許可した2,経産省は外国人の商工会議所は1カ国1つのみ使用を許可しており、(一社)在日韓商に名称使用許可を与えている3,経産省は(一社)在日韓商が民団傘下団体としてのコンプライアンス問題や民団が特定団体であるか判断はできない。その部分は大使館が判断して、解決策を模索して頂きたい。
言うまでもなく、ここで重要なのは、韓商連はコンプライアンス問題によって傘下団体を離脱しなければならない必然性があったのかどうかに対する見解の3,だけである。経産省の回答は「コンプライアンス問題や民団が特定団体であるかは判断できない」と明確だ。つまり、離脱する名分・理由はなく、「大使館が判断して」とあるように、身内で解決しなさいということにほかならない。
1,と2,の名称使用問題は、執行部を握っていた彼らが勝手に届け出て許可を得、仮処分を申し立て、一応の決定を引き出したものだ。しかし、傘下団体の立場にありながら、民団規約と歴史的な相関関係を踏みにじった手続きは不当であり、組織としての継続性、同一性は存在しようがない。いずれにせよ、この問題については本裁判が継続中である。
■□
商工会議所法の本旨
外国団体は対象外…傘下離脱の必然性ない
韓商連問題の直接の起因は、旧韓商連の一部幹部(「一社」側)がコンプライアンスを口実に民団傘下からの離脱を策したことにある。民団と韓商連の歴史を知らない軽挙妄動と言うよりも、民団組織の混乱もしくは破壊を目論んだものとしか思えない。
そもそも、彼らが言うところのコンプライアンスに現実的な正当性はない。この点については今回に限らず、過去数次にわたって経産省に確認してきたところだ。
11年12月22日、民団の担当者が経産省担当者と面談し、韓商連の定款に民団の傘下団体であることが明記されているが、支障はないかと質したところ、外国の商工会議所は商工会議所法による商工会議所と見なされていないので、この法の適用は受けないとの回答であった。
12年1月12日、民団担当者2名と旧韓商連副会長2名が経産省を訪ね、担当課長および課長補佐と面談し、外国の商工会議所は商工会議所法による商工会議所と見なされていないこと、経産省は民団が商工会議所法第4条の特定団体に該当するかどうかを判断する立場にないこと、従って特定団体かどうかは民団と韓商連との内部問題であるとの見解を得た。
しかし、旧執行部側は強引にコンプライアンスに反すると主張し、傘下団体離脱を強行しようとした。民団が規約とそれに基づく手続きに則り、韓商連をやむなく直轄処分としたのはそのためだ。これについては後述する。
20年来の名称クレームなし
今年に入っても2月13日、韓商連担当者が担当課長及び課長補佐と面談し、経産省は地方韓商の名称使用に口出しするつもりはない、指導などの措置を執る権限はあるが行使はしない、民団傘下団体である状態をコンプライアンス違反として認識していないなどの見解を確認している。
この部分をもう少し整理しておこう。
「一社」側は一般社団法人になることによって、グレードや信用力が向上すると吹聴してきた。しかし、この制度は08年にできたばかりで認知度が低い。従来の社団法人とは違って官庁の許認可は必要なく、出資金もいらないうえに、2人以上の設立社員と必要書類、それに登録免許税の6万円があれば、誰でも簡単に立ち上げられる簡便な制度だ。グレードは低く信用力とも無縁である。
グレード低い一般社団法人
「一社」側は、「在日韓国商工会議所」の名称を使うには商工会議所法の定めに従わねばならないとも主張してきた。ところが、「在日韓国商工会」が「在日韓国商工会議所」に名称変更してから20年余が経過したにもかかわらず、監督官庁から指導を受けたことは一度もない。外国人による商工会議所については、名称の乱立を防ぐために「1国1会議所」の原則を適用するだけで、商工会議所法の対象になっていないのだから当然であろう。
商工会議所法の第4条には「商工会議所等は、特定の個人又は法人その他の団体の利益を目的として、その事業を行ってはならない」とある。「一社」側は民団がその特定団体に当たると強弁してきたが、それが当初から破綻していることはこれまで見てきたとおりだ。
■□
直轄制度の存在理由
組織守る最後の手段…正常化へ大きな役割果たす
民団による旧韓商連直轄の正当性についても押さえておかねばならない。まずは、直轄制度の歴史をおさらいしておこう。
民団は日本に居住する在日韓国人を幅広く糾合してその権益擁護、生活安定を図るとともに、韓日両国の発展に貢献しつつ、両国の友好親善に努めることを目的とする組織である。しかし、創立準備の段階から今日に至るまで、組織を維持運営するうえで深刻な問題を抱えてきた。
南北の激しい対立ゆえに、絶えず北韓独裁に追従する朝鮮総連などの敵対勢力による浸透工作に晒されてきたのがそれだ。これに加えて、特定の宗教団体が民団の看板の中に潜り込もうとする策動、何らかのグループが民団の地方組織や傘下団体を牛耳ろうとする動きも絶えない。
民団の直轄制度は、55年4月に開催された第19回全体大会で導入された。54年に北韓の南日外相が「南北協商会議」を提案し、これに巻き込まれた一部民団人士は、在日朝鮮統一民主主義戦線(民戦、後の朝鮮総連)の主導下に55年1月、「在日南北統一促進協議会」(統協)を結成した。これには、後に民団中央本部の団長に就任された方が複数参加していたこともあり、大きな衝撃を与えた。
統協運動を北韓による浸透謀略と見なした民団は、組織の防衛体制を強化するために首謀者を除名処分とし、直轄制度を導入するとともに、56年には傘下団体規定を制定するに至る。
傘下団体指導民団には責任
祖国の分断に起因する在日同胞社会の矛盾だけが、直轄を必要とする組織の混乱や分裂を招いたわけではない。多様な価値観を有する同胞の結集体である民団は、世代交代や民族意識の希薄化による人的・物的資源の低減にともない、組織の根幹が揺らぐ危機に事欠かなくなっている。現実に、組織活動が沈滞したり、時には後継者が不在になったりする場合もある。その際には、上部組織が直轄し、活性化・正常化させるというシステムが働くことになる。
直轄制度は、民団が危機を克服し組織を回復するための手段として有効に機能してきた。このような組織防衛あるいは機能正常化のためのシステムは、傘下団体にもそのまま適用される。今次の旧韓商連に対する直轄処置がまさにそうだ。
民団規約の第3条は「本団は中央本部を東京都に置き、地方本部、支部、分団及び班、本国事務所、連絡事務所と中央委員会で承認した傘下団体を統轄する」と明記しており、これに基づいて傘下団体規定が定められた。
これら規約・規定は、傘下団体が民団の一部を構成し、民団の目的たる綱領を具現することを明確に求めている。また、傘下団体組織の危機管理に関しても、最終的には民団中央本部が直接指揮権を発動できるようになっている。規約上および慣例上、民団は地方本部・支部および傘下団体が一体となった組織であることは歴然だ。中央執行委員会に主要傘下団体の長が、中央委員会には全傘下団体の代表が参加して高度な意思決定に関わるほか、「全国地方団長・中央傘下団体長会議」も年2回開かれる。
民団中央本部が規定に基づき傘下団体に対する直接指揮権を発動した事例としては、65年の在日韓国学生同盟(韓学同)直轄、次いで72年の在日韓国青年同盟(韓青)・韓学同の傘下団体認定取り消しがある。
地方本部が傘下団体を直轄したケースも少なくない。岡山本部が80年代初頭と00年代初頭に婦人会本部、西東京本部が90年代に婦人会本部と青年会本部に発動した。93年には静岡本部が静岡韓商を直轄している。私が確認できていないだけで、事例は他にも多数あるはずだ。知る限り、すべて組織正常化に成功している。
韓商連に話を戻そう。問題の遠因は内部の派閥的な抗争にあったと見ていい。旧韓商連執行部で現「一社」側の崔鐘太、朴忠弘氏らは「在日世界韓人商工人総連合会」(以下、「在日世総」)のメンバーと激しく対立してきた。
直接の起因は内部の対立に
彼らは「在日世総」を強引に分派組織と規定、改悪した定款を適用して「在日世総」のメンバーが会長を務める地方韓商を直轄し、会長を除名処分とした。彼らはこれらの措置を民団に追認するよう迫ってきた。民団がこれを了解するはずもなく、彼らと「在日世総」とが和解するよう調停案を示して努力したものの不調に終わった。
コンプライアンスを全面に立てた傘下団体離脱の主張は、彼らがその論議の過程でにわかに提起したものだ。しかし、彼らの論理はこれまで見てきたような経産省の見解によっても否定されている。民団の結論は当然ながら、傘下団体からの離脱は認定できないということであった。
ところが彼らは、一切の手続き(総会での決議、民団中央委員会での承認など)もないままに傘下団体離脱を一部の者だけで決め、宣言した。民団の重要な構成部分である商工人組織がこのような形で傘下団体を離脱することは決して容認できるものではない。これを阻止して地方の混乱を鎮めるために、12年2月、緊急避難的な措置として直轄の断を下したのである。これは同月に開催された第66回定期中央委員会において、圧倒的多数で承認された。
彼ら「一社」側はしかし、規約運用に関する見解統一に明記されている「民団組織において規約の条項に抵触し、規約に基づいて処分された者は、当該問題において不服があっても、司法に提訴してはならない」という規範を無視し、民団中央本部会館内に警察を呼び込み、裁判所に提訴した挙げ句、刑事告発するまでに及んだ。
あくまでも対決姿勢を露わにする傍若無人な彼らの振る舞いに、4月の第52期第1回中央執行委員会は関係者の処分を団長に一任、7月の第2回中央執行委は「一社」を「反民団組織」と規定した。これらを受け民団中央本部監察委員会は首謀者4人を除名、1人を停権処分として今日に至っている。
(2013.10.30 民団新聞)