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きしみ強める東アジア
新たな火種 防空識別圏
韓国の迅速なADIZ対応
A 日本と中国のにらみ合いは、中国が尖閣諸島(中国名=釣魚島)を含む東シナ海(韓国では東中国海)にADIZ(防空識別圏)を一方的に設定(11月23日)したことで、海ばかりか空にまで拡大したことになる。重苦しさが続く韓日関係に比べて韓国と中国は「蜜月」にあるかのように言われてきたが、それも少々怪しくなってきた。中国の新たなADIZは韓国の領域を覆うものでもあるからだ。そこにまた、北韓ナンバー2の張成沢・国防委員会副委員長が粛清されたとの情報も飛び込んできた。東アジア情勢は弾き合いときしみを強めている。
B ADIZは領空とは違い、設定国が進入する航空機の国籍識別、位置確認、飛行指示などを行う空域であり、いわばバッファーゾーン(緩衝域)のことだ。本来は軍事的な措置が直ちに発動される空域ではない。しかし中国は、日本が固有の領土と主張する地域にまで一方的に拡大し、しかも、進入した航空機には軍用機で対応する方針まで示唆している。
C 日本政府による昨年9月の尖閣諸島国有化に対して、中国は公船による示威行動で対抗してきたが、ADIZの拡張はより本格的な対抗・報復措置なのだろう。中国の狙いは最低限でも、ここを国際紛争地域として既成事実化することにある。両国は一歩も引かない構えというか、引けなくなっている。
D その新識別圏に韓国が管理している離於島(済州道西南の馬羅島から西南149㌔にある岩礁)が含まれた。実はここに、日本もADIZを設定していて、是正を求める韓国との交渉を拒否し続けてきた経緯がある。この日本に対抗措置をとらなかった韓国が中国に対しては素早く動き、15日からADIZを離於島一帯にまで拡大することを8日には発表した。離於島がそれだけ、中国との深刻な葛藤事案になっているということだ。
A 韓中間の排他的経済水域(EEZ)の境界はまだ確定されていない。それを盾に中国は、韓国の離於島に対する管理権を認めようとはせず、06年には「蘇巌礁」と名付け、「韓国の一方的な行動は法的効力がない」と主張してきた。だが、国際的な基準である中間線原則に基づけば、離於島は韓国側水域に属している。
B ICAO(国際民間航空機関)の承認を得た韓国のFIR(飛行情報区)は離於島を含めていて、ADIZよりも広く設定されている。韓国はこれをFIRと一致させる方向で拡張したわけだが、離於島空域で日中の既成事実化への攻防を放置すれば、韓国は弾き出される格好になるとの危機意識もあったと思う。
C 先月28日の韓中国防戦略対話で、韓国が是正を求めたのに対し中国は、「核心的利益を守る正当な措置だ」との論理を繰り返して韓国を失望させた。だが、韓国がADIZ拡張を決めたその日、中国の外務当局は「互いの主張を尊重し合うという基礎の下で意思疎通を図っていきたい」として、韓国には柔軟な姿勢を示している。
D そうは言っても中国の今回のやり方は、「核心的利益」をめぐって韓国とこじれれば、韓国にとって厄介な中国漁船による集団的な違法操業を放置するとか、さらには、ADIZを西海の韓国側にまで広げる可能性を危惧させるものだ。
B 離於島問題で韓国が日本に強く出なかったのは、独島問題への跳ね返りを避けるためだったともいう。つまり、ADIZを韓国が離於島にまで拡大すれば、対抗上、今度は日本が独島を含めてしまうのではないか、との懸念からだ。日本政界の一部には今回の事態以前からそのような動きがあった。
C だが、韓国が容認するはずもなく、また、米国の支持も期待できない。事実、折から訪韓中だった米国のバイデン副大統領は、韓国の今回の措置を容認する考えを示し、米国務省も国際的な慣例や飛行の自由尊重、関係国への事前説明があったことを評価した。日本も特段の問題はないとの態度だ。中国への対抗上、韓国との争点化は避けようとの判断もあるだろう。
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「等距離」外交なのか
信頼醸成は不断に…中国重視も土台は韓米同盟
股裂きの危険常にはらんで
A 国交正常化(79年1月)からもうすぐ35周年になる米中は今、2大強国として、競合しながらも決定的な衝突は回避する「新型の大国関係」を探っているという。しかし実際のそれは、経済分野などでの協力を拡大させながらも、軍事的な激しいせめぎ合いとなって表れている。「韓米同盟」と「韓中友好」の二つの大きな足場を支えとする韓国だけに、対米・対中は等距離であるべきだとする論調も少なくない。しかし、バランスを取るどころか、いつ股裂きにあってもおかしくない状況がある。
B それが韓日関係にも跳ね返っている。日本は対米同盟強化を最優先し、中国と対決する構えを強める一方であり、立ち位置ははっきりしている。韓国に対しても、東アジアの平和と安定に大切なのは日米との結束であり、中国に取り込まれてはならないと働きかけてきた。それだけに、米国と中国との間で揺らいでいるように見える韓国に苛立ちが募っている。日本の一部メディアによる異様な韓国バッシングはその表れだ。
C 中国とはそれでも対話ができるのに、韓国とはその糸口さえつかめない。日本ではこの間、こんな思いが強まり、外務当局者の間にさえ嫌韓意識が広がったという。そこから、先に中国との首脳会談を行えば、韓国は応じざるを得なくなる、との考えが強まってもいた。だがこのシナリオも、中国の一方的なADIZ拡大によって色あせたかっこうだ。
D オバマ政権も韓国側に、韓米同盟の重要性を改めて強調し、米国のアジア太平洋再均衡政策に対する明確な支持を求めている。朴槿恵大統領が「中国とも戦略的なパートナーシップを持続的に発展させたい」としていることについて、米国に対する相対的な信頼の低下を感じ取っているからかも知れない。
B 米国の安保問題専門家や高官の間では、韓半島に統一機運が熟すと韓国は韓米同盟を縮小し、統一に対する支援への期待から中国との関係を最優先するのではないか、との見方が伝統的にある。
C その点では韓国にもトラウマがあると言うべきだろう。カーター大統領(77〜81年)が政権内部で真剣な討議もせず、驚愕する韓国や憂慮する日本の反対も考慮しないまま、駐韓米軍の撤退を貫徹しようとしたのがそれだ。韓国はそれこそ国家存亡の危機に陥った。朴大統領は当時、ファーストレディーとして父である朴正熙大統領を支え、これを阻止するために神経をすり減らす思いをした経験がある。
対中輸出規模韓国が1位に
B 歴史的には紆余曲折があっても、韓米同盟は揺るがせてはならないことは国民が知っている。東亜日報などが10月に1500人を対象に行った意識調査で、韓米同盟を必要とするは96%で、3年前の87・2%に比べても大きく伸びた。この3年の間に、北韓による延坪島無差別砲撃事件や長距離弾道ミサイルの発射、3回目の核実験の強行があり、核戦争危機の醸成があったことなどを反映したのは間違いない。
D 韓国は今年、貿易量1兆780億㌦、輸出額560億㌦、貿易黒字430億㌦を達成する見込みだ。円安の打撃を受けながらいずれも過去最高を更新し、史上初の「トリプルクラウン」となる。だが、輸出市場の多角化や品目多様化が奏功した面もあるとはいえ、やはり最大の要因は対中輸出の伸びだ。中国の国家別輸入規模で韓国は9・4%の1500億㌦(1〜10月)となり、初めて日本を抜いて1位になった。韓国の輸出における対中依存度はざっと27%にもなる。
A 韓国が頼みとするのはいわば、非常時の米国であり、常時の中国だ。その中国の存在はきわめて重い。経済だけでなく、北韓リスクの管理でも期待がかかる。しかし、その「常時」にとらわれるあまり、「非常時」への備えをおろそかにできるだろうか。今年で60周年の韓米同盟とはいえ、不断の努力があってこそ万全の機能を発揮する。等距離外交などと言って両国を天秤に載せるようであれば信頼関係は維持できない。どこまでも、堅固な韓米同盟あってこその韓中友好とのスタンスは不動であるべきだ。
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日本は重要なパートナー
保守層も対応割れる…「オール韓国」づくり急ごう
A 本紙は昨年、「風雲急を告げる東アジアと韓国」と題する論考(11月7日付)で、島嶼領有をめぐる韓国と日本、日本と中国の緊張が深刻な段階にあると指摘し、外交・安保問題には「国民力」が問われると強調した。その後、朴槿恵新政府が誕生するところとなり、保守勢力による舵取りに期待が集まった。だが、中国や日本に比べて腰が定まっていない。
日・中ともにタガは緩まず
B 高い支持率を誇った安倍晋三政権も、特定秘密保護法案の強行採決などでかげりを見せ始めた。アベノミクスによる経済的な勢いが鈍れば大きな揺り戻しがあるかも知れない。それでも、対米軍事同盟を後ろ盾とする日本の対中姿勢は、当の中国が変わらない限りぶれることはないだろう。韓国に対する態度も、歴史認識や従軍慰安婦、徴用工の問題など植民統治時代に根を持つ諸懸案については対応が割れても、韓国が満足する妥結点を見い出すのは容易でない。
C 中国は内部に経済格差と構造化した汚職、人権尊重と民主化への要求、加えて少数民族問題など国を揺るがす悪材料をいくつも抱えている。しかしやはり、安保・外交問題に限っては国論を分裂させる可能性は見当たらない。必ずしも、一党独裁の国だからそうなのではなく、過去の屈辱を忘れない勢いのある新興国として、「核心的利益」の確保・拡大については一丸の印象がある。
D いわば、オール日本とオール中国というわけだ。確かに、両国のそんなタガは緩みそうにない。それだけに、その狭間にあって、両国より国力の劣る我が国が外交・安保面でもオール韓国にはなっていないことへの懸念が膨らんでくる。
A 北韓リスクが頭上にある韓国の選択は、最強国の米国ほど自在でもなければ、中国とは海洋を隔て、北韓に対しては韓国がディフェンダーの役割を果たしてくれる日本のように、スパッとはいかない。韓米同盟と韓中友好のバランスをとることが至上課題となるのは当然だ。だが、それを貫くには国力が不足している。その国力とは、内憂があっても外患には結束して対応するオール韓国への国民的な政治力のことだ。当面は軍事・経済力以上に重みを持つ。
B 問われるのは米国か、中国かの選択だけではない。両国の言う「新型の大国関係」は当分、崩れそうにはない中で、むしろ、日本との関係が当面の最大変数になる。現実に、対日政策での葛藤が目立ち始めた。しかも、いつもの保守対進歩のそれではなく、保守内部でだ。
C 韓国メディアは当たり前のように、米国と中国、中国と日本の間で国益を守るには、賢明で冷徹な外交が必要だと強調する。この点について、保守系でも「首脳会談すらない韓日間の極端な対立状態が長期化し、米国の態度にも微妙な変化が感知されている」として、「朴槿恵政府の対応は失望的だ」といった論評をはばからない。しかしその一方では、軍慰安婦問題など懸案の解決が見通せないまま首脳会談に臨んでも、国民の支持を失うだけでなく、関係をさらに損なうとの論調も根強い。
D 韓国と東アジアの安定・発展の土台は、経済面では韓中日であり、軍事面では韓米日の密接な関係だ。韓国にとっていずれの面でも、日本が重要なパートナーである事実は動かない。経済・軍事に直ちには結びつかず、また結びつけるべきではない歴史認識問題で、韓中が対日攻勢をかけるような構図は長続きしないだろう。続けば続いたで、対日問題で韓国が股裂きになりかねない。
日中首脳会談先行の可能性
B 仮に、韓日が懸案を劇的に解決して和解し、関係が過去のいつよりも良好になったとして、それだけで韓国と中国の関係は変わるだろうか。そうはなるまい。それよりも、歴史認識問題にさほどこだわらない中国が日本との首脳会談に応じる可能性を考えておくべきだ。
C 中国は日本による尖閣諸島国有化を高飛車な強圧ととらえ、首脳会談を呼びかける日本に応じるのは屈辱と受けとめたはずだ。だが、今回のADIZ拡大である程度対等な立場に立ったと判断しているだろう。であれば、逆攻勢をかける意味でも、日中首脳会談の可能性は出てくる。
北韓リスクに注意を怠らず
D 先月末の韓日・日韓議連の合同総会(1面参照)は、共同声明に盛られた以上に中身があった。3国を歴訪した米国のバイデン副大統領が韓日両首脳に関係改善を促したことも、公にされている以上に効果があったのではないか。首脳会談がすぐには無理でも、それとは分離して議員外交を深め、高官級の実務協議を密にする動きが見えてきた。韓日とも感情対立を煽る愚を自制すれば、修復への動きが軌道に乗るだろう。
A 平壌の政変は党より軍の発言権を強め、金正恩の唯一指導体制を固める過程と見られている。対外政策で融和的とされてきた張成沢の失脚は、軍部の台頭と相まって強硬路線に傾けることになるかも知れない。いずれにせよ、米国を巻き込んで韓中日が軍事的にもしのぎを削る状態が続けば、新たな軍事挑発を仕掛けてくる可能性が高まる。また、韓国内外の従北勢力を動員して韓中、韓米の離間、韓日関係のいっそうの悪化を策すだろう。しかも、平壌政権に大きな亀裂が生まれたのは間違いなく、韓国はどの国よりもそこから派生する脅威にさらされる。外患を軽減する大局的な見地から対日関係を早急に再構築すべきだ。
(2013.12.11 民団新聞)