掲載日 : [2022-03-16] 照会数 : 3392
新幹社創立35周年へ図書出版 在日2世の視点で
[ 高二三さん(東京・千代田区の新幹社事務室) ]
約6坪とされるビルの一室は本と原稿がうず高く積まれていた。「地震があったら本に埋もれて死ぬ」という高二三さん(70)の言葉が冗談には聞こえなかった。ここは図書出版「新幹社」の事務室。創立から35周年を迎えようとする歴史の重みが感じられた。
これまでの出版点数は約250冊。通算すると3カ月に2冊のペースで出してきたことになる。この半数は「在日」がらみだ。基本的な立ち位置は反権力のジャーナリズム精神。当然、一部日本人のゆがんだアジア観には厳しい。これは社名を日本統治期の抗日団体「新幹会」から採ったことからもうかがえる。
処女出版は『指紋制度撤廃への論理』。高さんも自ら押捺拒否の市民運動に身を投じてきた一人だ。創立30周年には1400㌻にのぼる大著『旧日本軍朝鮮半島出身軍人・軍属死者名簿』を記念出版。最近では廃刊のままだった姜徳相さんの名著『関東大震災』を復刊したのが記憶に新しい。
たとえベストセラーにならなくても、自らの使命感を優先してきた。とはいえ、使命感だけで会社を経営できない。経営のかじ取りと使命感のバランスが悩ましいところだ。それでも「生き延びるために」と新刊書籍の宣伝も兼ね、小さな市民集会にも足を運んで売って歩く。
1951年、東京・北区で出生後、伊豆大島で育った。父親は車の運転手とスクラップ回収など、母親は海女の仕事で生計を支えていた。小学校5年生で東京の浅草に移り住んだが、家計の貧しさは相変わらず。家に教科書以外の本がなかったほど。
最初は漠然と物書きを志望するようになった。卒業後は在日1世の創刊した『季刊三千里』編集部に勤務。この時の経験から出版社創立を志すようになった。
70歳になったいま、悩みは後継者探し。在日の立場で反差別の精神を引き継いでくれる人に新幹社を譲り渡したいという。それまであと5年はこれまでにやり残した仕事をしながら待つのだという。
(2022.03.16 民団新聞)