「文化センター・アリラン」が企画展示
関東大震災時の朝鮮人虐殺(1923年)などをはじめとする研究から朝鮮近現代史に対する独自の「在日史学」を切り拓いた在日韓国人研究者、故姜徳相さん(滋賀県立大学名誉教授、在日韓人歴史資料館前館長)を追悼する企画展が20日まで5日間、東京・新宿のNPO「文化センター・アリラン」であった。姜さんが生前、同NPOで主宰した私塾で学んだ受講生たちが中心となり「研究業績を広く伝えたい」と企画した。
展示品で目を引いたのは早稲田大学第一文学部史学科で東洋史を学んだ姜さんの卒業論文『近世中国の孔子排撃運動について』(1954年)。遺族が提供した。
姜さんはこの卒論執筆時に日本の著名な歴史家、山辺健太郎から「朝鮮史は日本史のゆがみを正す鏡だ。朝鮮人なら朝鮮を勉強せよ」と勧められ、朝鮮史に路線転換する。
姜さんは「はじめはエエっと思ったのですが、勉強していくうちにこれは本当に正しい格言だと思いました。これは私の一生の教訓になりました」(『時務の研究者 姜徳相』)と後述している。
著作コーナーにはみすず書房から出版した共編資料集成『関東大震災と朝鮮人』(1)~(6)、季刊『三千里』のバックナンバー、死の直前まで心血を注いで執筆した『呂運亨評伝』全4巻(新幹社)などが並んだ。『朝鮮独立運動の群像』(青木書店、98年)は自筆原稿を展示した。
姜さんは解放前、慶尚南道咸陽郡で生まれ、2歳のとき母親に連れられて渡日。新制青山高校在学当時は「神農智」という通称名を使っていたことが同校新聞部発行『くまんばち』への投稿記事で見て取れた。姜さんが「朝鮮人宣言」したのは大学在学中の56年のときだった。
関東大震災時の朝鮮人虐殺真相追究コーナーでは、流言が「自然発生」したものではなく、「官憲」によって意図的に流布されたものだと主張するに至った論考を紹介している。
遺志継ぎ次作完成へ呉充功監督が追悼講演
姜さんを唯一の「師」と仰ぐ映画監督の呉充功さん(66)が19日、文化センター・アリランで講演した。講演の模様はZoomで同時配信された。
呉さんは横浜放送映画専門学院(現・日本映画大学)で卒業作品「隠された爪痕‐関東大震災と朝鮮人虐殺」の製作中、姜さんの自宅を訪ねたのが始まり。当時、26歳だった。
映画は関東大震災を直接目撃した当事者証言を集めたドキュメンタリーだが、対象を広げ過ぎ、映画作りに行き詰まっていた。姜さんからは対象を東京の荒川地域に絞って取材と立証を重ねるようにとの助言を受けたという。このアドバイスを受けて映画は1年半後の83年に完成することができた。
以来、姜さんの近くで、「誰よりも濃い密接した時間」を過ごしてきたという。2012年8月から21年3月までの10年間は晩年の姜さんに密着し、撮影収録。関東大震災朝鮮人虐殺の研究と近代史を語る重要な部分を選び、19分に編集しなおした。現在、生前の姜さんが待ち望んでいた「払い下げられた朝鮮人」に続く第3作の完成に向けて奔走している。