掲載日 : [2004-07-21] 照会数 : 2891
「親日行為糾明法」改正案に思う 「民族精気」の両刃(04.7.21)

特別寄稿 丁海龍(民団中央常任顧問)
健全な歴史観培おう…政治的葛藤持ち込まず
「日帝強占下の親日反民族行為真相糾明特別法」を強化する改正法案が、全議員の6割近くの賛同によって国会に提出された。「歴史を整理」し、「民族精気を立て直す」ことを目的とした法律がどのような政治的葛藤をもたらすのか、固唾を呑む思いで見守ってきた一人として、同法を施行前に変えようとする動きに戸惑いを覚える。
48年に公布された「反民族行為処罰法」が実効をあげないまま、権力中枢に親日行為者を温存し、韓国のその後に深刻な禍根を残したのは否定できない。最近では、韓国現代史や南北関係史に対する評価が両極化しつつあり、親日派清算や国家的な「自主性」の面から、北韓に比して韓国を否定的にとらえようとする韓国版「自虐史観」さえ登場している。
亀裂深める歴史認識
歴史には多様な解釈が許されるにせよ、歴史観の大きな振幅は、日本との間で植民地支配に関する認識摩擦が絶えないばかりか、祖国統一の過程でいずれは北韓とも歴史認識をめぐるせめぎ合いが避けられない韓国にとって、由々しき事態といわざるをえない。
民団は、日本が韓国に対する実質的な支配体制を敷いた乙巳保護条約締結から100周年の来年を「在日同胞100年」と位置づけた。来年はまた韓日国交40周年であり、ほどなく韓日併合100周年を迎える。それまでに、北韓と日本の国交交渉が本格化する可能性は高く、植民地支配をめぐる歴史認識論争がかまびすしくなるのは必至だ。私たちは歴史にまみれることになる。
これに、能動的に対処しなければならない。「民族精気」とは何か、この概念規定はさておき、改めて「歴史を整理」し、内外の国民・同胞自らがより健全な歴史観を培い、歴史形成の主体意識を確固とする意味には大きいものがある。
しかし、「糾明法」とその改正法案は、本来の目的を全うすることができるのだろうか。第一に、親日行為者を特定してその反民族的な行為を明らかにする手法と目的との因果関係があいまいであり、人権と名誉を不必要に傷つけるだけに終わらないか、第二に、国民精神に深くかかわるこの作業は政治主導によって一気呵成に行われるべきものであろうか、との疑問が残る。
「糾明法」の直接の対象者はほとんどが世を去っている。改正法案では、親日の前歴があっても民族的な行為が明らかになった場合には救済でき、調査結果に対する異議申請権も認めた。しかし、故人にはいかなる弁明もかなわず、子孫にしても国家機関の調査に対抗する反証をどれほど持ち合わせていようか。
子孫に累及ぼす危惧
親日反民族行為は血統の問題でもなければ、代を継ぐわけではないにもかかわらず、調査対象にリストアップされるだけで、子孫係累に大きな打撃となるのは自明である。父祖の行為をもって子孫を社会的に、あるいは政治的に葬ることにつながりかねない。
ここで、私事に触れるお許しをいただきたい。いくつかの記録によれば、17歳で渡日した私の父は同胞労働者を組織し、民族運動に身を投じている。現実に合わせて生きることがやっとだった時代に、父の生き様は誇らしく思える。しかし私自身は、たまたまそういう父をもてたにすぎない。父祖の履歴によって子孫が顕彰されたり、貶められたりすることには強い違和感を覚える。
ドイツは戦後、絶対悪であるナチスに責任を押しつけることでドイツ人全体の戦争責任を回避してきた。そのドイツが自らの統一を含む東西の和解、そして大欧州の形成に中心的な役割を果たせたのは、ナチスを生んだドイツ人全体の歴史的な責任を正面から受けとめ、国際的な信義を獲得したからである。
加害と被害とで立場は異なっても、歴史に対する責任の取り方に違いはない。わが国に何より求められるのは、親日行為者をリストアップして指弾することより、なぜ国権を奪われるに至ったのか、なぜ親日派が排出したのか、その真相をもって歴史的な教訓にすることだ。堅固な歴史観に立つことは、盧武鉉大統領が提唱するところの、わが国が東北アジアの中軸国家として強大国に伍していく必須要件である。
そのような意味からも、改正法案が調査対象者を大幅に拡大した真意を受けとめかねている。改正法案が可決されれば、ハンナラ党の前代表・朴槿恵氏の父である朴正煕元大統領や、現政権・与党と激しく対立する言論機関の創業者たちも調査対象になる。意図するとしないにかかわらず、同法案は現在の政治構造にあって濃厚な意味を持つ。
報道によれば、ウリ党の辛基南議長は、「われわれの関心は朴元大統領やマスコミ創業者数人にあるのではなく、親日行為の真相を糾明し、歴史を正しく整理することにある」と言明した。(中央日報14日付)。しかし私たちは、「与党ウリ党は『親日派』が現在も保守層として隠然とした影響力を保持していると指摘、『歴史の清算』のための改正だと主張している」(共同通信14日付)との報道にも接した。
4・15総選挙によって保守・革新の2大政党制が育まれ、両党は「対立と葛藤の旧時代的な政治に完全に決別し、共生と和合の基本枠を築く」ことなどを盛り込んだ協約を結び、議会中心主義の具現にも合意した。これは、韓国民主主義が保革の角逐を国会に収斂することを可能にするまでに成熟した証といえる。
政治的な対抗勢力である保守層を親日派残滓と同一視し、場外闘争で追い詰めようとするのであれば、与野党協約に背くだけではない。与党自身が、国家保安法を道具に民主勢力を弾圧してきたと批判する歴代保守と同列に並ぶことになる。
合わせて、「民族精気」を掲げて国民に最もアピールしやすい材料を政治的に動員し、他者を攻撃することの危険性を指摘しないわけにはいかない。民団員を含む同胞たちが一部日本人の歴史認識を道具にするそうしたアイデンティティー・ポリティクスによって、脅威に曝されていることを思えばなおさらである。
同族相残戦争の憎しみを超え、南北和解を主導しようとする現政権・与党のもとで、南南葛藤が深刻化しかねないアイロニーをどう受けとめればいいのか。外に向けての団結より、内部的な政治報復に執着したわが民族の歴史を繰り返すことだけは避けたい。わが国の緊要な課題は、東北アジアの安定と平和統一の基盤を磐石にすべく、国内外の全力量を結集することにある。
(2004.7.21 民団新聞)