掲載日 : [2017-06-14] 照会数 : 5797
「強制徴用」にふれず棚ざらし続く説明板…同胞犠牲の長生炭鉱事故
[ 説明板を設置予定の海岸から臨む2基のピーヤ ]
【山口】坑道内で異常出水し、韓半島出身の労働者を中心に183人の坑夫が犠牲になった1942年の長生炭鉱事故。市民団体による20年来の求めに応じて宇部市と市教育委員会は現場に説明板を設置することに同意した。しかし、事前に文案を示された市民団体が「史実と異なっている」ことに気づき、設置の延期を要請。その後の修正協議は平行線をたどっている。
市民団体が修正要求
説明文(案)は13年、当時の宇部市教育委員会が中心となって作成し、市長と教育長の決済をとったうえで市民団体「長生炭鉱の水非常を刻む会」(共同代表=井上洋子・内岡貞雄・木村道江、宇部市常盤町)に示した。
それによると、石炭が黒ダイヤと呼ばれ、宇部市に大きな利益をもたらした一方、長生炭鉱事故では韓半島出身者を含む183人が犠牲になったという事実にふれた。
問題となったのは最後の段落。「石炭は郷土の経済産業だけでなく、国のエネルギー政策を支えてきました。私たちは先人たちの命をかけた炭鉱への思いを未来へと継承していかなければなりません」と締めくくった。
文面を素直に読めば、先人たちの命をかけた炭鉱への思いを、長生炭鉱犠牲者にも重ね合わせることになる。だが、水没事故犠牲者の大半は韓半島出身者だった。同会は「彼らが積極的に『命をかけた』という事実はない。従って説明文は、犠牲者の想いや願いを歪曲したものといわざるをえない」と強い不快感を示している。
ましてや、強制徴用や強制労働の史実にはまったくふれてないだけに、「歴史の真実に向き合うことにおいて不誠実だ」と指摘。「もし、犠牲者の遺族がこのままの説明板を目にしたならば、新たな痛みを負わせられてしまうのでは」と心配している。
市が設置を予定しているのは宇部市の東部、瀬戸内海に面した床波海岸にまるで墓標のように水面に突き出ているコンクリートのピーヤ(排気・排水竪坑)2基を臨む場所。同会では今月30日、15日までに集まった賛同人署名を携えて宇部市長に面会を求め、あらためて説明板の修正を要望していく。
「市の公式見解曲げられない」宇部市教委
今年4月に赴任したばかりという宇部市教育委員会の担当者は、「詳しい経緯は不勉強で、まだ承知していない」と断ったうえで、「個人的には水非常を刻む会としての主張は気持ち的に分からないわけではない。だが、市長と教育長から決済をとった公式の見解を曲げるのはどうか」と否定的だ。
(2017.6.14 民団新聞)