「あの情感、多くの人に知ってほしい」
年に数回、もう11年
2004年から在日の歌手をはじめ、韓国の伝統楽器やパンソリなどの音楽ライブを自宅で、年に数回行っている島津威雄さん(75、京都市北区衣笠在住)。中国・韓半島の祭りや芸能などを題材にドキュメンタリー映画を制作している前田憲二監督(NPO法人ハヌルハウス代表)との交流を通じて、韓国の伝統音楽に触れた。「自分自身が楽しくなかったら続かない。いいと思ったものを、ひとりでも多くの人たちに知ってもらいたい」と話す。
自宅ライブは04年、友人を通じて在日同胞歌手の李政美さんを招いて開いたのが始まり。在日の歌手では朴保さん、新井英一さんも。
翌年、80年代後半以来親交を深めてきた前田監督に「公演会場を探してほしい」と依頼された。公演はハヌルハウスが企画したパンソリ「春香歌」。出演は韓国の人間国宝である金美貞さん(パンソリ)と林青玄さん(鼓手)だ。
当初予定していた関西公演の会場が急きょ、使えなくなった。島津さんの自宅は、観光スポットの金閣寺の真裏に位置する。「出会いの場」として、ふすまを外せば最大70〜80人は収容できる部屋を開放。当日は、前田監督の記録映画「原色に白を求める画家・呉炳学の宇宙」も上映した。
「パンソリのことは何も分からなかったけど初めて聞いた時、何か惹かれるものがあった」。子どもの頃、近所に住んでいた韓国人が作っていたニンニク入り料理の香りや夜になると聞こえてきた太鼓の音…。昔の記憶がよみがえったという。
島津さん自身、12年前に定年退職した三重大学の教員時代、在日の学生や歌手らとの交流を重ねてきた。
この10年間で11組20回以上のライブを行った。回を重ねるごとに「楽しさが増してきた」。ここ4、5年はサムルノリや在日を含む若手国楽演奏グループなどのライブを続けている。
島津さんの心強い味方は、自宅ライブで知り合った韓国伝統茶房「タルマジ」(大阪・生野区)のオーナーの高貞子さんだ。店内で韓国伝統芸能公演や寄席などを行い、幅広い人脈を持つ。舞台設定のアドバイスなどもしてくれる。
12年には高さんと一緒に全州ソリ祝祭ツアーに参加した。カヤグムやピリなどの演奏を本場の韓国で聴いて感動した。「なんとも言えない思いになった。本当に良かった」
島津さんをはじめ、運営にたずさわる人たちは全てボランティアだ。ライブ終了後の打ち上げ(会費制)では、釜山出身で、現在京都に暮らす韓国人工芸作家が、毎回自慢の料理に腕を振るう。
島津さんはこれまでで一番心に残った演奏家は、パンソリの金美貞さんと林青玄さんだと話す。「初めは2人の人柄に惹かれた。そして、あの情感がこもった声と太鼓(プクソリ)の音は、言葉では表現できない。また聴きたい」
実は、島津さんは07年に2人のライブを自宅と淡路島、愛媛の3カ所で行っている。「今度はいつ実現できるかな」と思案中だ。
韓国で伝統音楽を学んできた若手の在日同胞たちへの思いもある。日本での活動の場は限られているために、韓国に留まる演奏家たちは多い。
島津さんは「日本にファンはいる。だけど、うまく宣伝ができていないと思う。不特定多数の人たちが来てくれるようにしないと」と話す。
自宅ライブには山口、滋賀、名古屋などの遠方からもファンが駆けつける。「在日だけではなく、いろいろな人との出会いの場として、協力してくれる人がいたら、ライブを続けていける。次は国楽器の合奏も開いてみたい」
「閔俊泓 韓国伝統音楽LIVE〜笑謔之戯(ソハクチヒ)」
20日。島津宅(京都・北区衣笠赤坂町1‐60)。15時開演。前売り3000円、当日3500円。打ち上げは要予約。別途2000円。
出演は、在日韓国人3世の韓国伝統音楽演奏家、閔俊泓さん(ピリ他)、金克典さん(チャンゴ)、金素 さん(カヤグム)。慶尚南道に伝わる巫俗音楽の創作曲や25弦伽 琴の伴奏によるピリの京畿民謡独奏などを披露する。問い合わせは(090・2801・5680)。
(2015.6.10 民団新聞)