掲載日 : [2008-12-11] 照会数 : 8216
「講師」処遇に不満の声 外国籍教員主任にすらなれず
「91年通知」で現場が混乱
91年韓日覚書に従い、文部省(当時)は在日韓国人をはじめとする外国籍者の公立学校教員採用試験の門戸を開放した。この結果、全国の道府県で外国籍教員が「期限を付さない常勤講師」として採用されている。しかし、職種が「教諭」ではないため、多くの日本人教員が一定の経験を積むと就任する主任にすらなれない。このことに当事者ばかりか、教育現場も困惑している。それだけに来年1月、東京で開催される「在日韓国人の法的地位に関するアジア大洋州局長会議」への期待は大きい。
教育現場の混乱は91年3月22日の文部省教育助成局通知にある。
通知では日本の「公立学校教員採用試験について」「日本国籍を有しない者について受験を認めること」としたが、就任できる職種は「教諭(または助教諭)に準じる職務」である「常勤講師」とした。これは、覚書のなかの「この場合において、公務員任用に関する国籍による合理的な差異を踏まえた日本国政府の法的見解を前提としつつ、身分の安定や待遇についても配慮する」とした一文に基づく。
常勤講師は「校務の運営に関しては、常に教務主任や学年主任等の主任の指導・助言を受けながら補助的に関与するにとどまる」仕事しかできない。このため、多くの日本人教員が一定の経験を積むと就任する主任にすらなれない。
方政雄さん(57)は91年覚書以降、兵庫県教委に採用された常勤講師第1号。県立湊川高校(神戸市長田区)では能力とキャリアを認められ06年4月から生徒指導主任に就任したが、その翌年には校長から主任を外れるように求められた。これは県教委が文部科学省の見解に従ったためだ。拒否した方さんは1日200円の主任手当を打ち切られた。
方さんは「日本人となんら変わらない資格・条件で受験し、採用されても『教諭』ではない『講師』という処遇。同じように働いても、日本人ならば当然任用される主任すらなれない」という現実に「人としての尊厳を抑えつけられた怒り」を感じるという。
神戸市立垂水中学校の学年副主任だった韓裕治さん(43)は、4年間にわたって学年副主任の仕事をしてきた。今春も引き続き副主任に任命されながら4月、なんら明確な説明もなく解任された。周囲からは、韓さんになにか重大な落ち度があったのではと思われるなどして名誉を傷つけられたという。
宋英子さん(56)=大阪市教育センター研究官=は「覚書」以前の75年に大阪府が教諭採用した府教委では二人目の外国籍教諭。少なくとも教頭をめざすことができる立場だった。しかし、「覚書」が発効してからは教諭の後ろに「指導専任」の肩書きがつくようになり、教頭になるための資格試験すら受けられなくなった。宋さんは「能力のある教師に対しては国籍で左右されることなく、あたりまえの評価をしてもらいたい」と憤りを隠さない。
〞能力本位の評価を〟
韓日協議で是正期待
韓国政府は、来年1月に東京で予定されている「アジア大洋州局長会議」で「日本側を説得したい」としている。
これについて、兵庫県立湊川高校教員の方さんは、「県教委の担当者も校長も在日教員が主任すらなれないことは現状とそぐわず、おかしいと感じており、なんとかしたいという思いは感じられる。しかし、最後はいつも『91年通知』の壁だ。私は日常、韓国政府を意識することはあまりないが、やはり頼るのは『わが祖国』という思いを持った」と期待を寄せている。
神戸市立垂水中学校の韓さんは「私に対する今回の差別的な行為に対して、職場の管理職や教育委員会は、時間が経ち、世間の記憶から消え去り、自然に事が収まるのを待っている。今まで私たちは、いつもこの『時間切れ』『自然消滅』に泣き寝入りしてきた。本国政府が日本政府と協議し解決に向かうことは、多くの在日同胞に本国が在日を守ってくれるという希望を持たせる」と歓迎している。
金相文さん(57)〓大阪市立東桃谷小学校〓は「韓国政府は民団を通じて在日韓国人教員の実態をきちんと把握したうえで話し合いのテーブルについてほしい」と話している。大阪では91年以前から多数の教員が教諭として採用されていながら、覚書によって待遇が後退しただけに、今度こそはとの思いが込められているようだ。
民団大阪本部の鄭炳采文教部長は、「教育委員会・学校自らが任命しながら主任解任・副主任取り消しという今回のあからさまな民族差別に、怒りを禁じえない。大阪では韓国籍の教員が120人おり、学校現場の必要性に応じて主任として登用されてきた経緯がある。全国の教育委員会は、東京都のように『教員の任用権限は教育委員会にある』として、外国人の教諭採用、管理職任用試験受験を認めるべきだ」とコメントしている。
教員採用試験の国籍要件が全国で撤廃されて18年が経つ。しかし、公立小中高の外国籍常勤教員数は215人(全国在日外国人教育研究所調査)に過ぎない。全国の公立学校教諭数の0・03%である。永住・定住資格を持つ外国人数の比率を考えると、約6300人の外国籍教員がいても不思議ではない。外国籍教員の一層の「量的確保」が求められる。同時に、外国籍教員差別を是正する「質的確保」も求めていかねばならない時期がやってきた。
(2008.12.10 民団新聞)