掲載日 : [2009-06-17] 照会数 : 8960
3年目の「みんだん生活相談センター」
[ 崔聖植行政書士 ] [ 訪れる人の話を聞く「みんだん生活相談センター」の相談員 ]
同胞の悩み相互扶助の心で
民団が同胞の生活支援の一環として、2007年7月17日、韓国中央会館に開設した「みんだん生活相談センター」(所長=金昭夫中央本部副団長)にはこの間、人権問題や相続、戸籍整理、在留資格などに関する多様な相談が寄せられてきた。月120件にもなる相談内容から、同胞と日本社会との間に生じる問題が浮き彫りになる。
年金、戸籍、新規定住、差別…
ひずみ浮き彫り
「みんだん生活相談センター」で扱う相談内容は相続、戸籍整理(婚姻・離婚)、国籍変更、不動産問題など14分野にわたる。さらにこれを細分すると、実に108項目にもおよび、日常生活上の悩みや法律上の切実な問題などがいかに多く、複雑であるかが分かる。
地方本部とはTV電話でも
現在、在日同胞および日本人の弁護士、行政書士、司法書士、税理士からなる35人の専門相談員が交代で常勤し、無料相談に応じているほか、48地方本部に設置されているテレビ電話による相談にも対応する。相談時間は一人1回30分。複雑な相談は専門家が判断し、別途に個別・継続相談(有料)としてサポートしていく。
予約制を基本としているが、事前予約は全体の22%、残り78%は突然の電話や来所で行われる飛び込み相談だ。各種事件や事故、在留資格、離婚に関わる問題など、緊急を要する相談者が駆け込んでくるケースは後を絶たない。
これまでの相談依頼者の割合は団員が全体の40%。新規定住者などに加え、アメリカ、オーストラリアで暮らす在日同胞から、再入国の期限切れに関する相談の電話が入るなど、相談者の居住地もグロバール化している。また、本国の市民からは人捜しや戸籍などに関する相談が寄せられることも珍しくない。
相談センターは当初、団員へのサービス・サポートを目的に開設されたが、増加しているのが新規定住者からの相談だ。行政書士の崔聖植さんは、「韓国から来た方たちは、民団に関心がないといいながらも民団のことは見ているし、関心はあると感じた。相談センターがいろいろな問題を解決していくなかで、在日が新規定住者の相談にのってあげるということは大切になっていくだろうと思う」と話す。
以前、日本の企業からも問い合わせがあった。在日韓国人を雇用する場合の注意点、特に海外出張の際の再入国許可の有無や、ビザに関するものだったが、被雇用者の立場を把握したいという、企業側の誠意ある姿勢が感じられたケースだ。
このような事例はまだ少数だが、各分野の専門家で構成された相談センターでは、多様な相談に対応できることから今後、在日や韓国人を雇用する日本の関係者からの相談も増えていくことが予想される。
ネットワーク活用の地域も
この間、韓国人同士の離婚問題、身寄りのない在日同胞の遺産相続問題などについて、対応できないという都内数カ所の区役所、日本の法律事務所からも相談があった。
実は相談件数の半数以上は東京が占める。次いで大阪だ。相談センター事務局の調査によると、京都や宮城では地域における市民たちのネットワークが構築され、相談センターを頼らなくても、問題の解決につながっていることが分かった。
だが一方で、地方の民団からは「団員が相談に来ない」といった残念な報告も届いている。
「統計を取ると半数以上が個人からのダイレクト相談」だと話す崔さん。本来、予約は支部、地方本部を通じて行われるはずだが、「地方は狭いから、秘密が漏れたら大変」「わずらわしい手間をはぶきたい」など相談者の本音ものぞく。
多くの相談者にとっての心配ごとは、「本当に秘密は守られるのか」ということだ。
「秘密厳守」匿名でもOK
崔さんは「地方本部や支部の方たちは、一生懸命ポスターを貼ったり、体制を整えて頑張っている。でも私も仕事で地方に行くが、地方では言いたくないという雰囲気は感じる。ビザの問題があっても周りに言えないから、東京に電話をして相談に来る。東京の専門家が地方の入国管理事務所に行くこともけっこうある」と話す。
「相談センターが秘密を厳格に守っていくということをアピールし、きちんとした信頼関係が築ければ相談しやすくなるし、逆に地元の民団に行こうと思うはず」。崔さんは、匿名でも構わないので、困っている方にはぜひ活用して欲しいという。
■□
根強い「弱者」の不安
民団サイトも活用 対応細心に
在日同胞から寄せられる相談は、韓国の戸籍事項未登録、特別永住者・永住者の再入国許可期限問題、就職問題、資格試験の受験相談、インターネット上での民族差別などと多岐にわたる。これらの事例のなかには、日本社会が歴史的に抱えてきた問題が背景にあるものもある。
例えば在日同胞障害者・高齢者の制度的無年金問題は、国民年金制度の対象外とされ、障害基礎年金や老齢福祉年金を受給できず、国民年金法から国籍要件が撤廃された82年以降も、不平等などを是正する経過措置が行われなかった。これは在日同胞に対する配慮が欠けたために生じた問題だ。
在日どうしの安心感求める
「在日同胞の多くは、日本に対する不信感を根本的に持っている」と相談センター事務局の関係者は話す。相談電話を受けるとき、先方が真っ先に確認するのは「在日の先生はいるか」「平等に扱ってもらえるか」「在日でないと分かってもらえない」「正確な情報はもっているか」などだ。
生活保護を受けても、就職できる状態であれば行政は、自立支援を目的に就職の斡旋をする。だが「韓国人だから無理矢理、働かせようとしている」と、不信感から生まれた思い込みによって、苦しみ続ける在日同胞たちがいる。
「雇用の問題であれ、派遣切りや年金の問題であれ、日本社会の問題がそのまま、われわれに投影してくる。そういったときに弱い立場にある在日、韓国人であるからこそ、同じ立場でその問題を解決するというのが必要だ」と崔さんはいう。
その一方では、法律に関する深刻な相談ばかりではなく、ときには就職問題や資格試験の受験などで、先輩の意見を聞きたいという若い在日同胞から連絡が入るなど、幅広い対応を行ってもいる。
今後の相談センターについて、事務責任者である生活局の朴相泓局長は、「離婚問題や戸籍問題など、一般的なものは地方本部、支部の基本的な業務として行うことができればと思う。それでも相談の内容によって答えられない場合は、相談センターにきます。今後、さまざまな事例を民団のホームページに出していくつもりです。ぜひ活用して欲しい」と話す。
崔さんは「民団が生活者団体として、相互扶助していくというのが求められている。民団組織のなかの相談センターとして、地方本部と支部の関係を強固にしていくことが、3年目の課題」だと表情を引き締めた。
(2009.6.17 民団新聞)