掲載日 : [2008-07-09] 照会数 : 7341
出前授業年間60回 民族講師呉啓子さん
[ 錦綾小学校民族学級で指導にあたる呉啓子さん ]
【大阪】大阪府との覚書による常勤民族講師の呉啓子さん(35)が堺市内の各小・中学校から寄せられる「出前授業」の要請を受けて奔走している。本来のホームグラウンドは堺市内で民族学級が開設されている公立少林寺小学校と錦綾小学校の2校だが、市内の他校からも総合学習や人権学習の講師として招かれることが多い。昨年は1年間で約60回、今年も6月末日までに30回を超えたという。
埋もれる同胞子弟に激励のメッセージ
同胞散在の堺市内各校を奔走
呉さんが民族学級の開設されていない堺市内の学校を回ろうと思い立ったのには理由がある。市内に外国籍児童は小・中合わせて600人余り(07年度)と大阪にしては決して多くはなく、各校に散在している。
周りに相談できる友だちがいないと、同胞の子どもたちは学校で自らの出自を明かすこともなく、どうしても埋もれがちだ。呉さんの「出前授業」は、そうした子どもたちへの激励のメッセージともなっている。
子どもたちの前に立つと、「在日韓国人に名前が2つあるのはなぜだろう」「韓国人なのにどうして日本に住んでいるのかな」。こんな質問を投げかけて子どもたちにそれとなく在日問題について考えさせ、韓国の楽器や遊びで隣国への親しみを持たせる。
すると、休憩時間に在日韓国人の子どもが呉さんのもとを訪ねてきて、自らの素顔を明かしてくれるのだという。「私、韓国人やで」「僕のお父さんも韓国人や」。担任は在日韓国人の子どもたちが学校にいたことを初めて知り、「出前授業」の効果を実感することになる。呉さんは、「在日という同じ立場にいる人が元気に自分のことを話すことで、同胞の子どもたちも共鳴してくれる」のだという。
「出前授業」は、異文化理解の助けにと、堺市在日外国人教育研究会が中心となって毎年、開催している「ハギ(夏季)ハッキョ」と、「チュギ(秋季)ハッキョ」に参加した教員が、子どもたちの指導にあたる呉さんを自らの学校に呼ぶようになったことがきっかけだった。総合学習や「生活科」といった正規の課程のほか、「世界は友だち集会」「ミ二・チュギハッキョ」といった特別活動でも活用されている。リピーターが多いのも「出前授業」の特徴。
「出前授業」を側面から支えている堺市在日外国人教育研究会でも、「在日の子どもも、日本の子どもも、本物の在日韓国人と出会うことが大切です」(有田喜美子さん)と、「出前授業」効用を認めている。
呉さんの勤務先である少林寺小学校の清水隆史校長は、「呉講師が持ち前のソフトな語り口で差別された話をすると、子どもたちも共鳴し、自らの心を開く。これは日本人教師がいくら実践と研修を積み重ねても決してまねできないものです」と感心した表情で語った。
(2008.7.9 民団新聞)