今日は子どもたちに未来への夢をふくらませるお話をしましょう。世界で活躍している韓国人イラストレーター、スージー・リーのお話です。
わたしが彼女のことをはじめて知ったのは、2005年のこと。知人から彼女の『動物園』(日本語版未刊)という絵本をプレゼントされたときでした。その表現力のすごさにおどろき、すごい新人がでてきたなと感じました。あとで知ったことですが、もうすでに彼女は海外でも本をだしていたのです。そのときわたしが記憶したのは、「イ・スジ」という韓国名でした。
イ・スジは、ソウル大学を卒業したあと、イギリスに留学します。自らの卒業作品を出版したいと願いましたが、それをだしてくれる出版社はイギリスにはありませんでした。それでも彼女はあきらめません。その作品を持って、イタリアのボローニャ国際児童図書展にいったのです。
ボローニャは、世界最大の児童書の見本市です。イ・スジの作品は幸運にも地元イタリアの出版社の目に留まり、彼女は韓国ではなく、02年にイタリアでデビューしたのでした。
さらにスイスでも出版。この絵本が03年と05年のボローニャの「今年のイラストレーター」に選ばれます。そしてアメリカでだした『なみ』が08年の、さらに『かげ』も10年のニューヨークタイムズの「年間最優秀絵本」に選ばれたのでした。
『なみ』(原書 WAVE)は、浜辺にやってきた少女が波と遊ぶ様子をたった2色で描きました。モノクロの少女が小さな波と遊んでいると、やがて大きな波がやってきて、頭から水をかぶります。すると、少女の服と空も青色に。そして少女に、波からすてきなプレゼントが……。
スージー・リーは、絵だけで、ざわめきや光、ぬくもりまでも感じさせたと、世界的に高い評価を得ました。そうなのです。この絵本には、文がまったくないのです。
ニューヨークタイムズでの受賞を機に、世界各国から出版の申し込みが殺到します。もちろん、彼女の母国である韓国からも。現在、世界の9カ国で発売されているのですよ。
『かげ』(原書 SHADOW)も文がありません。物置で明かりをつけた少女が、物置の道具を使って動物の影をつくって遊ぶ様子を2色だけで描きました。道具でつくられた動物の影が、やがて本物のように動きだし、少女の影と仲良しに。そのとき、突然……。
日本で出版されている彼女のほかの作品としては、『このあかいえほんをひらいたら』(講談社)があります。アメリカの作家が書いた文に絵をつけているのですが、びっくりするしかけがあるのですよ。
このようにスージー・リーは、世界で活躍する韓国人イラストレーターのなかのひとりであり、代表的な存在なのです。
さて、彼女の成功の秘訣は、いったい何だったのでしょうか? もちろん才能が第一ですが、決してあきらめなかったこと。そして自分の才能を認めてくれる場を求めて、積極的に海外に飛びだしたことでしょう。
子どもたちには彼女の絵本をたのしみながら、世界で活躍する夢も育んでもらいたいものですね。
キム・ファン(絵本作家)
(2015.7.8 民団新聞)