夏休みに韓国へ旅行される方も多いことでしょう。そんな方にお勧めしたい観光スポットがあります。伝統市場とか、在来市場とか呼ばれている、むかしながらの町の市場です。何も買わなくても、ただ見て回るだけでも結構おもしろいものですよ。
では、いったいどのような店があって、どんな物を売っているのでしょうか? それを体験することができるのが今回紹介する絵本、『ハンヒの市場めぐり』です。オンマと息子のハンヒが、近くにある「サムタルレ市場」で買い物をする様子を描いた、知識の絵本です。
オンマはまず、ご飯に混ぜる豆を買います。すると「豆屋さんをのぞいてみよう」というページがでてきて、ハルモニが営む豆屋さんのことが詳しく解説されます。豆だけでなくて手づくりの豆腐や、ムク(ドングリなどの粉を煮固めた物)も売っています。むかしよく食べたなつかしいムクが紹介されていると、何だかうれしくなってしまいますね。
その後もオンマはハンヒの手をひいて、オムク(魚のすり身でつくられたねり物)を買ったり、ごま油を買ったりします。
「魚屋さんをのぞいてみよう」のページは、ハンヒが自分よりも大きなマンボウを見ておどろいている絵や、生きたままのテナガダコを買うとビニール袋に空気も入れてもらえる、と説明されている絵が印象的です。子どもたちが大好きな花屋さんや、ペットショップもでてくるのですよ。
絵はとても細かくて、店の看板や値札までもしっかりと描かれています。当然のことながら、それらはみな韓国語。一部は日本語に訳してありますが、ハングルが読める人なら、なおたのしいでしょう。
わたしは絵本の舞台となったサムタルレ市場にいって、写真を撮ろうと思いました。でも、市場がどこにあるのか、何も書いてありません。絵本にはプサンの名がついた看板がいくつかでてきますし、作者のプロフィールにもプサン生まれだとあります。きっと、プサンにあるにちがいない。ちょうど仕事で近くにいくことになりましたので、プサンに住む友人に探してもらいました。でも、そのような名前の市場はなかったのです。
そこで今度は、出版社に勤める友人にたずねてみました。すると、作者の講演会の記事を送ってくれました。作者は市場について、
「わたしがよくいく、ソウル・マポ区のソンサン市場と、幼いころに見ていたプサンのチャガルチ市場、パルト市場、スヨン市場のそれぞれのおもしろい要素を集めてつくりました」
と、話しています。なぁんだ、絵本の市場は実際にはなかったのですね。そして絵本をつくったきっかけについても語りました。
「わたしたちの生活の一部である市場が、在来市場とか、風物市場だとか呼ばれて、特別な存在と認識されている現実が惜しいのです。市場のいい記憶を、子どもたちに話してあげたかったのです」
作者は何度も何度も市場に通っては写真に撮って、インタビューを録音したといいます。絵本に市場を粘り強く「記録」したのですね。作家の熱い想いと努力に感服してしまう絵本です。
キム・ファン(絵本作家)