2003年にNHKがドラマ『冬のソナタ』をBS2の海外ドラマで放送すると評判になり、翌年NHK総合で再放送。土曜日夜11時台にもかかわらず20・6%(関東地区・ビデオリサーチ調べ)という高視聴率をたたき出し、「韓流ブーム」の火付け役となった。あれから10年あまり。チャン・グンソク主演の「イケメンですね」が放送され、少女時代やKARAが日本デビューした2010年など数度の盛り上がりを見せたが、ここ数年は「韓流ブームは終わった」と言われるようになった。日韓関係が悪化し、嫌韓が日本国内で高まるのと反比例するかのように、テレビの地上波放送や女性誌などで韓国のスターを見る機会はめっきり減ってしまった。しかし、かつてのような「ブーム」は沈静化したものの、「韓流」は日本に着実に根付いている。ドラマ、K-POP、そして映画。韓国エンタテインメント業界や取材現場から見えてくる、韓流のいまを追った。
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ドラマ
地上波放映消えてもBS、CSで月200本
なぜ、韓国ドラマを放送しなくなったのか。あるテレビ局の関係者に尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「抗議デモが少なからず影響しています」
フジテレビの番組編成が「韓流に偏重している」として、〞行動する保守〟諸団体による抗議デモが行われたのは2011年のこと。韓流ブーム最盛期、テレビ局では韓国ドラマの新番組スタートに合わせてバラエティのゲストに主役を呼ぶなど大々的なプロモーションを行ってきたが、「抗議デモが起きた頃から控えるようになった」(前出のテレビ局関係者)。
そして2012年8月、李明博大統領が独島に上陸すると、嫌韓ムードがさらに高まっていく。平日の昼間に韓流ドラマ枠を設けていたフジテレビとTBSは、2012年8月と2014年3月にそれぞれ放送を終了。NHK総合や民放キー各局など地上波でオンエアされていた韓国ドラマは、現在テレビ東京のみとなった。
ところが、実はその後も韓国から日本への放送番組の輸出は、前年比プラスの状態が続いている。現在、視聴者がよりどころとしているのは、DVDやBS・CS放送だ。
DVDレンタル業界最大手のTSUTAYAでは、昨年の韓国ドラマレンタル月間平均は1千万回以上。前年比はここ数年90%台後半と微減していたものの、今年の上期は106%と盛り返しを見せている。同社の落合麻葉さんによると、「イ・ミンホとJYJのユチョンが出ているラブコメディが人気のツートップ」。この夏以降も、チョ・インソン主演の『大丈夫、愛だ』やジェジュン主演の『スパイ』など、期待のラインナップが並ぶ。
『大丈夫、愛だ』Licensed by CJ E&M Corporation / CJ E&M Corporation and GT Entertainment, all rights reserved |
BS・CS放送では、毎月200本前後の韓国ドラマが放送されている。韓流専門チャンネルの老舗KNTVの担当者は、「ブームが終わって視聴契約を止めた人もいるけれど、コアなファンが多く残っている」と明かす。「本当に好きな人は、俳優の魅力に惹かれるだけでなく、質の高いドラマの内容そのものを楽しむ傾向がある」
過去には「出生の秘密」「記憶喪失」「不治の病」などが繰り返し登場した韓国ドラマ。だが2012年以降、総合編成チャンネル各社の開局による多チャンネル化によりドラマの数が急増し、医療ものやサスペンスなど内容も多様化。見ごたえのある作品が増えている。
一方、「宮廷女官チャングムの誓い」(2005年にNHK総合で放送)以来、根強いファンを持つのが時代劇だ。
昨年DVDリリースされたキム・テヒ主演の『チャン・オクチョン』は、「韓国では視聴率に苦戦したが、日本ではレンタルがぐるぐる回った」(TSUTAYA落合さん)。時代劇の視聴層は60〜70代が中心で、男性も多いのが特徴だ。
続々と出版される韓国ドラマにちなむ歴史本 |
韓国歴史本が売れ行き好調
キネマ旬報社では、ムック本「韓国ドラマで見る韓国の歴史」シリーズが2009年の創刊以来累計20万部に達した。編集部の岡崎暢子さんは、歴史ドラマファンを「活字離れが進む中、文字を読むのに抵抗がなく、知的好奇心旺盛な層」と見る。
8月末に刊行される16年度版では、各ドラマの解説ページに160文字のミニコラムをつけるなど、「歴史をより深く知りたい人たちに訴求する工夫をした」という。
株式会社共同通信社出版センターも今年1月「もっと知りたい韓国歴史ドラマ!」シリーズを創刊した。俳優や監督のインタビューを掲載するほか、ドラマに登場する実在の人物を大臣などの脇役まで細かく解説。「ディープな歴史好きの方々に受けている」(丸山幸子出版センター長)。
業界関係者が共通して口にする課題は、「新たなファン層の獲得」だ。かつては地上波でドラマをたまたま見て心を奪われた人が、韓流ファンの仲間入りをするという流れがあった。そのルートがほぼ断たれたいま、地上波の力を借りずとも、幅広い層にアピールする強いコンテンツやスター性のある俳優が現われるかどうかが、今後を占う鍵となるだろう。
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K-POP
ライブ回数は倍増…ヒップホップ系が人気
東方神起、少女時代、KARA3組が出場した2011年から一転、翌年からは韓国の歌手の姿が消えてしまったNHK紅白歌合戦。ドラマ同様、『HEY!HEY!HEY!』(フジテレビ系列)など地上波の番組からも韓国人歌手を見ることがほとんどなくなった。
しかし、K-POPには、若いファンが増え続けている。その大きな原動力となっているのが、ライブのパワーだ。
年間のK-POPライブ回数(コンサートプロモーターズ協会調べ)は、ブームがピークを迎えたともいわれる2012年は462回だったのが2013年は757回、2014年は919回と、年々増えている。
もちろん、一回5万人規模の東京ドームを数日間連続で埋め尽す東方神起やBIGBANG、SUPER JUNIORの熱狂的な人気は変わらず健在。大手事務所のSMエンターテインメントが力を入れるEXOも今秋初めて東京ドームでコンサートを開く。
ただし、新人グループが参入するハードルは高くなっているのが現状だ。「ブームには乗っかることができないので、生きていくために特色を打ち出していく」と語るのは、昨年日本デビューした5人組アイドルグループNU'ESTの関係者。NU'ESTは今年5月、東京のららぽーと豊洲でセカンドシングルリリースイベントを開催した。
3000人のファンの前で新曲『NA.NA.NA.涙』をキレのいいダンスとともに熱唱。そしてライブ後に行ったのが、「セルカ2shot撮影会」だった。メンバーがひとりひとりのファンに話しかけて肩を抱き、自分たちにスマートフォンのカメラを向けて撮影するというものだ。「真心に届くプロモーションがキーワード」と前出の関係者は言う。『NA.NA.NA.涙』はオリコンデイリーランキングで5位を記録した。
NU'EST NU'EST Japan Tour 2015〜Bridge the World〜9月21日(月・祝)大阪・Zepp Nambaより全国5か所で開催 |
K-POP雑誌でも、ファンに好評なのは「身近で意外な演出」だ。2013年に創刊されたB4サイズの大判雑誌「RIVERIVER」を開くと、歌手がビリヤードやチェスをしたり、さらには銭湯やプールに入ったりする撮り下ろし写真がずらり。ほぼ同世代のボーイズグループが主流のK-POP。「スタジオで普通に撮ると、皆同じに見えてしまう」と、編集長の星川菜穂子さんが発想を膨らませた。
また、若い世代が地上波放送に代わり情報を得る場として活用しているのが、インターネット。韓国エンタテインメントのニュースやイベントレポートを配信するサイトKorepoのディレクター小島富美さんは、「より早い情報を求める人が増えている。特にツイッターでの配信が人気」という。1日30〜40ツイートをするKorepoのフォロワーは、4万2000人。そのほとんどが10代〜30代だ。
前出の星川編集長によると、ファンの心をつかんでいるのは、防弾少年団、BLOCK.Bなど自己プロデュース能力を持つヒップポップ系だ。「日本の芸能界にはあまりいない、やんちゃ風。逸脱する感じに惹かれるのだろう」
韓国コンテンツ振興院日本事務所のイ・ヨンフン所長は言う。「プロモーションが厳しいとはいえ、韓国の音楽事務所はK-POPが定着している日本を常に視野に入れている。ただ、日本ではもう新鮮さもなく、にわかファンもいない。今後上陸するグループに大切なのはファンサービスと差別化だ」
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映画
恋愛から社会派へ…戦略替え支持層広げる
『海にかかる霧』C2014 NEXT ENTERTAINMENT WORLD Inc. &HAEMOO Co., Ltd. All Rights Reserved. |
いち早く日本で注目を浴びた韓国映画は、ドラマやK-POPによる韓流ブームとは異なる流れに乗ってきた。
南北スパイの悲恋を描いた『シュリ』が日本で18億円の興行成績を上げ話題となったのは、2000年のこと。以後、板門店での南北兵士の友情を描いた『JSA』(01年)、朝鮮戦争をテーマにした『ブラザーフット』(04年)、など骨太の作品が続けてヒットした。
だが、ドラマで人気のペ・ヨンジュン主演の『四月の雪』とチョン・ウソン主演の『私の頭の中の消しゴム』がともに大ヒットを記録した2005年をピークに、2007年以降は興行に失敗する作品が相次いだ。これを受け、日本の配給会社は上映館数を縮小し、大がかりな公開から小規模な封切りに戦略を切り替えてきた。
そんななか、「2012年公開の『トガニ 幼き瞳の告発』から手応えを感じるようになった」とCJエンタテインメント配給宣伝チームの松本作さんはふり返る。「裁判もので児童虐待という重いテーマだったにもかかわらずヒットしたのは、内容がしっかりしていたからだと思う」 『サスペクト 哀しき容疑者』などを配給する株式会社ツインの担当者も、「近年徐々にクオリティの高さが認知され、男性や一般の映画ファンが韓国映画を見るようになった」と証言する。
一時はドラマブームの影響か、アイドルが主人公の恋愛映画が多く制作されたが、ここ数年は社会派に回帰。4億円のヒットとなった『王になった男』(13年)のように、強いメッセージを持ちながらエンタテインメント性も備えるようになった。
『国際市場で逢いましょう』 C2014 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved |
さらにもうひとつごく最近のヒットの法則と言えるのが、大御所監督によるK-POPスターのキャスティングだ。例えば『国際市場で逢いましょう』(15年)は『TSUNAMI‐ツナミ‐』のユン・ジェギュン監督が東方神起のユノを起用。『海にかかる霧』(15年)は『殺人の追憶』のポン・ジュノ監督がJYJのユチョンを主役に据えた。
結果、骨太な映画を好む男性ファンに加え、「20代、10代の女性という、今までとはまったく異なる客層が入ってくる」(前出の松本さん)という、幅広い層に支持される作品となった。
外国映画輸入配給協会の調べによると、2013年に日本に輸入された韓国映画は46本、2014年は63本と上昇傾向にあり、いずれもアメリカ映画に続いて2位を占めている。徐々にファン層を広げながら、着実に根付いてきたと言えるだろう。
(2015.8.15 民団新聞)