志を高く結束のとき
国力充実へ在日も総力を
親愛なる在日同胞の皆さん。
光復節と大韓民国の建国記念日である8月15日を迎えました。光陰は矢のごとく過ぎても、独立運動に身命を投じた殉国烈士や建国に献身した愛国志士の偉業が想起され、私たちの今日をあらしめる起点となった二つの8・15として、今も格別な意味をもっています。まして、今年の光復節は日本による統治期間の35年をふた回りした70周年であり、皆さんの胸中にはいつにない感慨が去来していることでしょう。
在日同胞社会は日本の統治によって派生した歴史的背景をもち、光復後も旧支配国ならではのさまざまな緊張を強いられ、韓日関係の悪化や南北対立の影響をただちに受ける境遇におかれてきました。それは現在、私たちにかかわる歴史の独善的な書き換え、それと連動するヘイトスピーチ(増悪表現)の横行が端的に示しています。しかし、私たちは決して孤立した弱小な存在ではありません。
なぜなら、私たちがよりよく生きるための願いが自ずと普遍的な価値をおびているからです。それは一つに、祖国・韓国の国力充実と先進化であり、二つに、日本とのゆるぎない善隣友好の確立であり、三つに、韓国主導による韓半島の民主的平和統一の実現です。分かちがたく結びつく三つの願いは、私たちにとって存立条件そのものです。
負荷をもバネに
親愛なる在日同胞の皆さん。
韓国ではこの間、政府・自治体・民間の別なく70周年記念行事を多彩に繰り広げてきました。このすべてを括るメーンスローガンは「偉大な道のり、新たな跳躍」です。韓国の現在の立ち位置を鼓舞的に示すものと言えましょう。
日本による統治は、「朝鮮の人民の奴隷状態」に言及した「カイロ宣言」(43年12月)を待つまでもなく、わが民族の拠って立つ精神基盤を踏みしだきつつ無謀な侵略・戦争政策に動員する苛酷なものでした。その傷跡は今も癒しきれないほど深いものがあります。なかでも南北分断は、6・25韓国戦争によって国土を灰燼に帰しただけなく、その後も一貫して国力の消耗を強い、日本との歴史認識をめぐるあつれきと相乗して韓国内の理念葛藤を再生産させてきました。
韓国はそれでも、そうした負荷を成長バネに変換してきたと言えるでしょう。旧西独の「ライン川の奇跡」に比肩される「漢江の奇跡」を興し、96年には先進国クラブであるOECD(経済協力開発機構=現在34カ国)に、09年には同機構で世界の援助の95%を扱うDAC(開発援助委員会=現在28カ国と欧州連合)に加盟しました。援助なしには成り立たなかった第2次大戦後の独立国としてはいずれも初めての快挙です。
韓国は市場経済と自由・民主主義体制を整えつつ、世界10位圏の経済力量と広い市民的空間をつくり出し、平和と人権、国際社会との協調を尊重する価値観の国へと成長してきたのです。まぎれもなく「偉大な道のり」でした。
進む南北異質化
親愛なる在日同胞の皆さん。
成し遂げたことへの自負は、成し遂げられなかったことへの痛みを募らせます。その痛みとは言うまでもなく、光復70年がそのまま分断70年を意味するところにあります。統一を実現してこそ「真の光復」であり、「光復の完遂」に国民力量を結集すべきだとの意識がいつになく高まっているのも必然でしょう。
北韓は改革・開放なしに生き抜けず、改革・開放すれば現体制の存続が不能になるジレンマにとらわれています。核・弾道ミサイルなど大量殺戮兵器の開発を突破口にしようとする強硬姿勢は、国際社会の制裁を招いて自らをいっそう苦境に陥れてきました。韓半島と周辺に深刻な危機状況をつくり出す大規模な軍事挑発だけでなく、体制崩壊を含む急変事態をも想定せざるを得ない段階にあります。
北韓リスクは安全保障の面だけにとどまりません。南北間には有効な手立てがほとんどないまま、静かに拡大し続ける危機もあります。民族的な同質性の破壊がそれです。政治・社会・文化など分野別に同質性を1000点満点で数値化した「南北統合指数」は、07年の272・2から14年には190にまで下がりました。
このままでは、言語や顔立ちは似通っていても、感性や思考・生活様式が異質な「他民族」になりかねないとの危惧が広がっています。国土や政権が一つになっても、南北社会の同質化をもって完成する真の統一は難度を増し、統一コストも天文学的にふくらむでしょう。北韓住民の外部情報への接近能力は、「私経済」の広がりにともない、不安定ながらも向上しつつあると言われます。同族情緒を育み人権意識や自由・民主主義を啓発する情報が浸透するよう心を砕かねばなりません。
そのためには、韓国社会がまず懐を広げるべきです。南北双方を自由に往来できる中国の朝鮮族200万人ほどのうち50万人が韓国に滞在しています。また、セトミン(新たな拠点で希望を持って生きる人の意)と呼ばれ、統一過程で北韓住民の先導役となり得る脱北者が3万人近く定住しています。ですが、いずれも差別や疎外感に苦しみ、韓国社会への失望を隠さなくなりました。潜在能力の大きい集団をより有用な統一推進力に育てるのは「韓国の心」です。
国際的にも貢献
親愛なる在日同胞の皆さん。
「圧縮成長」の階段を駈け上ってきた韓国は今、踊り場で呼吸を整えているように見受けられます。その先にある階段を見いだせないまま内向き傾向が強まり、貧富・理念・地域・世代間の葛藤が強まる恐れさえあります。このような状況下でメーンスローガンの下句の言う「新たな跳躍」を期すには、南北統一という「光復の完遂」に国民力量を結集しようとする気運が持続・拡大されなければなりません。
朴槿恵大統領はこの間、断絶と葛藤の70年に終止符を打ち、統一時代を開こうと繰り返し呼びかけ、統一後には1人当たり国民所得が4万㌦台で人口8000万人以上の国家になり得ると強調してきました。このレベルにあるのは米・日・独の3カ国のみです。揺るぎない目的意識と高い志の下に結束することで初めて、「新たな跳躍」を準備できると信じて疑いません
平和的で豊かな統一国家の建設は、その推進過程から韓国の限界と北韓住民の窮状を打開し、周辺国はもとより国際社会の融和と発展を保証するでしょう。これは韓国にとって国際社会の要請と合致する国家的使命です。私たちは統一を主導し、統一国家の発展を担保する韓国の総合的な国力の充実、それを最大化する度量ある国民的な結束、そして海外同胞の連帯強化に寄与することでその重要な一角を担うことができます。
力つける次世代
親愛なる在日同胞の皆さん。
私たちは祖国が力をつけてこそ自らの浮かぶ瀬もあるとの一念で、6・25韓国戦争時の学徒義勇軍参戦、「漢江の奇跡」への助走牽引、88ソウル五輪への熱誠的支援、IMF通貨危機に際しての外貨送金など数々の貢献を重ねてきました。祖国とのこうした不変の紐帯とともに、私たち個々人のよりよく生きるための努力が韓国の国力を押し上げ、それが私たちの自己実現へのサポートとして返ってくるウィン・ウィン関係の深化がより重要になるでしょう。
文化芸術・スポーツ・科学技術の各分野で在日同胞の逸材が育っています。伝統芸能や演劇の韓日協力に在日同胞は欠かせず、三者によるコラボレーションはアジアの新時代を開いてきました。韓国・日本・海外の名誉ある賞に輝く在日同胞科学者も続々と輩出されています。サッカー女子W杯カナダ大会で韓国を初の16強に導き、「在日が韓国を救った」と称えられた康裕美選手、韓国代表として数々の国際大会で優勝し、来年のリオ五輪で活躍が期待される柔道の安昌林選手はともに3世です。
韓国の国力に在日社会の力も含まれる以上、その大黒柱である民団の力量が自ずと問われます。民団は各傘下団体とともに総力をあげ、日本社会に埋没しかねない次世代パワーを引き出し、自らと在日同胞社会の活性化につなげていきます。そのためにも、韓日の善隣友好と共生志向の確立が必須要件であり、当面の障害であるヘイトスピーチを根絶すべくまずは法規制を勝ち取らねばなりません。
民団は来年10月に創団70周年を迎えます。この歴史に恥じることのないよう、在日同胞の希求を一身に担う覚悟を新たに、全組織一丸となって自らの使命に突き進みましょう。
(2015.8.15 民団新聞)