日本には、秋田犬や柴犬など、日本原産のイヌがいますよね。韓国にも、韓国原産のイヌがいます。
2005年に韓国原産としてはじめて国際公認犬と認められた、全羅南道珍島の珍島犬。尾っぽがなかったり、極端に短かいのが特徴の、慶尚北道慶州の慶州犬。毛が長くてふさふさしている、慶尚北道慶山のサプサル犬。親しみをこめて「サプサリ」とも呼ばれているのですよ。これらは、天然記念物に指定されています。
今回はサプサル犬が主人公の絵本、『くらやみのくにからきたサプサリ』を紹介します。
その前に、このイヌについてお話しましょう。サプサル犬の「サプ」とは追い払うという意味。「サル」は悪鬼のたたりを指す言葉です。つまり、「悪鬼を追い払うイヌ」なのです。
サプサル犬は新羅の王室で大切に育てられ、名将、キム・ユシン将軍が軍犬として戦場で連れていたという伝説も伝わっています。
高麗の時代になると一般の人たちも飼いはじめ、朝鮮朝時代後期には、新年に厄払いとしてサプサル犬が描かれた絵を家の門に貼るのが流行したといいます。
危機が訪れるのは日本統治時代、アジア・太平洋戦争末期でした。このとき、日本の飼い犬たちは絶望のなかにいました。
「イヌも、お国の役に立ちます。供出しましょう」
そうやって集められたイヌのなかで、勇猛なものは戦闘用に訓練されて戦地に赴きましたが、多くのイヌたちは殺され、その毛皮は軍服や軍靴となって戦地に送られたのでした。
日本国内のイヌでさえもこのようなありさまですから、植民地だった韓国のイヌたちの受難は、想像にあまるものがありました。とりわけむごい仕打ちを受けたのが、ほかでもない、軍服や軍靴を作るのに最適な毛を持っていた、サプサル犬だったのです。
解放後も6・25戦争などがあり、受難は続きます。
「サプサリは、きっとどこかで生き残っている!」
1969年、慶北大学の若い獣医師ふたりは、全国を歩き回って30頭のサプサル犬を探しだします。けれどもその価値は認められず、一時は8頭にまでに減り、まさに絶滅寸前でした。その後、アメリカから帰国したハ・ジホン教授たちの努力により復活。ようやく92年に、天然記念物に指定されたのでした。
さて、絵本の内容です。韓国には「暗やみの国の火の犬」という、むかし話があります。暗やみの国の王さまは、太陽がうらやましくてなりません。そこで火の犬に命じて太陽を取りにいかせるのですが、思うようにいきません。それでも火の犬たちはあきらめることなく、宇宙を駆けまわります。太陽が無理なら月でも盗もうと、果敢にかじりつくのです。日食や月食が起こるのは、火の犬たちのしわざだというお話です。
絵本は、このむかし話にもとづいて作られました。むかし話では火の犬の犬種は特定されていないのですが、作者はサプサル犬としました。また、むかし話にはでてこない、玄武、青龍、白虎、朱雀の四神も登場させました。
むかし話は、スケールの大きな新しい物語となって、現代に甦ったのです。
(2015.8.26 民団新聞)