掲載日 : [2016-01-15] 照会数 : 5464
<社説>国論相克は許されない…北韓の4回目核実験と韓国
北韓が6日の政府声明で成功させたと高言する「初の水爆実験」を額面どおりに受けとる根拠は乏しい。それでも、北韓は核兵器とその運搬手段である弾道ミサイルの高性能化を着実に進めてきただけに、軍事技術面での冷徹な実相究明が待たれる。
高めた挑発強度
前3回までとは違い、今回は米中に事前通告もしなかった。実験準備を探知させない技術水準の高さを誇示しつつ、国際社会への挑発強度を一気に引き上げたと言える。4回目の核実験を強行したねらいはなにか。
専門家の多くは、核兵器の高性能化に加え、米国を2国間対話の場に引きずり出すこと、5月初旬にも36年ぶりに開催される予定の朝鮮労働党第7回党大会に向け金正恩第一書記の実績・権威を高めることの二つをあげている。
もう一つ、「水爆まで保有した核保有国の前列に堂々と立つことになった」(政府声明)と「宣言」して国際社会の耳目をひきつけ、いかなる犠牲を払おうともこの路線を貫く姿勢を再闡明した心理戦的な手法も見逃せない。
昨年7月、イランと米ロ中英独仏6カ国による13年に及んだ核協議が「最終合意」に至った。イランが核開発を制限し、米欧は制裁を軽減・解除するとしたもので、イランが核兵器を開発する道はほぼ閉ざされたとされる。6者会談の構成国である韓米日中ロの5カ国は、この事例を参考に北韓との協議再開を模索する動きを見せてきた。
しかし北韓は、「一方的に核開発を凍結・中止するような話し合いにはまったく興味がない」と一蹴し、それが本気であることを「水爆実験」という挑発で証明した。ねらいはあくまで、「核保有国」であることを米国に認めさせるところにある。いかなる対話もそのための手続きに過ぎないとの姿勢だ。
北韓の指導部中枢は、独裁者として42年間もリビアに君臨したカダフィ大佐が惨めな最期を遂げたのは、米英に迫られて核兵器開発を放棄したからだと認識しているという。だが、カダフィの「誤算」を同じく「教訓」としていたイランは変わった。もちろん、経済制裁で苦痛を受ける中間層や政府を動かす世論が存在するイランと北韓は異なる。それでも北韓は、カダフィだけでなくイランの教訓にも悩まされることになるだろう。
米中対立を突く
13年2月の第3回核実験後の北韓は、全面核戦争の危機を煽りにあおった。「ソウルばかりかワシントンまで火の海にする」「日本も例外ではない」と脅し、全外国人に韓国から退避するよう警告まで発した。今回どう動くのか。
韓国は「水爆実験」から2日後に軍事境界線で大音量による対北政治宣伝放送を再開した。国連安保理もより厳しい制裁を決議するだろう。韓米両軍は早ければ、3月に実施予定の定例軍事演習「キー・リゾルブ」に際し、北韓が核兵器使用の兆候を見せた場合には先制攻撃も辞さない作戦の概念を導入するという。
北韓は3年前と同様あるいはそれ以上に核戦争危機を煽りたてるのか、それとも、今回の実験で核開発が一定の水準に達したと自賛しながら、党大会の成功に向けて「経済発展と人民生活の向上」に総力を傾注(金正恩新年辞)するポーズをとり、対話攻勢に転じるのか。
中国と米日は島嶼領有や海洋規範をめぐって対立を深め、ロシアと米欧はシリアやウクライナ問題で反目を続けている。北韓はミサイル発射やプロパガンダなどによる軍事挑発を続けて韓米との緊張を高い次元で維持しつつ、対話攻勢を織り交ぜることで関連強大国間の軋轢を増幅させることに注力すると見ておく必要がある。
北韓が核とミサイルを放棄しなければいかなる対話も支援も行わないという米国の「戦略的忍耐」は、国内外から疑問を提起されてきた。一方の中国は、北韓への自らの影響力に対する期待の大きさにたびたび不満を表明している。
逃げ道与えるな
米国に北韓との対話を促す中国やロシアの圧力は強まる可能性が高い。これが功を奏して米国が対話の席に着けば北韓は「勝利」を宣言でき、そうはならずとも、中ロを時間稼ぎのためのより確かな後ろ盾にしつらえる道が広がると踏んでいよう。北韓にうまみを絶対に与えてはならない。
国連安保理の新たな制裁内容にまずは注目したい。これまでの制裁に実効がともなわなかったのは中国の責任による。朴槿恵大統領は13日の国民向け談話を発表する記者会見で、「苦境のときに手を差し伸べてくれるのが最上のパートナーだ。安保理常任理事国として必要な役割を果たすものと信じる」と述べ、引き続き中国重視の姿勢を示しながらその中国に、負うべき「義務」という釘を打ち込んだ。
韓国にとって、米日との強固な関係を基盤に中国、さらにはロシアと連携する戦略は不動である。しかし、米日と中国との軋轢が増幅される過程で、中国重視の立場にこだわっても、比重を米日により傾けて中国と距離を置いても、関係国でもっとも世論が割れやすい韓国国内をまとめるのは容易でない。
心理戦に毅然と
北韓の仕掛ける心理戦の重大局面にあって韓国はかつてない重圧にさらされよう。北韓の究極のねらいは、関連国のなかでもっとも脆弱な韓国を従北勢力を総動員して揺さぶり、かつての太陽政策以上に奉仕する「国」ならぬ「地域」に転落させるところにある。
経済の先行き不安と広がる所得格差、嶺南と湖南の地域対立より深刻化したとされる20・30代と50・60代の世代葛藤といった下地があるうえに、慰安婦問題の韓日合意、歴史教科書の国定化問題、労働改革問題、さらには2周忌を迎えるセウォル号沈没惨事の責任追及問題など、従北勢力が核問題に煙幕を張り、国論分裂を扇動しやすい事案が目白押しだ。これらは4月13日の第20代国会議員選挙の結果いかんにかかわらず、沈静化する展望にもない。
せめぎ合う材料はさまざまあっても、北韓の核問題に限って国論相克は絶対に許されない。中国など関連国の結束を固め、制裁を効果的に推進するためにも韓国はいま、核放棄か自滅か、いずれかの選択に追い込む覚悟を新たに、北韓に臨むきときにある。
(2016.1.15 民団新聞)