掲載日 : [2016-02-10] 照会数 : 7483
読みたいウリ絵本<38>鉄を食べるプルガサリ
[ 文 キム・ジョンチョル
絵 イ・ヒョンジン
訳 ピョン・キジャ
出版社 岩崎書店 ] [ 煙突に刻まれたプルガサリ
]
韓国独自の想像上の生きもの、「トッケビ」がでてくる絵本はすでに紹介しましたよね。今回は韓国で怪物としてよく知られている「プルガサリ」が登場するむかし話絵本、『プルガサリ』を紹介しましょう。
むかしむかし、山奥にハルモニがひとりで住んでいました。ある夏の日、ハルモニは体のあかをこねて黒いかたまりをつくります。
するとどうでしょう! あかのかたまりは部屋をはいずり、針を一本ぱくりと食べるではありませんか。これがプルガサリです。
プルガサリは部屋にあったハサミや鍵を次つぎと食べます。食べるごとに体は大きくなり、ハルモニが寝ているすきに、村へとおりていったのでした。
プルガサリは村の家いえに入りこんでは、さじ、包丁、釜など、鉄でできているものなら何でも食べて、ついにはゾウほどまでに大きくなりました。
このままではたいへんなことになる! 村人たちはプルガサリをやっつけようとしますが、びくともしません。役人がかけつけてきて、槍と弓矢で殺そうとしますがはね返します。そこで火で焼き殺そうと穴に落として油を注ぎますが、ものともしません。
どうです? プルガサリが怪物といわれる理由がわかるでしょ。韓国語で、手のつけられない乱暴者のことを指す慣用句に、「松都末年のプルガサリ」というのがあります。
松都とは、高麗時代の首都だった開城の別称。末年とは時代の終わりのころ。つまり、高麗時代末期のことです。そして、殺そうと思っても殺せないということから、プルガ(不可)サリ(殺伊)と呼ばれるようになったといわれています。
しかし、そもそもプルガサリは恐ろしい怪物などではなく、神聖な生きものと考えられてきました。古い文献などには、つぎのように書かれています。
「プルガサリは鉄を食べて生き、悪夢と邪気を追い払ってくれる伝説の生きものだ。その姿は、クマの体にゾウの鼻、サイの目、トラの爪のような牙、ウシの尾を持ち、全身には針のようなトゲがでている」
朝鮮王朝時代を代表する王宮である、景福宮の交泰殿のうしろには、峨嵋山という庭園があります。そこには、プルガサリが彫られたオンドルの煙突があるのです。交泰殿は中宮殿とも呼ばれる王妃の寝殿。悪夢を追い払ってくれるというプルガサリを刻むことで、夜の平穏を願ったのでしょう。
さて、プルガサリと聞くと多くの方が、北朝鮮で制作され、日本でも公開された怪獣映画のことを思いだされるのではないでしょうか。実はそれよりも20年以上も前の1962年に、韓国初の怪獣映画にプルガサリが使われたのですよ。
惜しくもこの映画のフィルムは消失してしまい、詳しい内容などもわからないことが多い「幻の映画」となってしまいました。ただ映画のタイトルは、先ほど紹介した慣用句、「松都末年のプルガサリ」だったのです。
ところで、村中の鉄という鉄を食べて大きくなり、火で焼いても殺せないプルガサリを、ハルモニはどのように退治したのでしょうか? お話のつづきは絵本で確かめてくださいね。
キム・ファン(絵本作家)
(2016.2.10 民団新聞)