掲載日 : [2016-02-10] 照会数 : 11231
<第70回定期中央委員会>15年度活動報告案(要旨)
[ 母国サマースクールに参加した中学生たち
] [ 国交50周年を祝う「韓日親善友好の集い」は在日同胞と日本人1200人が訪韓しソウルで開かれた ]
韓日関係の修復に心血注ぐ
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はじめに
ヘイトS包囲網狭める
昨年の本団は、第69回定期中央委員会で「韓日友好・共生促進」「同胞生活支援」「民族主体性確立」「組織改革・強化」を柱とする15年度基調を確定したのに加え、第53回定期中央大会で向こう3年間の基本姿勢を示す異例の決議文を採択し、団長・呉公太(再)、議長・呂健二(新)、監察委員長・韓在銀(再)の新3機関長を選出してスタートした。
新3機関長の任期が満了する18年2月までに、韓日国交50周年(15年6月)、光復70周年(同8月)、第20代韓国国会議員選挙(16年4月)、第19代韓国大統領選挙(17年12月)、そして平昌冬季五輪と時を同じくする新大統領就任式(18年2月)など重要事案が続く。
大会決議文は、これらが韓日間の軋轢と韓国国内の理念葛藤を増幅させかねないとの懸念を表明、「韓国の政治的安定と国力充実」および「韓日関係の早期修復」を切望し、当面して「(韓日の)懸け橋となって友好増進に貢献する一方、日本における歴史修正主義の動きに警鐘を鳴らし、在日同胞の人権を脅かすヘイトスピーチの根絶に全力を注ぐ」ことを誓った。
本団は今期初年度の昨年、もっとも緊要な課題である韓日関係の改善に背水の陣で臨んだ。両国が過敏になる国交50周年と光復70周年という歴史的な節目を関係修復への転機にしなければならないとの強い決意による。本団は全組織をあげ、両政府の高位当局者に関係改善への努力を求め、政治指導者間の相互理解を後押ししたほか、日本各地の自治体や市民団体とともに草の根交流の拡充に全力を注いできた。
その集大成の意味をこめて10月、日韓親善協会中央会、韓日親善協会中央会とともに国交50周年を祝う「韓日親善友好の集い IN SEOUL」を開催した。在日同胞と日本人1200人が訪韓し、韓日両首脳が寄せたビデオメッセージを受け、首脳会談の成功を祈念するとともに民間交流を拡大すべく誓った。
朴槿恵大統領と安倍晋三首相は11月、3年半ぶりとなる韓日首脳会談を行い、両国関係をいっそう発展させることで一致した。12月にはそれに基づき、24年間の懸案である旧日本軍の慰安婦問題で合意に至ったことを高く評価したい。
韓日関係は市民社会レベルでも最悪期を脱する兆しを見せた。在日同胞の生活と人権を脅かすヘイトスピーチは、デモに限れば昨年の10月末現在で50件と前年同期の110件より大幅に減少する一方、ヘイトスピーチに対する法整備を国に求める地方議会の意見書採択が勢いづいた。
朝鮮通信使の関係資料をユネスコ記憶遺産に韓日共同で登録する事業にも、大きな進展があった。本団は「21世紀の朝鮮通信使 ソウル‐東京友情ウオーク」を一貫して支援してきた実績を土台に同事業を後押しした。17年半ばの登録実現に向け、この3月にも申請書が提出される。
本団による韓日交流の蓄積は昨年、いくつかの実りにつながった。韓日間の懸け橋であることを自他ともに認める本団にとって、両国関係の改善は創団70周年を韓日各界がともに祝福でき、より意義深いものにする条件ともなる。
先の大会決議文は一方で、「本団は、指導幹部の第2世代から第3・第4世代への移行期に直面している」とし、「中堅幹部力量の開発、次世代育成、在日大統合を支柱に組織を再生しつつ、創団70周年記念事業を成功」させると強調した。
次世代育成では、土曜学校や夏季・冬季のオリニ事業をはじめ、中・高・大の生徒・学生を対象にした母国サマースクール、大学生によるワークショップを実施した。サマースクールでは、これまでの「見る」「聞く」に加えて「体験」型の自己啓発に力点をおいた。
中堅幹部力量の開発については、民団、婦人会、青年会の30代から50代までの幹部を集めた次世代リーダーワークショップで、支部活性化方案などをテーマに経験の交換をはかった。これとの関連で、40・50代を中心に青年会東京OBクラブが発足し、他地域でも同様の動きがあることは、本団の人的資源発掘の観点からも注目される。
組織活性化、幹部育成、在日大統合などの可能性を探る企画事業として、「未来創造フォーラムin愛媛」があった。中央本部および近隣地方本部の活動者が集い、7日間にわたって戸別訪問を徹底した結果、日本籍取得者や団費未納団員など組織から遠のいた同胞に回帰現象を生み、若い世代や新定住者など本団になじみのない同胞の関心を引き寄せた。未来づくりのひな型をつくったと言えよう。
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韓日友好・共生促進
朝鮮通信使 世界遺産へ前進
国交50周年事業
国交正常化記念日前日の6月21日、申 秀元駐日韓国大使と武藤正敏前在韓日本大使を講師に「韓日親善友好の意義」と題した記念講演会を開催した。同胞と日韓親善協会関係者、日本国会議員など350余人の参加者は、懸け橋である本団の役割を再認識した。
当初、6月に1000人規模で予定していた大規模訪韓事業は10月、1200人に規模を拡大、「韓日親善友好の集い IN SEOUL」と銘打って実施した。日本市民と在日同胞が一堂に会して韓日首脳会談の成功を訴えた意味は大きく、両国指導者と本団3者の信頼関係を固めた。
ヘイトスピーチ根絶
人権擁護委員会を中心に地方本部および傘下団体が連携し、地方議会に「ヘイトスピーチを禁止し処罰する法律制定を求める」意見書採択を陳情する一方、全国35カ所で集会、セミナー、シンポジウムなどを開催し、「ヘイトスピーチの根絶に向けた20のQ&A」を発行するなど、レイシズムに対抗し、克服する意識の啓発に内外で努めた。
また、婦人会は全国6ブロックに分けての大研修会で反ヘイト決起大会をもち、法規制を求める要望書を各政党に伝達、青年会は「「世界人権デー議員会館前アクション」のほか日本市民団体と連帯して集会・デモを展開した。青年会OB全国連絡会も新宿・新大久保で「許すなヘイト 緊急フォーラム」を開催、結束を固めた。
地方議会の意見書採択は、15年末現在で293件となり、そのうち15年だけで250件となるなど加速してきた。国会に提出された「人種等を理由とする差別の撤廃のための施策の推進に関する法律案」は継続審議となったが、法制化への動きは着実に強まっている。
朝鮮通信使登録
韓日の善隣友好を象徴する朝鮮通信使は、歴史的意義を今日に継承する意味からも、その資料を韓日共同でユネスコ世界遺産に登録しようとの機運が国交50周年を機に大きく高まった。
民団も加入する朝鮮通信使縁地連絡協議会(縁地連)の自治体や市民団体を中心に、年初から西は長崎、福岡、東は群馬、埼玉までの各地で講演会、シンポジウム、フィールドワーク、通信使の再現行列が相次いだ。本団はこれらに積極参与するとともに、兵庫、京都、神奈川本部や岡崎支部などが地域のイベントに合わせ、独自に通信使行列を再現し好評を博した。
在日同胞や韓日市民合わせて延べ2600人が参加した「21世紀の朝鮮通信使 第5次ソウル‐東京友情ウオーク」と、昨年初めて行われた韓日50人による「両輪で走る新朝鮮通信使」を手厚く支援した。縁地連をはじめ韓日両政府や韓日・日韓議連、双方メディアが一体となって条件を整え、共同登録事業はこの3月に申請書を提出する段階にある。
地方参政権獲得
本団は韓日関係の早期修復のために、両国が前向きに協調できる事業の拡大を優先した。しかし、地方参政権問題は韓日で論議が分かれるとはいえ真の共生社会を実現する立場から双方の政界や市民団体と交流する場で地道に働きかけてきた。
7月に東京で開催された韓日・日韓議員連盟総会で、韓国側は地方参政権付与法案の迅速な成立に格別な協力を要請、日本側は実現に向けいっそう努力することを約した。本団は韓日議連との懇談会で、地方参政権獲得運動をねばり強く進める意思を確認した。
各種交流事業
本団の恒例行事は、日本各界人士とともに国交正常化50周年を機に韓日関係の早期修復を求める全国規模のキャンペーンの場となり、韓国語講座、各種文化教室など日常活動も草の根交流の拡充に貢献した。
本団や市民団体が協力して7回目を迎えた「韓日祝祭ハンマダンin東京」は、過去最高を記録した前年と同じ5万人が参加し、双方の大学生による朝鮮通信使パレードも花をそえた。
また、東京日韓協、台東区、地元商店会などの熱心な支援を得て民団韓食ネットが浅草で開催した「日韓グルメフェア」が多くの市民でにぎわうなど、相次いだ新企画も好評だった。
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同胞生活支援
相談センター9カ所に
生活相談センター
兵庫、京都、富山の3本部が新たに開設し、地方の相談センターは9カ所となった。昨年、中央本部センターの相談員が対応したのは797件で、相続問題が141件ともっとも多く、世代交代にともなう事案が多いことをうかがわせた。地方センターの相談対応は計690件に増えた。
就職・結婚・福祉
駐日韓国企業連合会などの後援を受け、韓国中央会館で開いた「2015就職フェア」に20社が出展し、在日同胞の学生や留学生約160人が参加した。
ブライダル事業では関東、近畿の両地域協議会がそれぞれ開催したほか、地方本部、婦人会、青年会の細やかな配慮による出会いの場が準備された。
福祉面では長寿祝賀記念品を28地方本部の271人(うち白寿29人)に、養護施設支援は23施設に行った。台風18号豪雨および鬼怒川決壊で被害を受けた同胞17世帯に見舞金を伝達した。
脱北者支援センター
韓日市民が主催する元在日同胞脱北者の講演会が8カ所で開催され、総連による北送事業の非人道性を改めて浮き彫りにした。脱北者交流会は関西で2回、関東で1回開かれ、それぞれ50人前後が参加した。
旅行者支援センター
訪日韓国人は引き続き増加傾向にあり、対応総数は全国で1433件だった。2年連続で若干減少したのは、リピーターが増えたためと分析される。
慰霊・顕彰事業
国立望郷の丘に500余人の参席を得て「第40回望郷祭」を営んだ。沖縄戦終結70周年、慰霊塔建立40年に際した沖縄韓国人戦没犠牲者慰霊大祭のほか、日本各地にある日帝統治時代の殉難同胞慰霊事業を支援した。
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民族主体性確立
「在日」の連帯感育つ
次世代育成
5回目となる次世代サマースクールに300人以上の中・高・大学生が参加、安保視察や文化体験などを通じて祖国との親近感、在日同士の連帯感を養った。「繋がろう! 考えをもって熱くなれ」をスローガンに、「在日同胞大学生ワークショップ」を実施、学生会の組織強化を支援した。オリニ土曜学校を22地方本部の34カ所で運営し、臨海・林間教室など夏季事業と冬季オリニ事業は29地方本部で行い、2256人が参加した。
ウリマル・文化勧奨
韓国語講座を43地方本部157カ所で863講座を運営し、韓国語弁論大会を28カ所で開催した。9回目のMINDAN文化賞には4団体・973人から1332点の応募があった。文化芸術活動助成では、本団の11地方本部39件、外部団体から7件を選定した。
歴史資料館10周年
韓国中央会館ロビーの展示を一新し、「ポスターに見る民団の歩み」「身世打令〜在日の自叙と家族写真」「ガラクタの中のお宝展‐約600人からの寄贈品展示会・感謝の気持ちを込めて」など8件の企画展示を行い、約2万4000人が観覧した。11回開催された土曜セミナーには473人が参加した。
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組織改革・強化
「in愛媛」の経験を広く
支部活性化
支部活性化事業として24地方本部から申請のあった106件を模範事業と認定し、総額999万円を交付した。中央本部幹部による支部巡回は、福岡本部管下を中心に9支部で実施、12年度の開始以来の巡回は総172支部となった。
幹部力量の向上
恒例の地方幹部研修のほか、東北地協がリーダー育成セミナーを札幌、仙台で開催し、合わせて74人が参加した。全国の壮年活動者が参加した「次世代リーダーワークショップ」では、支部活動の実践事例を評価し合い、団員サービス、新定住者や日本籍同胞の組織化など、懸案事項について討議を深めた。
未来創造フォーラム
「支部活性化」「幹部力量の向上」「在日社会の大統合」を同時に追求する活動として「未来創造フォーラム」を実施した。
8月の「in愛媛」は、組織活性化会議、戸別訪問集中活動、総括会議の3段階で構成した。7日間の戸別訪問には中央本部と近隣本部合わせて延べ107人の活動者が参加し、274世帯を訪れた。
その結果、30〜50代の青壮年層がしっかりと地域に根付いており、愛媛本部を担う潜在力量の豊かさが確認された。また、日本籍を取得した同胞、組織から遠のいた団員、さらには新定住者の本団に対する関心を高めることができた。
この活動を通じて、愛媛本部ばかりか近隣本部の活動者も、戸別訪問によって潜在力量を掘り起こし、「大統合」の対象である新定住者についても同団体幹部との交流と戸別訪問を並行することで一体感を醸成し、組織活性化につなげ得ることを実感した。
「未来創造フォーラム」は12月、一年の締めくくりとして「在日同胞社会の変化と民団の進路」をテーマにシンポジウムを開き、柳興洙大使の基調講演を踏まえ、有識者によるパネル討論を行い、忌憚のない意見交換を通じて中期的な課題を模索した。
同フォーラムは意見交換による問題意識の共有と愛媛方式の集中活動を組み合わせることで、本団の新たな可能性を提示するものとなった。
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むすび
明るさ見いだした1年
韓日両国は国交正常化50周年の昨年、歴史認識をめぐって激しい応酬を繰り広げながらも、50年の蓄積を無に帰すことなく、3年半ぶりの首脳会談を成功させ、24年来の懸案であった旧日本軍の従軍慰安婦問題でも合意を導き出した。
本団はこれを歓迎する一方、ヘイトスピーチは根絶にはなお遠く、近隣諸国との友好を阻害する歴史・公民教科書の採択が広がる日本、慰安婦合意をくつがえそうとする動きのある韓国のそれぞれの実情を踏まえ、今後とも韓日各界の相互理解を促進し、関係発展に尽くす決意を新たにした。
昨年はまた光復70周年であり、韓国では「偉大な道のり、新たな跳躍」をスローガンに多彩な行事が繰り広げられる一方、分断から70年であることが強く意識された。本団は健全な歴史観のもとに国民が一致結束するよう訴え、第17期民主平統の出帆に合わせ日本地域会議の活動充実を期し、各種セミナーを通じて統一問題の現況と課題について認識を深め、運動への参与意識高揚をはかった。
組織整備の一環として検討してきた民団中央本部の法人化問題は、本団組織自体はそのまま任意団体とするが、事業目的に応じた法人は妥当との判断から「非営利型一般社団法人」を設立することにした。中期的には民族財産管理と寄付金の税控除にも対応していく。
終わりにあたり、スポーツが次世代育成の大きな柱になっていることを報告したい。韓国国体江原道大会の海外同胞の部で、在日選手団は4連覇を達成し、サッカーの康裕美選手が女子W杯で韓国初の16強進出に貢献、柔道の安昌林選手が数々の国際大会で優勝した。3世の2人はともに、「祖国を救った」とまで称えられており、在日と本国の紐帯および4世・5世の夢を育むものとして評価したい。
韓日関係は国交50周年、光復70周年という歴史的な年にようやく明るい兆しを見せた。この機運の広がりが期待される。この間、多種多様な事業を推進してきた全国各級組織と傘下団体の幹部・活動者の皆さんに心から感謝申し上げます。
(2016.2.10 民団新聞)