掲載日 : [2016-02-24] 照会数 : 4734
読みたいウリ絵本<39>雪のなか ひたむきに待つ
[ 文 イ・テジュン
絵 キム・ドンソン
訳 チョン・ミヘ
出版社 フレーベル館 ] [ 『かあさん まだかな』のキャラクター人形 ]
今回は、キム・ドンソンの絵本、『かあさん まだかな』を紹介しましょう。
前々回(第37回)の『クリムのしろいキャンバス』のなかで、作者が国内で「ボローニャワークショップ」という、半年に及ぶ研修を受けてからボローニャ国際児童図書展に挑戦し、見事に優秀賞を受賞したと書きましたが、覚えていますか?
現在その「ワークショップ」の責任講師を務めているのが、ほかでもない、キム・ドンソンなのです。当然、「クリム」の指導も行ったことでしょう。
キム・ドンソンはとても多才で、絵本のほかにも広告、ポスター、アニメ、何でもこなしますが、彼の名を多くの国民が知ることになったのが、この『かあさん…』なのです。写真のような、主人公のキャラクター人形が販売されるほどに、多くの支持を得ました。
さて、内容です。文は、日本の統治下にあった1938年に刊行された『朝鮮児童文学集』のなかに収められたイ・テジュンの短編童話。キム・ドンソンは絵を担当しました。
舞台は、童話がつくられたのと同じ、1930年代。寒い真冬のある日。寒さで鼻を赤くしたぼうやが、路面電車の停車場にやってきます。
短い足で停車場に「よいしょ!」とよじ登り、停車場で電車がくるのを待っていました。
間もなくして、電車がやってきます。ぼうやは首を傾けて、
「ぼくのかあさんは?」と、運転士にたずねるのですが、運転士はぶっきらぼうに、
「しらないねえ」
と答えます。しばらくして、つぎの電車がくると、また、ぼうやは首を傾けてたずねます。
「ぼくのかあさんは?」
そしてまた、つぎの運転士も、
「しらないねえ」
と冷たく答えるのでした。
そしてまた、つぎの電車がやってきました。ぼうやはまた、首を傾けて運転士にたずねます。
運転士は降りてきて、
「あぶないから、かあさんがくるまで、ここでじっと待っていなさい」
といいます。
ぼうやはいわれたとおりに、じっと待ちます。
風が吹いても、電車がきても。じっと……。
やがて、ちらちら雪が舞いはじめます。それでもぼうやは、じっと、かあさんを待ち続けます。
雪はだんだん激しくなって積もりだし、やがて街を白くおおってしまいます。
その後、ぼうやはどうなったのだろうか? かあさんに会えたのだろうか? 読者はそれがとても気になるのですが、絵本には何も書いてありません。
ただただ、じっと、かあさんを待つぼうやのひたむきな姿が、じーんと心にしみる名作絵本です。
絵本には、停車場で頭に荷物をのせて電車を待つ女性、どこかへ走っていく男子中学生、子どもをおんぶしている女の子など、1930年代の韓国の人たちの暮らしぶりが、さりげなく描かれています。
『かあさん まだかな』は、日本をはじめとする世界の6カ国で翻訳出版されています。日本語版の最後には、韓国語の原文も載っていますので、原文で読むのもいいでしょう。
キム・ファン(絵本作家)
(2016.2.24 民団新聞)