掲載日 : [2017-04-26] 照会数 : 6129
韓国テンプルステイ<1>…総本山・曹渓寺
ビルの谷間に市民のいやしの場
日本の仏教は真言宗や浄土宗など宗派が細分化され、「宗派仏教」と呼ばれる。これに対して韓国仏教は宗派が少なく、「総合仏教」と称される。30余ある大韓仏教宗団のうち、曹渓宗に属する仏教徒が8割を占めており、その総本山が曹渓寺だ。
一般に山中に多い他の寺院とはことなり、ソウルの中心街・鍾路区に位置し、高層ビルの谷間にある。周辺には仏具店が軒をつらね、店頭には法衣や木魚、数珠、香など仏教関連の品々が並ぶ。
狭い境内にはところ狭しと提灯が飾られ、華やいだ雰囲気がただよう。5月3日(旧暦4月8日)の「釈迦生誕の日」を祝うためのものだ。提灯の上から顔をのぞかせた白松は樹齢500年といわれ、この地域に隣接する「壽松洞」の地名に由来するらしい。
白頭山の松で建てられたという本堂の大雄殿では、参拝者が仏像にむかいながら礼拝や合掌をしたり、対座しながらながく瞑想する人もいる。それぞれ自由に礼拝する姿に心がなごむ。
尼僧の智仁スニム(僧侶)によると、訪問者は連日数千人をかぞえ、外国人も少なくない。そのため礼仏(イエブル)が1日4回(4・10・14・18時)と他の寺院に比べて多い。周囲のビルにネオンが灯ってからも人の出入りがつづき、一晩中ロウソクの灯が絶えることはない。市民にとって大切な信仰空間であり、いやしの場となっている。
1945年の独立解放後、仏教界の浄化運動がすすめられるなかで、韓国仏教を中興させた太古・普愚スニムが1395年に創建した太古寺を移転させるという形式をとりながら、1954年、大韓仏教曹渓宗の総本山として曹渓寺に改称された。
韓国と日本は同じ大乗仏教圏に属し、基本となる経典や信仰のあり方が似ているものの、異なる点が少なくない。日本の寺院は江戸時代の檀家制度によって寺院内に墓地ができ、「お墓仏教」と呼ばれる。しかし韓国の場合、寺院と墓地はまったく別もの。寺院は修行の場であり、僧侶たちは肉食をせず、結婚をすることもなく、悟りの世界をめざしてひたすら励む。
韓国文化財委員会は国連の教育科学文化機関(ユネスコ)に「伝統山寺」の世界文化遺産登録申請をめざしている。本シリーズでは、2002年から実施された「テンプルステイ 33観音聖地」を中心に、山々にすっぽり包みこまれ自然と調和した山寺の魅力について紹介していく。
◇ソウル特別市鍾路区郵政局路55(℡82‐2‐768‐8660)
宋寛(韓国文化研究家)
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礼仏
礼拝のこと。一般的に1日3回、本堂で3宝(仏・宝・僧)に対して礼をささげるお勤め。朝は3〜4時、夜は18〜19時になされる。一般の人も自由に参加でき、僧侶とともに礼仏文や般若心経などを唱える。
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プロフィール
ソン・ガン 1947年仙台市生まれ。東北大学農学部卒。民団新聞など韓国系マスコミに勤務。翻訳書に『韓国文化のルーツ』。
(2017.4.26 民団新聞)