掲載日 : [2017-11-08] 照会数 : 5588
訪ねてみたい韓国の駅<16>嶺東線 桶里
[ 桶里駅から出発するレールバイク。老若男女が楽しめる爽快な乗りものだ
] [ 綺麗に整備されたセントラルステーション。一直線に延びるインクラインの頂上が桶里駅のあるところ
]
爽快…風切りレールバイク
前回から引き続き、江原道の「チューチューパーク」に来ている。2012年に、ループトンネルに置き換えられて廃止になった、韓国最大の山岳路線、嶺東線スイッチバック区間を再活用したリゾート施設だ。
前回紹介した羅漢亭駅からスイッチバックトレインに揺られること約20分。真新しいホームが見えてきた。標高約470メートル。ここは深浦里(シンポリ)信号場跡に整備された、チューチューステーション。線路脇には、かつての花形特急「セマウル号」の客車を改造したコテージ「トレイン・ビラ」が並んでいる。中心に位置するセントラルステーションには、昔の保安システムであるタブレット閉塞器が展示されていた。かつて日本の国鉄が使っていたものと全く同じで、懐かしさを感じると同時に、ドキリとする。
さて、ここは峠の中間点。サミットは、標高680メートルの桶里(トンニ)駅だ。まだ200メートル以上登らなくてはならないが、実は、直線距離では1キロしか離れていない。この峠が、いかに険しい絶壁かわかるだろう。嶺東線が開通するまで、この区間にはインクラインと呼ばれる鋼索鉄道があった。インクラインは貨物専用で、乗客は線路の横にある登山道を、歩いて上り下りしたという。1963年に開通した嶺東線は、山中でΩ(オメガ)状のカーブを繰り返し、7・7キロも走って峠を登り切った。
現在、チューチューステーションから桶里駅までは、観光用インクラインが用意されている。スイス製の車両で、大韓民国初の山岳観光鉄道という触れ込みだ。だが、安全性に問題があったのか、緊急点検整備として長期運休中。代わりにシャトルバスが運行されている。
峠の頂上、桶里駅の周辺には、今も小さな町がある。すぐ南に、ループトンネルの出口と東栢山駅があり、無煙炭を産出する炭鉱も現役だ。
レンガ造りの駅舎をくぐると、広いホームに遊園地のようなカートがずらりと並んでいた。桶里駅は、今や「スカイステーション」に生まれ変わり、チューチューステーションまでの7・7キロを、足こぎのレールバイクで風を感じながら山を駆け下りることができるのだ。料金は2人乗りが2万8000ウオン」。チューチューステーションで申し込み、桶里駅から乗車するシステムだ。
運転席に座り、説明を受けていよいよ出発。駅の敷地を出ると、すぐに下り勾配となり、ほとんど漕がなくてもちょうど良いスピードで進んでくれる。トンネルを抜けると、右手のはるか下に、麓にある道渓(トゲ)の町がちらりと見えた。再びトンネルに入り、右へ右へとカーブしていく。再び外に出ると、今度は道渓の町が左に見えた。トンネルで180度ターンし、距離を稼いでいるのである。
2本のレールが前方に延び、ガタンゴトン、とレールの響きがお尻に伝わる。小さなレールバイクだが、気分は汽車の運転士だ。
チューチューパークまでの所要時間は30分弱。景色がよく見えるので、この鉄道がどんな地形をどういうルートで走っているのか、よくわかる。楽しみながら、鉄道を建設した先人の苦労と歴史を体感できるテーマパークだ。
レールバイクを下りると、じんわりと汗が滲んだ頬に山の風が心地良かった。
栗原景(フォトライター)
(2017.11.8 民団新聞)