掲載日 : [2018-05-09] 照会数 : 10109
<訪ねてみたい韓国の駅29>仏国寺・東海線
[ ビルの屋上から眺めた仏国寺駅。駅舎の無駄のない造形が美しい ] [ 世界遺産、仏国寺。慶州市内や仏国寺駅前からバスが多数ある ]
開業100年、世界遺産の玄関
歴史ある古都の玄関には、それにふさわしい風格が備わる。韓国の古都と言えば、新羅の都、慶州だ。その玄関である慶州駅が開業したのは、1918年のことだ。駅舎は、韓国の伝統的な建築様式を参考に設計されたデザインで、日本が支配していた1936年に竣工したもの。1934年に完成した国鉄奈良駅の二代目駅舎(奈良市総合観光案内所として現存)と同様、古都にふさわしい駅舎として建設されたと言われている。ソウルから直通の「セマウル号」が運行されるなど、長年多くの旅行者に親しまれたが、2010年、市郊外に高速鉄道KTXの新慶州駅が開業してからは、利用客もずいぶん減ってしまった。
その慶州駅から、釜山方面へ11キロ南下したところに、仏国寺駅がある。慶州を代表する名刹で、世界文化遺産にも登録された仏国寺の名前を冠した駅だ。こちらも、韓国の伝統建築様式を取り入れた駅舎が待つ。開業は慶州駅と同様1918年で、今年開業100周年を迎えた。駅舎も慶州駅と同じ1936年に竣工したもので、この時線路幅が軽便鉄道仕様の762ミリから、現在の1435ミリ(日本の新幹線と同じ)に改軌されている。
韓国随一の観光地の名称を持つ駅だけに、さぞかし多くの観光客で賑わったことだろうと思いきや、仏国寺駅を利用する人は少ない。停車する列車が限られるうえ、肝心の仏国寺まで3・5キロも離れているからだ。仏国寺や、同じく世界文化遺産の石窟庵を訪れるには、慶州駅で下車した場合と同様、路線バスに乗らなくてはならない。
だが、そのおかげで仏国寺駅は、昔ながらの姿を失わずに済んだ。駅周辺には、今も1970年代を思わせる、のどかな田園風景が広がっている。仏国寺を訪れるなら、片道はこの駅を利用したい。
「駅の写真を撮っているのかい。うちの屋上から撮るといいよ」
駅前のビルから出てきたおじさんが、教えてくれた。4階建てのビルの屋上にのぼると、目の前に仏国寺駅の全景が広がった。歴史ある駅舎にのびやかな水田。背後には、山全体が歴史遺産である南山がそびえている。
上から見ると、駅舎の様子がよく観察できる。屋根は、四方に傾斜している寄棟屋根だ。白い壁には横板が張られており、どこか奈良・東大寺の正倉院を思わせる。もっとも、現在の姿は解放後に改装したものだ。竣工当初は仏国寺の大雄殿と同じ入母屋屋根で、その上に櫓のような構造物があった。今の方が、シンプルで優れたデザインだ。
仏国寺へは、駅前ロータリーのバス停から11番バスに乗って15分ほど。11番バスは周辺の観光地を巡回して慶州市街に戻るので、帰りもこれに乗れば迷わず市内に戻ることができる。
世界遺産の観光と、昔ながらの鉄道の旅を同時に味わえる仏国寺駅だが、この駅も近い将来、慶州駅とともに廃止される運命だ。慶州歴史遺跡地域が世界文化遺産に登録された際、ユネスコが、遺跡地域を通過している鉄道を将来郊外へ移設するよう勧告したためである。
現在、蔚山方面から新慶州駅に接続する電鉄線が全く新しいルートで建設されており、2020年頃に現在線から切り替わる予定だ。100年の歴史を誇る仏国寺駅も、終焉の時が近づいている。
栗原 景(フォトライター)
(2018.05.09 民団新聞)