「緊急事態宣言」下、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、巣ごもり生活を余儀なくされている人たちが、営業を続けたり再開したりするパチンコ店や飲食店に嫌がらせや中傷する事例が目立った。「自分は自粛要請に従って苦しい生活をしているのに、抜け駆けが許せない」とばかり、処罰感情から私的制限を求めるというもの。こうした排外的な風潮は戦時下の「隣組」を想起させ、危険極まりない。3人の同胞有識者はどう見るのか。意見を寄せていただいた。
パチンコ店実名公表の前に
大阪市立大学大学院教授 朴 一
新型コロナウイルスの感染が深刻化するにつれ、自粛や休業を正当化する声が高まっている。
とりわけ、緊急事態宣言が発せられると、SNSで拡散されるツイッターには、自粛できない人々や休業要請に応じない企業を糾弾する過激な投稿が目立つようになった。
ツイッターでは我慢できないのか、お店が午後8時に閉まっているかをチェックし、守らない店には実力行使にでる自警団が街に徘徊しているという話もある
とりわけ、自治体が休業要請に応じないパチンコ店の名前を公表してから、SNSを通じたパチンコ屋攻撃は過激化するばかりだ。
私の知り合いの在日コリアンの店主に聞いたところ、連日、「パチンコ店はつぶすべき」、「休業に応じないなら店を爆破しろ」という電話がかかってくるという。
恐ろしいのは、自治体が店名公表に踏み切ってから、こうしたパチンコ屋攻撃が正当化され、日本社会全体に「パチンコ店はコロナ防止の敵」のような風潮が生み出されつつあることだ。
休業要請がおこなわれていないパチンコ屋を他府県から訪れた県外ナンバーの車に対し、嫌がらせが行われているという報道もある。
確かに、売り上げが減少した中小企業に対し、国は休業協力の名目で、最大200万円、自治体も最大100万円を支給している。パチンコ屋も国や自治体の休業補償をもらえばよいという意見もある。しかし、家賃、20名前後の人件費、台の修繕費などで毎月数百万から数千万がかかる中規模のパチンコ店でも、国や自治体の休業補償金はすずめの涙の涙にしかならない。
業績悪化で従業員を休ませ、休業手当を支払った企業に国は雇用調整助成金を支給するとしているが、支給してもらうには、まず企業が休業手当を前払いしなければならず、中小のパチンコ店にそんな経済的余裕はない。
国や自治体が掲げる休業補償金のレベルでは、体力のある大手はともかくも、中小のパチンコ店にとって、休業がそく廃業につながる可能性もある。パチンコは在日コリアンの主力産業の一つであり、コロナ被害を通じたパチンコ店の連鎖倒産が、在日コリアン経済へ悪影響を及ぼす可能性も充分考えられる。
実際、政府も自治体も自粛と休業を要請しているだけで、営業は違法ではない。パチンコ店も客が隣接しないよう、使用できるパチンコ台の間隔をあけ、使用したパチンコ台の殺菌作業や店内換気を徹底し、お客にはマスクを無料配布するなど、徹底した感染防止策を実践してきた。
こうした防止策の効果か、ライブハウスのように、パチンコ屋でコロナウイルスの集団クラスターが起こったという事例は一度もない。
確かに、コロナウイルスの感染拡大を防ぐためには、3密を招きやすいパチンコ店に休業要請を解除するのは時期尚早だと考える。しかし、実名公表によってパチンコ店に対するバッシングを高め、休業に追い込むという手法は、明らかに間違っている。
問われなければならないのは、きちんとした休業補償をしないまま休業を要請する政府のやり方ではないか。自治体の長に、改めて冷静な判断を望みたい。
(2020.05.27 民団新聞)