北韓政府の北送責任を問う前代未聞の裁判「北朝鮮帰国事業損害賠償請求訴訟」の第1回口頭弁論が14日、東京地裁であった。2018年8月20日の提訴から3年越しの開廷。原告は元在日同胞とその日本人配偶者の脱北者5人で、それぞれ1億円の損害賠償を求めている。弁護団がプレゼンテーション。引き続き原告5人などの証人尋問があり、即日結審した。判決は2022年3月23日に言い渡される。
原告らは、北韓政権が虚偽の宣伝を通じて呼びかけた北送により、長年にわたって筆舌に尽くしがたい悲惨な生活を強いられた。基本的人権を享受できない環境の中、長期間にわたり生活することを余儀なくされた「国家誘拐行為」と、北韓を脱出した後も残留家族と面会交流することができないままでいる「出国妨害行為」を損害賠償の理由として挙げた。
真に実現を目ざしているのは北送被害者の救出・帰国だ。
訴状などによれば、原告のひとり、高政美さん(57)は63年、母、養父、兄弟ららとともに「第111次帰国船」に乗船した。船が清津港に着くと、養父の子のひとりが「船から降りない、日本に帰してくれ」と言ったためそのまま連行され「精神病院」と称する収容施設で拘束され、死亡した。高さんによれば「精神が破壊されて動物のような姿になって」いたという。
斎藤博子さん(77)は在日同胞と結婚した日本人配偶者。「日本人の妻は3年経てば日本に帰ることができる」という朝鮮総連による熱心な勧誘を信じたと証言した。だが、食糧が欠乏し、水道など基本的なインフラがない監視・統制社会で惨めな生活を送った。「地上の楽園と聞いたが、地獄だった。だまされた」と涙ながらに訴えた。
北送は58年8月、朝鮮総連川崎支部中留分会による「集団帰国決議」がきっかけとなり、84年までに在日同胞と日本籍の配偶者や子どもたち9万3000人が海を渡った。
高柳俊男さんは同訴訟に際して提出した意見書のなかで「ここには人為的な要素が相当介在しているとみるべきである。中留分会での集団帰国決議は自発的に起きたのではなく、北朝鮮政府からの指示に基づいて意図的に組織されたのである」と仕組まれた組織動員だったとの見解を示した。
北送責任を追及した裁判は過去にも例がある。原告団のひとり、高政美さんが09年に提起した朝鮮総連を被告とする訴訟では「不法行為に対する民法上の賠償請求権は20年で消滅する」という「除斥期間」に阻まれた。
このため今回は北韓での悲惨な生活から脱北し、日本に入国してからの厳しい生活の現状を含めることにした。そのため、被告を朝鮮総連ではなくあくまでも北韓政府、なかんずく指導者たる金正恩国務委員長とした。
「北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会」の小川晴久理事は「原告とその代理人の弁護団(9人)は先ず北朝鮮当局の公式な発言や資料で、北が海外同胞の帰国を歓迎し、彼らに何不自由をさせないと公約していることを立証している。この立証はとても貴重」(『かるめぎ』から引用)と指摘している。
クラファンで訴訟資金募る…12月10日まで
原告団はクラウドファンディングで訴訟資金を募集している。目標金額は300万円。期間は12月10日23時まで。
コースは3000円から100万円まで。リターンは「心からの御礼メッセージ」としている。
「北朝鮮帰国事業裁判 レディーフォー」または
https://readyfor.jp/projects/northkorea
(2021.10.27 民団新聞)