日本人とまったく同じ教員採用試験に合格しながら「講師」の肩書きだけが一人歩き。一部の学校現場では児童・生徒や保護者から教諭より一段低い「臨時採用のアルバイト」と誤解され、昇任の道も閉ざされたまま。生涯賃金の面でも大きな不利益を被っているという。これが「期限を附さない常勤講師」の肩書きを持つ在日韓国人教員の実情だ。制度の発足から今年で20年。あちこちでほころびが目立ちはじめている。
外国籍を格下に
兵庫の中学校に勤務する韓国籍のHさんは、クラブの生徒から「先生アルバイトやのに、熱心に指導してくれてありがとう」と言われた。
同じく韓国籍の兵庫県立高教員は、住宅ローンを組むにあたって銀行から正式採用を疑われた。職場証明に「講師」の記載があったためだ。20年前、初めての家庭訪問で保護者から教諭より一段低く見られたことも忘れられないでいる。「外国籍教員ということもあって、当時は二重のプレッシャーがあった」。
神戸市立中学校で4年間、学年副主任を務めてきた韓裕治さんは08年4月、校長からいったんは任命された副主任職を理由もなく解任され、各種委員会委員長の職務も解かれた。韓さんは名誉を著しく傷つけられたとして09年1月、日本弁護士連合会に人権救済を申し立て、受理された。梁英子弁護士は「予備調査、本調査と進んできた。そろそろ担当部会での結論が出て、委員会全体での審議に回されるころではないか」と見る。
生涯賃金でも差
外国籍教員は「教諭」でないため、教諭↓指導教諭↓主幹教諭↓副校長(教頭)↓校長へと続く職階の上昇機会を閉ざされたまま。昇級面でも常勤講師として給与表の格付けが据え置かれる。これに対し、日本人の「教諭」は、職階の上昇に伴って基本給が大幅に上がる仕組みだ。基本給をもとに算出されるボーナス、諸手当、退職金などを合わせると、将来的に生涯賃金も大きな差が出てくると見られる。
20年で人数4倍
文部省(当時)が91年韓日政府間覚書に基づき在日韓国人など日本国籍を有していない者に対して公立学校教員への途を開いた当時は外国籍教員の数が少なく、年齢的にも比較的若かった。「主任」昇進が問題になる状況でもなかった。
だが、在日外国人教員はこの20年間で約4倍に増えた。08年度調査では少なくとも215人(朝日新聞と全外教研究所調査)の在籍が確認されている。年齢的にも実績的にも、各学校で中堅教員として育っている。校長職を含む管理職を希望する者が出てきてもおかしくない。こうした現状と実態に合わせ、運用上の取り扱いの変更を考えるときがきている
運用上の取り扱い変更を
方政雄さん(兵庫県立湊川高校教員)の話「一定の年齢に達した外国籍教員が若い日本人『主任』の下で働くとする。すると、学校現場で生徒たちは『外国人は日本人より下』という構図で学習し、認知することだろう。外国籍の子どもたちには能力、実力、努力があれば報われる、頑張れと教えてきたのに教育現場で裏切っているのが現実だ。この関係は日本人にも外国人にも不幸なこと。決してあってはならない」
小西和治さん(全国在日外国人教育研究所事務局長)の話「同じ教員の仕事をしている者のなかに、国籍による差別が存在しているのが問題。国際人権規約第7条、および労働基準法第3条に違反している。差別の解消を教えるべき学校教員の間に厳然とした差別が存在するのは放置できない。子どもたちや保護者には差別意識を植えつけ、当事者には諦観をもたらすのではないかと心配している」
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文部省教育助成局通知(91年3月22付、要旨)
「公務員に関する当然の法理」からして、日本国籍を有しない者は公立学校の教諭に任用できない。だが、教諭に準ずる職務に従事する常勤講師は、校務運営については常に教務主任や学年主任などの主任の指導・助言を受けながら補助的に関与するにとどまるので、校務の運営に「参画」する職ではないと解される。「当然の法理」の適用外であり、学級担任や教科の担任となれる。ただし、主任に充てることはできない。給与そのほかの待遇については、可能な限り教諭との差が少なくなるよう配慮する。
(2011.2.9 民団新聞)