カクテルを楽しく
陰では弱点克服する猛練習
ボトルやシェーカーなどを自由自在に操るパフォーマンスで、客を楽しませながらカクテルを提供するフレア・バーテンダーの在日韓国人3世、金光浩さん(30・金城光浩)は08年、モナコ・モンテカルロで開催されたフレア・バーテンダーの国際大会「SKYY Flair Global Challenge2008」(通称スカイグローバル)で、日本代表として、初の世界チャンピオンになった。昨年1月には共同経営のバー「ガーデン」(東京・目黒区)をオープン。多くの人にフレアの魅力を知ってほしいという。
今、フレア・バーテンダーの国際大会で求められているのは、「より難しく失敗のない演技」。
08年に出場し、日本選手として初の世界チャンピオンを獲得したスカイグローバルは、米国のレジェンド、英国のロードハウスとともに3大世界大会として、数ある世界大会のなかでも最高峰に位置する。金さんが成し遂げた快挙だった。
20歳のとき、アルバイトでガソリンスタンドと、メッキ工場を掛け持ちしていた。もともと共同でバーを経営する兄に憧れてバーテンダーになりたいという気持ちはあった。
このころ、勤務先の女性から、知人がいると紹介されたのが横浜のバー。カクテルを注文したときに初めてフレアを見て虜になった。その後1カ月間、千円札を握りしめて毎日通った。「1杯頼んで、一つの技を見て帰る。簡単ではなかったけど、練習を繰り返した」
1カ月も経たぬうちに、鎌倉の由比ヶ浜で開催された「シーサイドフレア・コンペティション」に出場。出場15人中、7位に食い込んだ。この大会を機に01年、現在650店舗以上のチェーン店として世界に拡大している米国のレストラン「T.G.I.フライデーズ」に入社した。米映画「カクテル」主演のトム・クルーズを指導したことで知られる。
04年、「T.G.I.フライデーズ・ワールド・バーテンダー・チャンピオンシップ」で、日本選手として初めて優勝した。世界大会へ出場できるのは日本での予選を経て、アジア大会で優勝した一人だけ。未知の世界だった。「1年近くかかる大会だったけどプレッシャーはなかった」
差別受けた父自分は恵まれ
これまで国際大会で好成績を残してきた。以前、釜山で行われた大会でも優勝した。韓国人の友だちもできた。韓国語は話せない。だが、幼いころから家で執り行ってきたチェサ(祭祀)を見て育った。父親が学生のころ、差別を受けたという話も聞いた。だが、自身にはそういう経験はなく、「大変な時代に生きた父親の気持ちを、分かってあげられない」という複雑な思いがある。
08年のスカイグローバルの決勝には、長年にわたって世界大会で優勝している、カリスマ的存在のクリスチャン・デルペッシュが残った。「僕は勝てないだろうと言われていた」。難しいと言われる難度の技で勝負に出た。勝利の女神が金さんに微笑んだ。
「自分が練習してきたことを100㌫出せるコンディションに持っていくことが大事。メンタルは基本的に弱いからすごく緊張するし、人前でパフォーマンスをすることも苦手。でも苦手な部分を克服したいというのがあるから取り組む。やると決めた以上はやる」
日本の文化へ願いを込める
昨年1月、仲間たちとバー「ガーデン」をオープンした。フレアを日本の文化にしたいと、週末には依頼先でフレアショーも行っている。今年は11月にドバイで予定されている「SKYYフレアグローバル・チャレンジ」の大会を視野に入れる。この大会にはこれまで4年連続、日本代表として出場した。今回、5年連続出場を狙う。7月3日に沖縄で行われる国内予選に向け毎日、練習を重ねている。
「僕は学生時代の部活以外に、本気で何かをやるということができなかった。このフレアと出会って、何か問題があったら取り組むといった、自分の生き方のようなものを教えてもらった」
(2011.5.11 民団新聞)