掲載日 : [2010-08-15] 照会数 : 4469
知られざる在日史発掘 解放前の同胞団体調査
[ にし ひでなり 昨年2月まで高校教員・大学非常勤講師。現在、愛知県史編さん委員会・近代史社会文化部会特別調査委員、名古屋市史編さん委員会・近代史部会調査員 ]
b>西秀成氏 「県史へ反映めざす」
【愛知】解放前に愛知県で活動した在日同胞諸団体の概要と沿革が、このほど、研究冊子『戦前期・愛知県における在日朝鮮人の諸団体』(日朝協会愛知県連合会発行)としてまとまった。過去の資料から44団体を確認し、その来歴や資料を集めた労作。愛知県では在日同胞の歴史的研究はこれまでほとんどなされてこなかったといわれているだけに、日本近代史研究者で著者の西秀成さん(63、名古屋市)は、「すべてが新しい発見だった」と話している。
これら44団体は、植民地支配の解消を訴えた独立運動派から当時の日本政府の施策に近かった融和派までその組織的性格は様々。同冊子では「民族運動団体」「独立運動団体」「国家主義団体」「労働団体」「融和団体」など8つに分類した。A4判112㌻。
「民族運動団体」に分類されている「民友会」は1920年9月15日、名古屋市在住の同胞によって結成された。親睦、互助、苦学生の学費補助などを目的とした愛知県では最初の同胞団体だった。1923年に「相愛会愛知県聯合会」が結成されると合流し、愛知県最大の同胞団体を構成した。
相愛会副会長から同胞で唯一の衆議院議員となった朴春琴のルーツが、愛知県での成功にあったことも明らかになった。住まいは御器所村字古市場(現在の舞鶴2丁目)。ここは同胞80人が集住していた名古屋でも最初の「朝鮮人村」だったという。朴はこの場所で新渡来者の世話にあたっていた。
35年当時、愛知在住同胞の主な出身地は慶尚南・北道が7割を占めている。職業的には土工の労働者、沖仕・荷扱夫・運搬夫といった日雇労働者が圧倒的に多い。明日の仕事もままならないという非常に不安定な生活を送っていた。
世界恐慌の影響で賃下げ、首切りが頻発すると労働争議も増え始め、社会主義者と民族主義者が手を結んだ「新幹会名古屋支会」は、同胞最初の労働組合を結成した。なかでも35年から37年にかけて活動した「名古屋合同労働組合」は、「民族を問わず、同一労働に対する同一賃金を獲得するための闘争」を掲げた。
西さんは「当時の名古屋地域の労働運動で在日朝鮮人は中核的役割を担っていた。日本の社会、社会運動にも新しい風を巻き起こした」と話している。
一方、アジア・太平洋戦争が始まり、在日同胞の社会運動が先鋭化していくと、日本政府の取り締まりが強化され、各団体は在日同胞を同化させるための組織「協和会」へと収斂されていった。
西さんが解放前在日同胞諸団体について調べ始めたのは、『愛知県史』資料編33(近代史・社会・社会運動2)の準備のためだった。2002年4月から新聞資料、警察資料、地方自治体資料の収集を始め、09年いっぱいかけて完成した。
西さんは、「日本政府が在日朝鮮人らマイノリティーに対してどのような政策をとったのかを知ることは、日本史を理解するうえでは不可欠。愛知県民の歴史は、韓国人や中国人などの在日を含めた歴史であるべきなので、なんとかそのような歴史叙述がなされるように努力していきたい」と話している。
現在、『愛知県史』資料編の編さんは最終段階にあり、3年後には「通史編」の編集が進められることになっている。
(2010.8.15 民団新聞)