掲載日 : [2010-11-03] 照会数 : 8193
ソウル‐釜山全線営業のKTX 鉄道強国へ海外輸出が急務
[ 視察するシュワルツェネッガー米国カリフォルニア州知事(右)=9月15日 ] [ 高架線路を疾走する京釜線のKTX ] [ 2期区間はトンネルが多いのも特徴だ ]
ソウルと釜山を結ぶ韓国高速鉄道(KTX)京釜線の専用軌道全線営業が1日から始まった。第2期工事区間(東大邱‐釜山)がこのほど完了し、1992年の工事開始以来、18年で423・9㌔が結ばれた。韓国は世界で5番目に高速鉄道を走らせた。技術レベルでもドイツ、フランス、日本の3強に次いで4番目に位置する。高速鉄道の技術開発に着手してから16年でつかんだ地位だ。しかし、韓国鉄道史の慶事は一方で、新たな試練に突入したことを告げてもいる。国土の狭い韓国の高速鉄道産業は、生き残るために世界への進出を必須の課題としているからだ。
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生かせ 3強に迫る能力
関連産業の命運かけ 経済成長へ新たな動力に
専用軌道全線開通で、これまで3時間近くかかっていたソウル‐釜山間が最高2時間18分で走破できる。韓国の人口約5000万人のうち、3500万人が片道2時間台で行き来できる生活圏に入り、ビジネス、観光など国と地域の経済に大きな恩恵をもたらすことになる。
第2期工事は全て国内技術
さらに注目されるのは、02年7月に着工した第2期工事が、多くを外国技術に依存した第1期とは違い、すべて国内技術で遂行されたことだ。難工事の過程で18の特許を取得し、先端新技術・新工法に関する経験を積むなど、大きな付随的成果を手にした。
第2期区間128・6㌔は山岳地帯や田畑、河川、道路の上を通過する地点が多く、総距離の78%がトンネルや橋梁だ。橋梁は54カ所23・4㌔、トンネルは計38カ所74・2㌔に及ぶ。釜山市金井区老圃洞と東区草梁洞を結ぶ「金井トンネル」は国内最長の20・3㌔。
最も困難な工事は釜山市の中心部だった。東海南部線の真下を通過することで崩落の危険を恐れねばならず、釜山地下鉄1・2号線とは近距離で交差し、軟弱な地盤地帯も通らねばならなかったからだ。
高速鉄道の技術開発に着手した当時、韓国のレベルで可能だった最高時速は150㌔程度に過ぎず、先進国に15年ほど遅れていたという。車両や信号設備などで今なお遅れをとっているものの、その格差は現在、3、5年程度に縮まったと評価されている。
KTXの最高時速は300㌔台に入り、時速400㌔台の車両も開発していて、この面では先進3国と遜色ない。高速鉄道車両の国産化率は88%にまで上昇した。
韓国の最大の強みは、土木や軌道の分野での競争力だろう。施工経験が少ない面はあっても、技術面で先進3国に引けを取らず、価格面では有利だからだ。第2期区間の試運転の際、外国の技術者たちも「世界最高水準だ」と称賛を惜しまなかったという。
高速鉄道は、電動車など車両の開発・製造だけでなく、建設技術、信号・通信設備、保守・維持、運営システムなどの総合力が問われる。高速鉄道の輸出が可能とされている国は、日本、フランス、ドイツを筆頭に、韓国、スペイン、イタリア、中国ぐらいしかない。韓国は3強に迫る能力を蓄積してきた。
ひと足早くフランスのTGVを導入したスペインの場合、整備問題を自律的に解決できず、莫大な費用を支払いながらフランスに任せているのに対し、韓国は独自技術ですべての整備を行いながら、獲得したノウハウを韓国型高速鉄道車両の開発につなげた。
実績は学んだフランス凌駕
韓国は技術提供国であるフランスより、気候や地形が恵まれていないにもかかわらず、KTXの定時率(予定時間の5分以内に到着・出発する比率)が95〜96%に達するほか、維持・保守の関連技術、配車間隔などの実績でフランスを凌駕している。
韓国は現在、アイルランド、トルコ、カナダ、香港、中国など世界34カ国・地域で鉄道プロジェクトに参加している。競合国の中国においても、高速鉄道の一部路線の技術監督を韓国が担当している。今年に入って、英国の交通相が韓国の鉄道技術研究院を訪問し、高速鉄道に関する両国間協力を提案してきた。
しかし、韓国がいかに力をつけようと、国内の需要は極めて限られている。国内に残る高速鉄道工事は、五松‐光州‐木浦をつなぐ湖南線を含めて計333㌔とわずかでしかない。海外に進出しなければ、高速鉄道関連産業は行き場を失う。韓国はいま、ブラジルや米国のカリフォルニア州やフロリダ州への輸出実現に懸命だ。
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鉄道ルネサンスの世紀
原発上回る市場規模 総合力で引け取らぬ韓国
今21世紀は、かつて時代遅れの輸送手段と見なされてきた鉄道に対する投資ブームが起き、鉄道ルネサンス期に入ったと言われる。
ヨーロッパの主要国は、90年代から輸送交通政策のパラダイムを鉄道中心に転換させ、鉄道への投資を道路の2倍以上に拡大してきた。EU(欧州連合)の次元でも、汎欧州交通網(TEN‐T)の構築のために、今年までに交通投資総額1300億ユーロのうち85%を鉄道に回している。鉄道軽視の傾向があった米国でも、オバマ大統領は今年の年頭、8620億㌦規模の景気浮揚策の核心に、米国全域を連結する高速鉄道網の建設計画を発表した。
鉄道への需要高まるアジア
2006年の世界鉄道市場の総規模は、700億㌦水準で、鉄道車両だけでも420億㌦に及ぶ。同年の造船発注総額460億㌦と大差がない。韓国は造船で45%を超えるシェアを誇り、世界のトップを争う位置にあるが、鉄道産業では0・1%を占めるに過ぎない。
これは逆に、無限の可能性があると見るべきだろう。アジア地域は、人口と域内交易量の急速な増大すう勢にあり、それにともなって鉄道への需要も高まっている。伝統的な鉄道強国がそろう欧州では、今後5年以内に、老朽車両の入れ替えが大規模に行われる予定だ。
全世界の鉄道産業の市場規模は、原子力発電を上回る。輸出の道が開拓できれば、韓国経済の新たな成長エンジンになるのは間違いない。韓国にとって、絶好の機会が提供されている。
当面の勝負どころはブラジルだ。同国の核心都市であるリオデジャネイロは、サッカーW杯大会を14年に、夏季オリンピックを16年に開催する。同市からサンパウロを経てカンピーナス市までの510㌔を高速鉄道で連結し、2時間以内の生活圏にする計画がある。
この受注をめぐって仏・独・日・伊・中・スペインとともに韓国はしのぎを削っている。さまざまな隘路によって計画はすでに遅れているとはいえ、いずれはどこかが受注する。しかも、この受注成否が米国への進出を大きく左右すると見られているのだ。ここにきて先行していた欧州勢より、アジア勢が有利との観測があるなかで、韓国も背水の陣で臨んでいる。
独自の研究で土着化の技術
ブラジルの高速鉄道は、路線建設はもちろん車両製造、運営システム及び技術移転に至る全過程を統合発注する方式だ。
韓国の強い点は、短い工期が条件になれば、突貫工事の習熟度の高さが有利に働くことだ。外国から技術移転を受けながら、独自の研究開発を通じて技術を土着化させたことも魅力だろう。韓国はこのようなノウハウをブラジルに移転することができる。車両や運営システムがもつ価格競争力も武器になる。韓国は工期短縮、事業費削減、技術移転などをワンセットにして売り込むことができる。
しかし、KTXは動力集中式だ。ここに大きな問題点があるとの指摘がなされている。世界の最近のすう勢が動力分散式になっているからだ。欧州ではすでに、動力集中式は終わりを告げ、分散式の開発が始まっているという。
エネルギー効率の高い集中式は、長距離路線、停車駅の間隔が離れている場合は有利で、騒音も少なく維持・保守の負担が比較的少ないのが特徴だ。
これに対し分散式は、維持・保守が複雑な短所はあっても、気候や地形状の悪条件への対応力に優れ、短距離と停車駅間の間隔が短い場合は特に有利に働く。集中式は10両、15両など固定編成で運行せざるを得ないが、分散式は需要に応じて車両編成を変更できる強みがあるとされる。
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高付加価値の魅力
激しい競合 国際協調も
アジア勢のなかで日本は、全国新幹線鉄道整備法を設け、在来線高速化と新幹線直通路線を拡充して、今年までに輸送貨物の50%を鉄道に担わせる計画だ。ほかに、リニアモーターカーの軌道敷設も本格化させ、鉄道強国の立場をさらに強化している。中国も韓国より早い高速鉄道車両を、極めて低い価格で提供できる能力を備えた。
韓国が無限競争に勝ち残るのは生易しくない。フランスのシストラ、日本の海外鉄道技術協力協会(JARTS)のような、海外鉄道事業を支援するための官民合同の仕組みをつくる構想が浮上した。
建設工事、車両の開発・製造、保守・維持、運営システムのなかで、得意な分野に集中投資し、他国を凌駕する技術を確保することが急がれている。日本、フランス、ドイツ、中国のうち、何カ国かと共同会社を設立することや、プロジェクト別にコンソーシアムを結成して、海外市場攻略の突破口を見い出すことも検討されている。
韓国はどうしても、鉄道強国になる機会を逃してはならない立場にある。鉄道産業の世界化がもたらす利益は多様であり、製品が輸出される自動車などとは違って、鉄道の輸出は建設と技術人力の輸出が同伴する高付加価値産業だからだ。
より長期を展望すれば、中国との間の鉄道フェリー事業だけでなく、韓中、韓日間の海底トンネルの構想も浮上している。南北の鉄道断絶によって、韓国は島ならぬ島の状態にある。ユーラシアがすでに大陸鉄道時代に入っているにもかかわらず、そこから除外されている格好だ。韓半島の鉄道連結の主導権を、中国・ロシアをしのいで確保するためにも、鉄道強国への躍進が期待されている。
(2010.11.3 民団新聞)