掲載日 : [2010-12-01] 照会数 : 8471
<延坪島砲撃>総連同胞は今こそ覚醒を
[ 朝鮮高校の無償化手続き停止について述べる仙谷由人官房長官 ]
北韓軍の延坪島に対する無差別砲撃は、それこそ「無慈悲」な打撃を他ならない総連にもたらした。授業料無償化制度の朝鮮高校への適用獲得という、当面の至上課題を粉砕する直撃弾となっただけでなく、傘下同胞たちに北韓独裁と総連指導部に対する怒り、諦めを増幅させ、組織内部の亀裂をさらに拡大させた。
またも泣き寝入りか…〈無慈悲な打撃〉無償化吹き飛ぶ
ウソで固めた砲撃資料配る
総連中央は11月27日、「先に挑発を敢行したのは南朝鮮当局」であり、「共和国はこれに断固とした自衛的措置をとった」と強弁する「資料‐西海で起きた砲撃戦に対して」と題する文書を各級組織に配布した。
この文書は、民間人の居住区域や施設を特殊爆弾で狙い撃ちし、死者を含む膨大な被害を出したことについても、詭弁を弄してはばからない。「延坪島住民たちは全て、我が方の1次砲撃後、防空後に退避した」、「(死亡した2人は)民間人だと言うが、延坪島住民ではなく、島に駐屯する傀儡海兵隊の軍事施設工事に動員され、本土から来た者であり、軍事施設内で砲撃されたものだ」
総連同胞たちは、3代世襲の公然化に対して「ますます頭がおかしくなった」と嘆くことはあっても、さほどの関心を示してこなかった。しかし、今回の砲撃事件では少なくない同胞が「あの国は気が狂った」と言い、憤りをかくさない。旧知の民団団員や元総連幹部らに、口々にこう語っている。
「問題の文書では、13時に南側が1次砲撃、14時34分に共和国側1時砲撃などと書いているが、いつもの事実を装った嘘八百だ。総連は国の言いなりになる組織でいいのか」「今回の文書でも、南を叩いてはすぐに、中国の庇護の下に逃げ込む姿がありありだ。何が自主の国か」
「『民族同士』を唱えながら、民間人居住区をも曲射砲やロケット砲で狙い撃ちするとは。今回ばかりは南を団結させるだろう」「軍事訓練に対する警告なら、軍を狙えばいい。天安艦事件の場合とは違って、この砲撃は申し開きできない」「無償化問題も絡み、また子どもが犠牲になる。もうウンザリだ」
総連支配から離脱急ぐべき
総連の傘下同胞、なかでも朝鮮学校に子弟を通わせる同胞たちは、各級組織や朝鮮学校に、肖像写真の掲示など3代世襲の合理化キャンペーンをいずれは強いられ、それが無償化問題に影響することを恐れてきた。こうした心中を嘲笑うかのように、北韓は超弩級の《砲弾》を総連社会に撃ち込んだことになる。
仙石由人官房長官は11月24日の閣議後の記者会見で、韓半島情勢の緊張に触れ「(朝鮮高校への無償化について)現時点では手続きを停止することが望ましい」とし、高木義明文部科学相も「今回の事態は正常な教育、平和を揺るがす問題だ。重大な決意で望まねばならない」と表明。菅直人首相も、文科相にプロセスの停止を指示したと明らかにしている。
無償化問題で文科省は朝鮮高校10校に対し、制度適用に必要な書類の提出を求め、11月30日を締め切りに10校からの申請を受け付ける段階にあった。日本の世論が示した様々な懸念や強い反対にもかかわらず、文科省内部では砲撃事件前までは適用することが既定路線であり、あとは審査を残すだけだったとされる。
これがストップしただけではない。砲撃事件はまた、朝鮮学校に公金を補助してきた地方自治体のなかに、その支給を留保する動きを本格化させる可能性も生んだ。朝鮮学校の学父母の中には以前から、無償化要求は学校の実態をあからさまにすることになり、むしろ自治体の公金補助の打ち切りにつながりかねない、との懸念があった。その現実化さえ取り沙汰されている。
総連同胞の間ではかつて、変革を求める組織的な行動がたびたび公然化した。しかし現在は、個々の怒りがなかなか塊まりにならない。そこには、離脱すべきは離脱して組織が縮小したこと、如何なる努力をしても総連組織に希望が見い出せないことなどが理由としてある。
それでも「ウリハッキョ(我らの学校)」の存在は別格であり、教育内容を健全化して存続させたいと考える総連同胞は多い。だが、それも力にならない状況がある。
朝鮮学校は1970年ころまで、全国150余校を数え、4万人近い生徒を抱えた。現在は70校、8000人前後に減少した。総連幹部か組織と利害関係をもつ同胞の子弟が中心になっている。内部からの変革要求が育ちにくい状態に置かれているのだ。
文科省はこの間、歴史・社会を含む全教科書の提出を要請し、教育内容の自主的改善を促す構えを見せてきた。これに対して総連指導部は、北韓当局の指示そのままに、「当局の条件を断固拒否し、無償化が通らなければ、徹底抗議するのみ」「各校が無償化申請をしても、厳しい条件が付けば、取り下げる」との方針だった。
これに学父母たちの一部が反発、「教育内容を変えてでも無償化を獲得すべきだ」と主張してきた経緯がある。しかし結局、学校側は総連の支配下にある現実を改めて印象づけ、自らの実体と限界を示すことで終わった。
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朝鮮高 校長会の声明 砲撃を合理化
問われる教育者の資格
全国朝鮮高級学校校長会と関連団体が11月25日、記者会見をもち、発表した「無償化手続き停止は理不尽」とする緊急声明はこう言う。
「朝鮮高級学校に通う生徒たちは、朝鮮籍と韓国籍、日本籍をもつ在日の子弟たちであり、彼らは日本に永住しながら民族的素養と誇りをもって日本の地域社会に貢献し国際社会でも活躍できるよう勉学に励んでいます。このような生徒たちとその都度起こりうる朝鮮半島の事態はまったく関係がありません」(※注=韓国籍は6割を超えるとされるが、便宜上、朝鮮籍から変更したに過ぎない)。
砲撃事件については、「遺憾」という言葉一つ盛り込まず、あろうことか《その都度起こりうる事態》として片付ける神経はまともでない。教育者・教育機関として失格であることを自ら認めたに等しいと言うべきだ。
北韓は6・25韓国戦争はもとより、主なものだけでも韓国大統領暗殺を狙った青瓦台襲撃ゲリラ事件(68年)、韓国大統領一行を一挙に爆殺しようとしたアウンサン廟事件(83年)、韓国人労働者らで満席だった大韓航空機の爆破事件(87年)、そして今年3月の天安艦撃沈事件と、おびただしい同胞の犠牲者を出してきた。
《その都度起こりうる事態》とはすべて、北韓が卑劣な手法で一方的に引き起こしたものだ。韓国は「やられっぱなしでいいのか」という葛藤に耐えながら、ただの一度も軍事的な報復をしていない。反省するどころか、それら事件について韓国の先制攻撃説、自作自演説を流布する卑劣な行為で一貫してきたのは北韓であり、総連である。
朝鮮高校の現代史教科書は、韓国戦争を韓米による侵略戦争、大韓航空機事件は韓国の自作自演と教え、日本人拉致問題は民族的排他主義を煽るために極大化されたものと歪曲する。半面で、金日成・正日親子の偶像化は徹底しており、そこに3代目礼賛が加わるのも時間の問題だ。
自分が学んだ朝鮮学校に子どもを通わせていたが、数年前に日本の学校に転校させた韓国籍の同胞は、「総連は民族教育を聖域化し、それを盾に組織を守ろうとする。子どもたちの人権を言いながら子どもたちを気の毒な環境に置いているのは自分たち自身だ」と指摘、「民族教育の方途は多様であり、場はいくらでもあることを知るべきだ」と語る。
「朝鮮学校は総連組織の支配、即ち北韓独裁の統制から離脱すべきだ」と考える総連同胞は少なくない。「そうでなければ、未来がない」とも言う。そうした個々の心情が組織的な行動に結びつかなければ、確かに未来はない。学校に愛着を持つ総連同胞にとって、今が正念場であろう。
(2010.12.1 民団新聞)