新韓銀行の設立は、韓国経済の発展に貢献してきたことを自負する在日同胞たちにとっても、格別に意義のある大事業だった。貿易立国を支える製造業を中心に投資してきた在日同胞は、そこから一段飛躍し、より高度な金融サービス業にまで進出したのだ。在日同胞たちは虐げられ、疎外されてきた歴史の経験から、祖国の発展にいっそう寄与することで自身の栄誉をも獲得したい、との思いを新韓銀行に託したのである。
新韓が韓国金融界の旗手として羽ばたき、目覚しく躍進する姿は、先進諸国と比べて金融力の弱い韓国にあって、新韓こそグローバル構想を成功させ、祖国先進化に寄与できる金融機関であるとの誇りを抱かせるに十分だった。
それだけに、昨年9月からの「新韓事態」(持株会社社長が横領・背任の疑いで内部から告訴されるなど、上層部のアツレキが表面化し、責任経営陣が辞任した)は、「新韓らしからぬ醜態」として、在日同胞社会に大きな衝撃をもたらした。
新韓金融持株会社は14日、次期会長選任のための特別委員会を開き、韓東禹・前新韓生命副会長を内定し、正常化へ一歩を踏み出した。91年から昨年まで銀行長、持株会社会長を歴任し、新韓の躍進を牽引してきた羅應燦氏の後を継ぐ韓次期会長に聞いた。
透明性高め信頼回復
韓国随一の挑戦精神と熱情で
−−新韓金融グループの昨年の紛糾事態は、超優良の名声を得ていた新韓のイメージを大きく損ねた。険しい波濤のなかの船出だ。
韓 微力な私に、グループを再建せよとの重責が与えられた。約28年にわたって奉職した新韓マンとして、強い責任意識と使命感を抱いている。この間の紛糾事態によって、大韓民国で最高の金融グループというブランド価値を傷つけ、組織が分裂した印象をもたらしたことは極めて残念だ。かつての新韓にいち早く立ち返り、在日同胞の皆さんが誇りに思える新韓らしい姿をお見せしたい。
一連の事態はある意味で、30年の間、前だけを見て走ってきた新韓金融グループが、よりいっそう剛健で優良な金融会社に飛躍するための、「陣痛」あるいは「成長痛」ではなかったか、と受けとめている。私自身が先頭に立って、新たに出発する覚悟で望む。
新韓グループにはまず、挑戦精神と熱情、自負心で武装した優秀な役職員たちがいる。金融界で最高水準だ。しかも、韓国の金融グループのなかで最も多角化した事業ラインをもっており、銀行と非銀行の分野を問わず、収益構造が安定した形で構築されている。
このような強みを土台に、役職員たちと力を合わせ懸命に働けば、もう一段、跳躍することができると確信している。
−−組織が二分されたとの指摘がある。これをどうまとめていくのか。
分派主義は放置しない
韓 今回の事態で最も胸を痛めたのは、羅應燦前会長に対して《親羅》、《反羅》という構図があったことだ。新韓精神で固く団結していたのに、なぜこうなったのか理解に苦しむ。
兄や父母のような心で、全員を包容するつもりだ。それにもかかわらず、分派主義が現れるとすれば放置しない。職員たちの能力や組織愛が高度なだけに、上層部が率先垂範すれば早い時日内に解決できると思う。
−−経営の統括構造について、すでに制度改革があったと聞いた。
韓 新韓金融特別委員会で昨年12月、最高経営陣の間に葛藤を生じさせないために、会長と社長の共同代表理事体制だったものを、会長の単独代表制に変更した。外部出身者が会長になれば、組織内部をよく知る社長を代表理事に選任しなければならないが、両者が内部出身者であれば会長1人が中心の単一体制が適切だと思う。
−−新韓グループの今後をどう率いていくのか。その柱は?
4つの事業力点置いて
韓 新韓グループはこの間、最高の金融グループとして成功神話をつづってきた。特に過去3年、韓国の金融持株会社のなかで最も優秀な成果をあげた。新韓が世界の先進金融機関と肩を並べるまでに成長するよう、会長に就任すれば4つの事業に重点を置きたい。
第一に、グループの経営統括の透明性を高める。この間に表面化した問題点を改善するために、グループ上層部の人事と評価の透明性を確実にする。グループ発展のために黙々と献身し、成果を出している人材がいっそう認められ、リーダーになる体系を確立するつもりだ。
第二に、新韓のブランド価値を復活させる。分裂気味のグループ構成員が一つになり、新韓の誇りを持って再び団結できるよう先頭に立つ。
第三に、顧客と株主の信頼を必ず回復する。「清潔で公正な銀行」というイメージや顧客と株主たちの信頼を揺るがせたことは、私たちにとってあまりにも胸の痛いことだ。使用可能なあらゆる方法を持って、信頼関係を堅固にする。
第四に、グループ経営が正しくできているか、正すことはないのか、未来への対応は万全なのか、早急に直接点検する。一連の事態の影響で経営や営業活動に集中できないような状態に終止符を打つ。
創業理念胸に刻み
グローバル金融へ飛躍期す
在日同胞の思いに感謝
−−在日同胞は、新韓に格別な思い入れがある。紛糾事態を見ながら、期待を裏切られたと感じ、まともな説明を聞けないことに寂しい思いをした。韓次期会長は、各地で在日の株主たちと懇談した。
韓 今回、2泊3日という短い日程で来日したが、大阪、名古屋、東京にいらっしゃる在日の株主皆さんとたくさん会うことができた。
私は今、会長内定者に過ぎないので、私からあれこれ言うよりは、同胞皆さんが寂しく思われていることが何なのか、おっしゃりたいことは何なのか、これからの新韓にかけられる期待はどのようなことなのか、これらについて多くの見解を聞くスタンスで臨んだ。
その過程で、在日同胞の皆さんが新韓を如何に愛していらっしゃるか、今回の事態に対してどれほどの衝撃を受けられたか、また、期待が如何に大きいかも改めて思い知らされた。私に対しても、勇気と力を与えてくれる温かい言葉を寄せてくださった。
特に、懇談会の席で私の手を握り、「一生懸命やりなさい。力いっぱい応援するから」という言葉をいただいたときは、本当に嬉しかった。一方では、今後、私が在日同胞皆さんの期待に応えるために、どれほど熱心に仕事をしても足りないとも強く感じた。
私をはじめ「新韓家族」の全員が、在日同胞皆さんの新韓に対する尽きることのない関心と愛情を絶対に忘れていないことを、この紙面を借りて申し上げたい。
−−韓会長は新韓銀行の創立メンバーだ。また、人事部長として人材を確保し、関西興銀と連携して職員教育に力を注いだと聞いている。創業理念をどう考えているか。
韓 1982年、故国の経済発展のために、「銀行らしい銀行、顧客に仕える銀行」を創ろうという在日同胞皆さんの創業理念は、今現在もなお、新韓金融グループのいたるところで息づき、すべての役職員の胸のなかに刻まれている。
その崇高な精神を原動力として、新韓金融グループは創業4半世紀で名実兼ね備えた大韓民国の最高金融グループとして聳え立ったと言える。私たちは永遠に、創業理念を継承する決意だ。
「顧客中心相互尊重」
新韓グループが過去30年の成功神話を超えて、21世紀に真の意味でグローバル金融機関として跳躍するために作成した「新韓2・0戦略」にも、その精神が色濃く反映されている。
「新韓2・0」は「顧客中心」「相互尊重」「変化主導」「最高志向」「主人精神」で代弁される新韓精神を中心に、在日同胞皆さんの創業精神を継承しながら、パラダイムの変化に合わせて、新たに要求される要素を取り入れ、「新韓Way」として定立した。
既存の創業精神をもう一段階発展させるものだけに、期待していただいていいと思う。
−−韓会長は、「グローバル金融として飛躍する礎を築く」と抱負を述べている。
韓 グローバル事業は、グループの新たな成長動力を発掘する次元で持続的に推進しなければならない。グループの中長期戦略と今年度の経営計画のうち、未来投資が要求される分野が選定されている。
現在、合わせて14カ国59拠点のネットワークを持つグローバル事業は、基礎的な外形基盤を確保する次元で、積極的な海外市場の調査を通じたネットワーク拡張を推進し、グローバル事業の成果を示現する段階においては、推進方向性と内部力量を点検し、選択と集中を通じた核心市場中心の力量強化と、銀行外部門の事業多角化を通じた均衡性のある発展戦略を推進している。
これからも、成長動力の整備と多角化の次元で、持続的に人的力量及び事業推進基盤を強化し、SBJ銀行が日本で成功しているように、内実あるグローバル事業になるよう計画している。
−−韓信協(在日韓国人信用組合協会)及びその会員組合と、SBJ銀行との協力関係をどう築くのか。
韓信協組合常に同伴者
韓 韓信協とその会員組合は、在日同胞社会において金融の求心体としての役割を担っており、一部の困難にもかかわらず、その役割を継続していくと考える。
過去の新韓銀行在日支店の時代だけでなく、SBJ銀行の開業以後でも、韓信協こそ在日社会の発展と繁栄のために持続的に協力していく良き同伴者だとの考えに変化はない。
信用組合と銀行としてのそれぞれの特性を十分活用し、お互いの不足部分を補い合いながら、多様な分野で相互協力していけば、在日同胞社会と韓信協、そしてSBJ銀行がともにウィンウィンの関係になるものと確信する。
今後も民団は支援を
新たな30年へ株主の声を反映
−−民団は在日同胞の結束のもとに、新韓グループをこれまで以上に応援したいと考えている。民団を中心とした在日同胞との今後の関係は、どうあるべきだと思うか。
紛糾事態は深くお詫び
韓 新韓金融グループは、母国の金融経済に貢献しようとする在日同胞の崇高な思いによって出帆して以来、皆さんの限りない声援と信頼を土台に、30余年間、大韓民国の金融史に燦然たる画期を記し、最高の総合金融グループに成長することができた。
しかし遺憾なことに、昨年発生した思わぬ事態によって、在日同胞に少なくない失望を与えた。会長内定者として、在日同胞、特に株主の皆さんに頭をたれてお許しを請うと同時に、今一度、新韓に対する支持と声援をお願いしたい。
新韓銀行が株主と民団を中心とした在日同胞の力を集めて創業されたことは、当時私も創業に参与した1人として忘れるものではない。在日同胞と新韓は、切っても切れない血盟の関係にあることをすべての役職員がよく承知している。
このようなしっかりした素晴らしい関係は、これからも続くべきだと言うのが私の所信だ。民団を中心とする在日同胞社会の信頼と支持はこれからも、新韓がグローバル金融機関として跳躍するにおいて、大変重要な要因になる。
私たちの最もしっかりした後援者である在日同胞社会の、支持を引き続き確固とするためにも、今後も多角的な努力を傾ける。新韓の新たな30年を切り開くために、常に皆さんの声に耳を傾けながら、民団と在日同胞株主の意見が未来図に積極的に反映できるよう努めたい。
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新韓金融グループ
現・新韓金融持株会社の母体であり、中核である新韓銀行は1982年7月、在日同胞の100%出資によって、韓国で最初の純民間銀行として出帆した。しかも、職員の多くが韓信協(在日韓国人信用組合協会)の会員組合であった旧・関西興銀(李熙健会長=当時)で厳しい研修を受けたことで知られる。
資本金250億ウォン、役職員279人、店舗3という小さな規模ながら、在日同胞の精魂を込めた同行は、顧客優先のサービスを全面に推し立て、権威主義的で排他的ともいえた韓国の金融風土に風穴を開け、「新韓」の名に込めた思いそのままに新風を巻き起こした。新韓銀行は現在、国内981店舗、海外14カ国53店舗を有し、役職員は1万750余人を数える。
在日同胞の出資者たちは、安定株主として絶対的な存在でありながら、資本と経営の分離を徹底し、経営は全面的に専門家に任せ、長期的な展望に立った経営を保障したことも新韓の大きな成長要因になった。
預金高が1兆ウォンの大台に乗ったのが創業4年目の86年。91年には5兆ウォンを突破した。先発他行に比べて驚異的な速さだ。90年代に入ると多角化を進め、成長にいっそうの拍車をかけた。2001年には新韓金融持株会社として新たにスタートし、老舗大手の朝興銀行、LGカードとの大型M&A(吸収合併)も成功させた。
証券・保険・クレジットカード・投資顧問などの子会社を有し、新韓銀行の支店や海外現地法人はインド、ベトナム、カンボジア、米国、中国、カナダなどに拡大した。日本の現地法人・SBJ銀行は09年に営業を開始、東京、横浜、大阪、福岡に6店舗を置いている。
新韓金融グループは、新韓銀行のスタート年を除き、昨年まで一貫して純益黒字を達成してきた。97年末からのIMF危機、03年のクレジットカード地獄、09年の世界同時金融危機に際してもその基調は変わらず、持株会社になってからの9年間で純利益規模は9・8倍になった。昨年も紛糾事態をよそに、当期利益を前年比82・6%増の2兆3839億ウォンとし、3年連続で業界トップとなった。
(2011.3.8 民団新聞)