この間の南北秘密接触が決裂し、北韓が最近これを暴露したことで、6者会談より南北対話を優先させてきた韓米日3カ国の対北交渉が再点検を迫られているという。3カ国の結束は固く、南北対話優先の路線は変わらないものの、北韓のウラン濃縮による核兵器開発の加速化を放置できない事情がある。韓国にしてみれば、従北・親北勢力らによる南北対話の本格再開を求める圧力も無視できない。来年に国会議員選挙と大統領選挙を控える韓国と、「強盛大国」の大門を開くとしながら困窮を極める北韓の、我慢比べの様相を呈してきた。しかし、複雑であるかのように見える事態も、北韓の対南・対外交渉の本質、ある種の法則性を知れば、意外と分かりやすい。北韓は得意の瀬戸際外交で韓国を振り回しているようでいて、その効果は明らかに逓減しており、焦りを隠すことができなくなっている。
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「外交巧者」という幻想
韓米日の結束固い…撹乱通じず自ら窮地招く
韓国に亡命した元朝鮮労働党秘書の故・黄長氏は、北韓の対外交渉技法は特別な理論的裏付けがあるのではなく、「自己の利益は最後まで貫徹する」「相手側からはより多くを奪う」の2つを原則にしているだけと語った。外交・交渉には「信義」と「妥協」が付き物とする一般的な見識とは正反対というわけだ。
1953年7月の休戦協定以降の主要な南北交渉は、1971年の離散家族再会問題を解決するための赤十字会談、72年の7・4南北共同声明を準備した秘密接触、92年に発効した南北基本合意書(南北間の和解と不可侵及び交流・協力に関する合意書)、韓半島非核化共同宣言をまとめた90年からの南北高位級会談(総理会談)、そして2000年の6・15共同宣言、07年の10・4共同宣言に至る公式・非公式のものがあった。
韓国側主張貫徹わずか
これらのうち、韓国側が主張を貫徹できたのは基本合意書くらいである。この基本合意書さえ北韓は履行せず、死文化させた。
黄氏によれば、80年代末から東欧共産諸国の崩壊ドミノ現象が起き、この世界史的な変化に恐れをなした金日成が南北会談を通して一時しのぎをしたに過ぎないという。基本合意書を初めから守るつもりはなかったというのだ。
かつての東西冷戦時代、東側諸国は交渉で原則的合意に到達しても、後日、履行する段階で一方的な解釈を全面に立て、履行を妨害するなどして暗礁に乗り上げさせ、再解釈のための再交渉を要求し、この過程で合意事項を一方的に破棄することも珍しくなかった。
北韓の交渉技法はその範疇にあり、4段階に分けることができる。
1段階(事前準備)=相手方の本音を把握するための間接的なアプローチ段階。特定懸案に関する声明戦などを行い、政界・言論界・財界など第3者も活用し、自己の立場強化に向けて相手側の世論を誘導する。会談の不成立、交渉決裂にも対応し、相手側に責任転嫁する措置を考究しておく。
一方的解釈常に強要し
2段階(会談での主導権掌握)=チェスや囲碁の勝負と同じように、自分たちが先手、先手と攻め続け、相手が必ず後手に回るようにする。自分たちの内心は極力伏せ、相手側の考えを最大限に引き出す。武力による威嚇、会談を決裂させるとの脅迫、誹謗中傷など心理戦を展開し、相手側の結束を乱して政治葛藤を増幅させ、代表団の立場を弱体化させる。
3段階(取引及び終結)=自分たちが堅持してきた原則的立場を再闡明しながら、相手側がすでに原則的立場を受け入れたかのように既成事実化し、これを合意事項として迅速な公式化手続きを要求する。合意に到達しなければ、責任を相手側に転嫁する。
4段階(会談以降)=合意事項を都合よく解釈して行動に移し、合意内容を変質させる。合意事項の実質的履行より「合意の精神」を優先し、自分たちの一方的解釈を相手側に強要する。
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古典的マッチポンプ
挑発と対話で交互に攻勢…中国も擁護に限界
外交交渉は一般的に、「友好的交渉」と「敵対的交渉」に分かれる。過去10年の南北交渉は、「友好的」な韓国と「敵対的」な北韓の図式が明瞭だった。
南北対話の基本性格は「敵対的交渉」にあるにもかかわらず、韓国は民族的な情緒にとらわれて彼我を識別する能力を欠き、非専門的な接近方法に依存しただけでなく、歴代政権が南北対話を政治的に利用したことで挫折を連続させた。
以上は、72年の南北共同声明に基づいて設置された南北調節委員会のソウル側代弁人に就任して以来、南北高位級会談代表兼代弁人など20余年にわたって対北交渉に従事した李東馥氏(北韓民主化フォーラム代表)の指摘だ。
北韓の交渉技法の実態を端的に示すものがある。北韓外務部の軍縮・平和研究所のスポークスマンが先月6日、韓国が言う「制度統一」は「吸収統一」だと非難した談話(朝鮮新報5月11日付による)がそれだ。
そこでは、「周辺諸国が朝鮮半島の統一に心から関心があるなら、既に6・15北南共同宣言を通じて内外に厳かに宣明された連邦制統一方式に注目を払うべきだ」とし、これこそ「北南制度の共存を前提としているので現実性が保障され、戦争を防ぐことのできる最善の平和統一方途」だと強調した(連邦制については別掲)。
唯一無二の統一案に?
6・15宣言には確かに「連邦制」の文言がある。だが、正式には「南側の連合制案と北側の緩やかな連邦制案には共通性がある」とされているに過ぎない。連合制を無視し、連邦制を唯一無二の統一方案であるかのように喧伝する姿勢は、4段階にある「合意内容を変質させる」典型である。
今ひとつ、「合意事項の実質的履行より、『合意の精神』を優先」する端的な事例についても指摘しておくべきだろう。
6・15宣言における離散家族再会など、火急で人道的かつ基礎的な合意すら反故にしておきながら、宣言第1項にある「わが民族だけで」の文言を誇張・活用し、「『わが民族同士』の理念」を金科玉条にしていることがそれだ。これは、韓国側を縛り付ける名分となり、連邦制を推進する扇動フレーズとなっている。
ちなみに、6・15宣言以降、最高民族連邦会議のひな形として北韓が結成を主導した南・北・海外地域からなる6・15宣言実践委員会は、韓国政府をスルーして統一戦線方式で韓国国民を直接操縦しようとするものであり、北韓が韓国との敵対的交渉で常に有利を確保しようとする技法の一環だ。
談話ではまた、「昨年、戦争の瀬戸際にまで至った緊張状態の根源が南朝鮮当局の対決姿勢にあることを知った国際社会は、北南対話を再開して対決雰囲気の解消に関する声を引き続き高めている」と吹聴し、「(南朝鮮当局は)対話と協議の再開に関する内外の圧迫に苦しんでいる」とも言っている。実に古典的なマッチポンプの手法だ。
不発だった窮余の一策
北韓はこの間、対話攻勢と武力挑発を並行してきた。戦争危機を煽っては対話推進世論を造成して韓国を揺さぶり、政治的な葛藤を煽るためだ。2段階の心理戦の最たるものと言える。天安艦撃沈、延坪島無差別砲撃にもかかわらず、韓国が南北対話再開のために昨年末から進めてきた秘密接触を、北韓が暴露する挙に出たのもそうだ。しかし、焦りがゆえの窮余の一策は不発に終わった。
北韓は90年代前半の第1次核危機によって、米国との2国間交渉を実現させ、核不拡散条約(NPT)に残留するとの何のことはない「言葉だけの約束」を持って、ジュネーブ枠組み合意を引き出し、軽水炉建設と重油、食料などを得た。その後、ウラニウム濃縮核開発を開始し、第2次核危機以降、核問題解決のための6者会談をもてあそびながら06年、09年に核実験を強行した。そして現在も、核兵器開発の進展を公言し、6者会談の拒絶・参加意志を交互に表明しながら、関係国を揺さぶっている。
国際社会は制裁で対応
核開発などで緊張醸成‐韓米との会談誘引‐経済支援引き出し‐核開発アップグレード‐国際社会の制裁強化‐会談退場‐武力挑発‐経済支援復活‐会談復帰。北韓の核交渉はこうしたサイクルを描いてきた。
しかし、国際社会の態度は硬化し、制裁が強化された。韓米日3国の結束も固い。韓国自身も北韓に押し切られてきた過去の韓国ではない。中国も北韓を公然とは擁護しにくい状況にある。
一時的に多大な「戦利品」を得た瀬戸際外交は、その効果を逓減させている。世論が大きな力をもち、国民が政権を選択できる国にとって、世論はなく、国民に政権選択の権利がない国との交渉は当初から困難がともなう。しかし、そのような独裁国家にも限界がきたのは歴然としている。
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連邦制案のからくり
独裁維持を最優先に…韓国を絡め取る戦略
北韓が初めて連邦制を提議したのは1960年8月。「民主主義的な基礎の上での自由な南北総選挙の実施が平和的祖国統一の最も合理的かつ現実的な道」であるとし、「南がこれを受け入れがたいとするならば、過渡的な対策としての南北連邦制の実施」を呼びかけるものだった。
ところが、80年10月に提起された「高麗民主連邦共和国統一方案」には南北総選挙と連邦制以後の体制について一切言及がない。60年提議で自ら、連邦制を過渡的な対策としていたことには頬被りしたまま、それをもって南北接合の最高形態とし、実質統一を忌避して自身の独裁体制維持を優先させる意図を露骨に示した。
「戦争を防ぐ」も虚構でしかない。統一の前段階としての連合制案では、南北は独自国家として国防権を含む国家主権を有し、それぞれの同盟関係も維持される。これに対し、最終形態としての連邦制案は、南北の軍を統合して単一の民族連合軍を組織し、連邦政府が統一的に指揮する。連邦はいかなる政治的・軍事的同盟やブロックにも参加しない中立国となる。
北韓が持論とする連邦制では、最高意志決定機関は南北同数の代表と適当数の海外同胞代表からなる最高民族連邦会議であり、そのもとに設けられる連邦常設委員会が政府となる。南北の軍事組織はそれぞれの地域に駐屯したまま民族連合軍(連邦軍)を構成、常設委の下に統合司令部が形式的に置かれるだけだ。
連邦政府が形だけとはいえ、主権を有する連邦内部の戦乱は内戦であり、国際社会は容易に介入できない。しかも、連邦制下では当然、駐韓米軍は存在が許されない。国家保安法も廃止されているはずであり、北韓独裁に追従するいわゆる従北・親北勢力はこれまで以上に、大手を振って活動できる。連邦制案とは統一戦線方式によって韓国を絡め取る戦略以外の何物でもない。
(2011.6.29 民団新聞)